第5話 みゅーじっくあそーと!

「作曲部とは違う、別称をつけない?」


 八木はどこぞの「紫色のロボットに乗れ」と指示した司令官のような目つきとポーズになる。


「ズバリ!『音楽メーカー 〜作曲部〜』みたいな!」

「「ダサッ!」」


 流石にダサすぎるだろ!

 なんだよ音楽メーカーって!猫型ロボットの道具か!

 八木、ロボットネタ探ってるのか!?


「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを……」


 さぐってるだろ!


「彩芽、お前は静かにしてなさい」

「ヒドイ!若さゆえの過ちなのに……」


 八木はシュンと縮こまる。


「まぁでも、音楽メーカーをもとにして考えていくか」

「ヤッタ!」


 それにしても別称、かぁ……。

 明るい感じがいいよな……。


「とりあえず、『音楽』を『ミュージック』に変えて『メーカー』を取っ払う」

「ちょっ、原型無くなっちゃったじゃん!」

「あとは、これにどう小細工こざいくするか、だなぁ」


 ミュージック〇〇、〇〇ミュージック、みたいな感じが無難な気がする。

 音楽関連の明るい感じ……。

 オペラ?メロディ?リズム?ポップ?はたまたアレグロとか。アルペジオとかも明るい印象があるな。

 難しいもんだなぁ。


「部活だし、皆が協力して……みたいな言葉でもいいと思うけど」


 英語だったらいい感じになるかもしれないと思い、翻訳アプリを開く。


「協力……、cooperationコーペレーションだってさ。」

「いや分からんムズい!何かもっとこう、可愛くてえそうなやつ!」


 一つになる、的な何か……。

 それっぽい言葉を見つけ出しては、響きの良い言葉にならないか翻訳に掛けまくる。

 もっと他にやり方はあるだろうが、これでもいいと思う。

 八木もおしゃれな言葉みたいな感じで調べているらしい。

 椿は自分の頭で考えてるらしい。険しいような、そうじゃないような顔をしている。


 作曲部、ミュージックってのは中々良いと思う。

 それに合うようで、協力みたいなニュアンスが欲しい。

 そこで八木がハッとした顔になる。


「花束とかどう?花束じゃなくても、音の束とか!」

「英語は『Bundleバンドル』、なんか違う。フランス語は……」

「『アソート』は?『盛り合わせ』みたいな意味だけど『束』でも行けそうじゃない?」


 椿が僕に向かって言う。

 アソート、盛り合わせか。

 フラワーアソートとか言うし、部員の創作の盛り合わせ的な意味で。


「じゃぁ、『みゅーじっくあそーと!』はどうかな!あえてひらがなで!」


 八木は、彼女らしい屈託のない笑顔になる。

 カタカナを敢えてひらがなに。

『プリン』を『ぷりん』と表記するようなものだろうか。

 かわいい印象が生まれて、映えてる……のかは分からないが、良いんじゃないだろうか。


「表での名前は『作曲部』。これだけでもメッチャ良いのに別称がある。中々青春っぽいことしてるじゃねぇか!」


 椿のテンションは最高潮だ。


「テンションが上がるのも分からなくもないが、僕たちにはまだ部員が少なすぎるという課題が残っているぞ」

「そうだな、週が明けたら部員集め再会ってことで」


 一応、部員は七人集めると決まったが、それぞれの仕事に「この人がいい!」みたいな見当はついていない。

 なにせ、まだ創立されていない部活だから、僕らから呼びかける他ないのに、見当が付いていないのはマズイ気がする。

 しかし、三人も居れば人脈は広がるはず。主に八木のお陰で。


「八木、部員集めに関しての人脈はお前に任せる。頼んだぞ」

「今すぐ竹のコプターで集めてきます!」

「もうロボットネタは擦らなくていいから」

「彩芽、改めてよろしくな」


『みゅーじっくあそーと!』、僕らの冒険のタイトル。

 僕の、椿の、八木の目から輝く未来が消えることは無いと確信したのであった。

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