第7話 僕がおかしいはずが無い

 おかしい。

 僕がおかしいはず無いのに、僕がおかしいみたいな雰囲気。

 おかしい。


 あの日の昼休み、菜花にしっかり説明した。

 椿も一緒に。

 僕も隣で聞いていた。

 相変わらずぶっ飛んだ計画だなと思いながら。

 なのに!なのに菜花は平然とニコニコしていた。

「楽しそう!」だとか、「青春だー!」とか言いながら。

 僕の知っている菜花は、頭が良くて、冷静沈着。

 クラスでは二軍くらいで、そこそこの陽キャ。

 そんな菜花がこの通り。

 やっぱり僕がおかしいのだろうか。

 世界は広い。ワールドワイドってやつだろうか。

 不安だけど、なにかと楽しいかもしれない。

 あ、勘違いしないで欲しい。僕は常識人だ。椿とはちょっと違う。

 自分が常識人であることを再認識した僕は、仲間を集めるため、ぽかぽかした陽気が漂うグラウンドの隅で、ある人物と待ち合わせをしていた。


「よぉ〜っすアマレオ〜、お待たせ〜」

「お待ちです」

「なんでやねん!普通、『全然待ってないから〜』やろがい!」

「テンプレカップルかよ」


 機嫌がいい時に関西気質になりがちなこいつは吉岡よしおか桃李とうり

 僕の名前、あまがせ れお の頭文字を取って、『アマレオ』と呼ばれている。

 桃李がボケる度に僕がツッコミをすることになったのはいつからだろうか。


「早速だが、今日の本題」

「ほう」

「一緒に部活を新設しないか!」

「なるほど!?」


 そんな桃李を『みゅーじっくあそーと!』に招待したい理由はただ一つ!

 センスが良い!

 服もオシャレ。ノートをまとめるのも上手いし、その辺へのこだわりもしっかりしている。

 そこで、桃李が持っているセンスを借りたいという算段だ。

 編曲は、曲全体を上手く纏め、調整し、曲をより良い物にする必要がある。


「ということだ」

「何も分からん」

「どうして?」

「一から説明してくれ。センスが良いのか、ありがとう。編曲をやってくれ、『みゅーじっくあそーと!』で。これだけ聞いて、誰が理解できる?」


 おっと、椿たちと同じ基準で話していたせいで、詳しい説明を忘れていた。

 僕は桃李に補足で説明する。

 作曲部、別名『みゅーじっくあそーと!』という部活を新設したい、と椿が言ってきたので、その船に仕方なく乗ってあげたこと。

 作曲部では、皆で仕事を分担して一つの曲を創り上げたい。

 だから、センスが求められる編曲の仕事を、センスのある桃李にやって欲しいと頼んでいることを説明した。


「そしてこれを校長に直談判するんだってさ。クレイジーだと思わないか?」

「クレイジーだな!」


 良かった。桃李は常識人派だ。

 やっぱり僕がおかしいんじゃ無かったんだ。


「それで、どうする?」

「何が?」

「加入する?」

「早いな、おい!」


 早いか?

 ちゃんと一から説明したし、何も隠し事はしていない。

 中々の珍事だが、これだけ言ったのならわかるはずなんだがなぁ。


「お前って、本当に猪突猛進だな。椿

「いや、それはない。僕は常識人だ」

「本当に椿みたいだ。椿も同じこと言ってたぞ」


 分かってないな。

 僕が椿と同類なら、この世界は全て椿になってしまう。

 教室にいる全員が椿になったことを想像すると恐ろしすぎて鳥肌が立ってきた。


「俺ってやっぱりツッコミか?」

「ボケだろ」

「いい感じ」


 桃李はボケのほうがしっくり来たらしい。

 っていうかそもそも僕がツッコミになった記憶もないんだが?


「本題のことについては明日までに考えておく」

「おっけー」

「でも……あんまり期待はするなよ……」


 消え入るような声で桃李は言い残し、その場を去っていった。


 それにしても、良かった。

 桃李は椿の猪突猛進計画がクレイジーだと共感してくれた。

 やっぱ僕がおかしい訳じゃなかったんだ。

 僕は冷静沈着で計画的。

 椿みたいなアホじゃない。ウンウン。

 桃李のお陰で、自己満足に浸ることが出来た。

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