第6話 曲のデザイン
「ちょっと引っ張るな!」
「善はいそげー!」
週明け一発目、朝のホームルーム前。
僕は八木に腕を引っ張られている。
事は昨日の夜に
昨日の夜、『みゅーじっくあそーと!』に招待したい人が見つかったと八木から連絡があった。
朝の内に加入を呼びかけるから、月曜日は早く学校に来いと言われた。
言われた通りに早く学校に来たらこれ。
僕自身も意味が分からない。
「意味が違う気がする!そんなことより離せ!」
僕が腕を
「急ぎたくなる気持ちは分かるが、腕を
「ごめんさ〜い」
「反省してないな」
「バレた?」
全くこれだから……。
椿みたいな奴だな。
僕が、歩こうと言うと八木は素直に聞いてくれた。
この辺は椿よりも扱いやすいかもしれない。
「それで?誰なのさ、招待したい人ってのは」
「ぬふ〜ん、えっとねぇ、デザイナー!」
「デザイナー?」
デザイナー……。
八木は一体何を考えているのだろう。
そんなこんなしていると、八木がある教室の前で止まった。
このクラスの人なのか……?
「お〜い、菜花〜」
なぜこいつは朝っぱらから大声で教室の中に呼びかけることが出来るのだ?
陽キャは怖い……。
「おっはー彩芽、どうしたの?朝早く来いって言われたけど」
「ちょっと話したいことがあってね〜、っと、その前に玲桜に紹介してあげないと!」
八木は僕に目の前に立っている女の子について紹介しようとしたが、それは必要なかった。
張本人の女の子も
「菜花とは割と仲が良いからな」
「いえ〜す」
この子は
何度かクラスが同じになったことがあって、
「ふ〜ん。じゃぁ、菜花がデザイナーを目指してるってことは知ってる?」
目を細めて八木が僕のことを見てくる。
「……知らない」
「ウチの勝ち」
勝ち誇ったような顔になっているが、僕は勝負しているつもりは全く無いんだが?
「まぁ確かに彩芽とは親友だけど、別に天ヶ瀬クンはそこ競って無いでしょ」
ウンウンその通り。よく分かってるじゃないか。
って、デザイナー!?
「え、菜花、お前デザイナーなの!?」
「そんな大したもんじゃないけどね〜。一応のデザイナーで〜す」
「それで菜花を招待しようってわけ!」
「聞いてないんだが!?」
「言ったじゃん、見つかったって」
「そっちじゃない!」
菜花、こいつデザイナーだったのかよ!
「でも、どうしてデザイナーと作曲部が繋がるんだ?」
「まぁまぁ待ちたまえ、玲桜」
なんかムカつくな。
「そもそも、音楽というのは芸術だ」
「知ったことのように言うな」
「その芸術を、いかに美しく爆発させるか!これが肝だと思わないかい?」
「……? ……そうだな」
「そのためのデザイナーだ!」
……?
理由になってないし、具体的なことを何も言ってない。
しかも、美しく芸術を爆発って矛盾してないか?
あの芸術家、「芸術は美しくあったらいけない」みたいなことを言ってなかったか?
「具体的に説明してくれ。なんのこっちゃ分からん」
「ミュージックビデオを作ってもらう!」
「?」
ミュージックビデオ = デザイナーって事でいいのか?
どちらかと言うと「≒」じゃないだろうか。
もはや「≠」な気もするが。
「つ・ま・り!……そういう事だ」
「ちょっと待った!そんな説明じゃ菜花にも失礼……」
「おっほん!二人とも餅をつけ」
菜花の言葉で八木と僕は静かになる。
ん?餅?
菜花は気にしていない。
「詳しい話は聞いていない、が、何となく分かっている。そう心配することじゃない」
心配だろ。
菜花はまたもや気にせず続ける。
「ちっぽけながら、一応デザイナーをやらせてもらっている。だからこそ、この私に曲を可愛く映えさせてくれ、と彩芽からは説明された。なにか補足はあるかい?」
なんだ、ちゃんと説明してるじゃないか。
大まかだが。
それにしても案外すんなり行くもんだな。
もしや菜花も椿と同じタイプの人間なのか?
「いやー、校長に直談判なんて、人数多いほうが良いからね〜。仲間が増えて助かるよ〜」
なんで八木はどこまでも呑気なんだ?
八木は呑気な一方、菜花が固まっている。
「どうした、菜花?」
「こ、校長ーーーー!?」
菜花がいきなり叫んだ。
「聞いてないんだが!?そんな事!?」
……八木めぇ、こいつ……!
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてない聞いてない!あんたら馬鹿なの!?」
菜花は呆れたような、怒っているとも捉えられうような顔で声を上げる。
ただ、八木を叱りたい気持ちの反面、菜花が常識人であったことに安堵する反面もあった。
校長に直談判なんて普通ありえないから。
なかなかクレイジーだと思ってるよ、僕も。
それなのに椿と八木はめちゃくちゃ平然としてるから僕がおかしいのかと思ってた。
でも良かった。僕がおかしいんじゃなかったんだ。
「めっちゃ面白そう!」
そうそう、もっと八木を叱りな……って、え?
「青春だー!入学早々こんな事に巻き込まれるなんて!ツイてるな〜、私!」
訂正する。菜花も椿と同じタイプだ。
こんな感じの場面、数日前に見た気がするんだが、気のせいだろうか。
「加入加入!よろしくね〜!」
やっぱり僕がおかしいのか?
僕が不安になっている間も、女子二人は賑やかに騒いでいた。
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