第4話 藤棚にて作戦会議

 八木が作曲部に加入になって一晩が明け、土曜日。

 僕は春風が気持ちよく吹く公園の藤棚ふじだなの下のベンチに座っていた。

 藤棚の藤は、早い花からもう開花していて、満開の桜とよくマッチしている。

 綺麗だな。小さな藤が、大きな桜を想い花を咲かす、僕にはそう見えた気がした。

 お菓子の一つでも買ってくればよかった。

 しかし、今日の本来の目的はお花見ではない。

 昨日の夜、早速連絡先を交換した八木がこんな提案をしてきたのだ。


『明日、公民館の公園で作戦会議しない?』


 と。

 椿が突っ走って決めたことだし、一度こうやって考える機会がないと穴だらけかもしれない。

 スマホを眺めながらそんな事を考えていたら椿と八木が一緒にやって来た。


「お〜い、ここだぞ〜」


 広場の向こう側の入口から入ってくる二人に手を振る。

 すると二人はこちらに気付き手を振り返す。

 やがて二人は僕のもとに着いて藤棚を見上げる。


「綺麗だねぇ〜」

「ほんとだな」

「お花見する?お菓子買ってきてないけど」


 三人で笑い合う。

 椿は僕のとなりに、八木は机を挟んだ反対側のベンチに座る。


「それで、これから校長のもとに直談判する上で、決めてないことが多すぎるという訳なんだが、どうしようか」

「確かにウチも突っ走って参戦しちゃったからなぁ。概要がいようとか何も知らないし」

「じゃぁ、何から決めよう」


 こうなることを予測していた僕はちゃんと秘策を用意してきた。


「僕、何個か決めてないことをまとめてきたから、一つずつ決めていこう」


 椿の穴だらけの思いつきでは校長先生に相手にされないのは目に見えている。

 こういうのはちゃんと決めなければ。

 僕はショルダーバックから紙を出し、机に広げる。


「おぉ〜、流石ミスター用意周到よういしゅうとうと呼ばれるだけある玲桜だ」

「そんなふうに呼ばれたこと無いんだが?」


 椿が煽るようになんか言ってるが、僕は記憶にないぞ?


「ほほぅ、いろいろ考えてるじゃないか」


 八木が僕が課題点を書いてきた紙を覗き込む。

 僕は一つ目を指さして二人に言う。


「一つ目、活動内容。これが一番大事。椿は音楽を創るという大まかなことだけで他のことを何も決めていない。今はとにかくこれだ」

「そうだねぇ、最初はやっぱりこれかぁ」


 八木はあごに手を当てて唸る。

 すると、「閃いた!」と言って立ち上がる。


「部員の皆で担当を分けて、それぞれの仕事をこなすってのはどう?」

「つまり?」

「部員の中で作曲担当、作詞担当みたいなのを決めるの!良さげじゃない!?」


 なるほど。僕は個人でそれぞれの曲を創って、それをアルバムみたいにするもんかと思っていた。

 八木の言うような、全員で一つの音楽を創るというのも面白そうだ。


「じゃぁ活動内容は『部員皆で一つの曲を創って協力する力を育む』みたいな感じでいい?」

「そうだな。そのへんの言葉の綾は校長のところに行く前に決めよう」

「活動内容はけって〜い!良いじゃん良いじゃん!」


 案外さっくり決まってしまった。

 でも、活動内容が決まって一安心。

 それについて詳しく考え直したが、大きな穴は見つからない。

 ここで穴が見つかりすぎてこの話はボツみたいな事にもなり兼ねなかったからだ。

 新しい視点で新鮮な活動内容も編み出せたし、結果は良しだ。

 その後も順繰じゅんぐりで幾つか決められた。

 校則に則っているかや、活動場所など。

 そして、部員は七人集めるということ。

 決める事を決めた僕らは、再び活動内容の話に戻った。


「ねぇ、一概に担当って言ったって具体的にはどうなの?」


 具体的に、かぁ。


「玲桜は作曲やりなよ。お前、その辺強いだろ?」

「強いって、何がだよ」

「小学生の時、音楽ばっか聴いてたじゃん。それに、玲桜、絶対音感だろ?」


 確かに。元々音楽にばっかり縋っていた僕はそのへんの能力が強くなているかもしれない。

 音感もあるし、向いてはいるかな。


「じゃぁ僕は作曲で」

「ハイハイ!俺、作詞したい!」


 椿が手を挙げる。

 すると八木が不思議そうな顔をする。


「椿はどうして作詞がしたいの?」

「俺、めっちゃ本読むじゃん!語彙力とかは自身がある気がする!」

「えっ、ウチ、椿が本読んでるの見たこと無いんだけど!?」

「まぁまぁ俺陽キャだし?そんなイメージがなくても不思議じゃ無いし?」


 僕は気付いた。そうじゃない。

 椿が本を読むイメージがないのは、

 椿はもっと大きな悩み事を隠している。必ず。だって僕が事情を知っているから。

 隠し事でも無ければ、こんなに堂々と嘘を言うようなやつじゃない。

 でも、それを八木に打ち明ける程の覚悟は今の僕には無かった。


「それじゃぁ椿は作詞!次はウチ…と行きたいところだけど、他に何があるの?」


 実際、僕もこういう事は初めてなのでよくわからないのだが、動画投稿をするならば、幾つか必要な仕事がある。

 一つ目、二つ目は作曲・作詞。

 そして三つ目、編曲。

 編曲は簡単に言うと、曲の仕上げ的な仕事。

 作曲担当が編曲をするということも多いが、なにせ僕は中学生。

 知識のない僕が一人でそのへ辺を終わらせると何かとまずいことが生まれそうだから、編曲担当は欲しい気がする。

 四つめはイラスト。

 そして五つ目、ミュージックビデオ。

 四、五つ目は動画投稿をするからこそ生まれる役職だ。


「なるほどねぇ。ウチ、ちょっとよく分かんないから一旦保留で!」


 これから部員をもっと集めるだろうし、ここは保留でも問題は無いだろう。

 八木は「それと……」と続ける。


「作曲部とは違う、別称べっしょうをつけない?」


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