第4話悪魔が降りた

2人は、食後の一服をした。

マッチで、桜島はタバコに火をつけてその残りの炎で仙岩寺もタバコに火をつけた。

「やはり、食後の一服は堪りませんな。先生」

「そうですね。いやぁ〜、タバコも美味いが、親子丼美味かったなぁ」

「はい」

そうやって、5分ほど休憩してから仙岩寺は桜島警部の話しを聴いた。

「亡くなった、袖山弁護士ですが、かなり金に困っていたようでした。しょせん田舎です。仕事は少なかったのでしょう」

「では、金が無いのに何故この旅館に泊まったのでしょうか?」

「それは、聞き込みで調べました。宮部純子未亡人が手配したみたいです」

「何故?」

「先生が宿泊される前から、ちょくちょくこの旅館で話しをしていたみたいですから」

「何の話しを」

「いつ、遺言書を開封するのか?と」

「はい。それが気になっていました。何故、宮部創一郎氏が亡くなって直ぐに遺言書を、開封しないのか!と」

「それは、未亡人の話しですと亡くなって四十九日法要が終わるまでは開封してはいけないと創一郎氏が言い残していたようでして」

「……なるほど。理解出来ました」


2人は暫く黙ってしまった。何かを双人考えていた。

すると、ふすまの向こうから、里美の声がする。

「すいません。桜島警部にお電話が」

「俺?分かった」

と、桜島警部は1階の事務所で受話器を取った。

「何だって!……うんうん。いつ?……分かった。今すぐ向かう」

ガシャッ!チン!


「どうかしましたか?警部」

「先生、殺しです。名光寺の住職さんが殺されました。一緒に行きましょうか?」

「はい」


2人は車で名光寺に向かった。

第一発見者は、寺の小坊主だった。


現場は凄惨だった。

藤谷孝樹住職は、正面から斧で頭を割られていた。死体にはまだ、斧が食い込んでいた。

鑑識が写真をパシャパシャ撮っている。

最初に駆け付けたのは、折田巡査であった。


死後、1時間と言ったところか?死斑の状態からすればそれが妥当だった。まだ、死後硬直は起きていない。

1時間前と言ったら、藤谷住職は1人で昼の読経をしていた時間だ。


死の2時間前ほどに、折田巡査が名光寺の付近の巡回をしていたが不審な人物はいなかった。

誰が一体、何の為に。

これで、直近で平和な鬼切村で3人の死者が出た。

それぞれが偶発的に起きた事件では無いことを仙岩寺も桜島警部も感じていた。

野次馬の村人は、悪魔の仕業と噂した。

そして、宮部未亡人との不倫関係であることは公然の秘密であり、亡き創一郎氏の祟りと言う者まで出てきた。


桜島警部と仙岩寺は、現場を離れ宮部純子の屋敷に向かった。怪しいのは、宮部だ。


屋敷に向かうと、使用人の立松典夫が対応した。

「ちょっと、純子さんに話しがあるのだが」

「……へい。わかりやした。おいっ、春子!春子!」

「何ですか?典夫さん」

「警察の方がいらっしゃってる。案内しておくれ」

「お二人とも、どうぞ、こちらへ」

と、春子は桜島警部と仙岩寺を屋敷の中へ案内していた。

通されたのは、和室だった。

老婆と純子が和琴の演奏をしていた。

「ちょっとすいません。純子さんにお話しがあります」

老婆は気を利かせて、部屋を出た。

「すいません、突然」

「何か御用ですか?」

「藤谷孝樹さんがお亡くなりになりました」

「……えっ?今、何と」

「名光寺の藤谷住職がお亡くなりになりました」

「い、いつの事ですか?」

「今日のお昼頃に」


純子は目眩で身体を倒そうとした。それを、仙岩寺が支えた。

「純子さんは、ずっとこちらに?」

「……は、はい。お昼にダイニングで昼食を食べました。1時から師匠にお琴の稽古を付けてもらっていました」

「あなた、毎日、名光寺に通っていますね?」

「はい」

「昨日も、住職さんと会っていましたね。巡回中の折田君が2人の話し声を聴いております」

「……誰が殺したんです?」

「まだ、分かりません。それより、あなた、不倫してますね?」

「仙岩寺先生、それで私が住職先生を殺害したと言うのですか?」

「あ、核心ついちゃいました?」

「私達に肉体関係はありません。心で繋がっておりました。でも、何故、殺されたのですか?悪魔の仕業としか言えません」

「分かりました。また、後日、話しを聴きにまいります」

と、桜島警部はそう言って、仙岩寺と屋敷を出た。

庭の木の剪定をしている使用人の典夫に、

「ねぇ、今日、純子さん屋敷を出ていない?」

「……いえいえ、出ていませんよ」

「勝手口から出たりしてない?」

「今日、純子様は春子と昼ごはんの料理を一緒に作り、昼からは節子先生のお稽古がありましたので、出てません」

「ありがとう」 


2人の男は、悩んだ。

全く分からない。誰が何の目的で殺しているのか?

袖山弁護士と藤谷住職は、面識も無ければ関係性も無い。

喉が渇いた仙岩寺は、駐在所でお茶を飲みに

向った。

「よっ、邪魔するよ」

「あ、仙岩寺先生。喜美子!先生にお茶出して」

「君はが駆け付けた時は、藤谷住職は亡くなっていたんだよね?」

「はい。そうです」

「巡回もしていたよね?」

「はっ。本官が名光寺を巡回したのは、昼の12時頃でした」

「どうぞ、お茶お持ちしました」

と、白く美しい女性が仙岩寺にお茶を出した。

「妹の喜美子です。22歳ですが、こうやって私の身の回りの世話をしてくれるのでありがたい存在です」 

「そうですか。喜美子ちゃん、ありがとうね」

「いいえ、飛んでもない。兄とこの村の悪魔を退治してやって下さいね」

「こらっ!先生に失礼だろ」

「いや、良いんだよ。で、君は腕時計をしていないのに、何故、12時と解るんだい?」

「それは、朝昼晩、必ず名光寺の小坊主が鐘を打ち鳴らすからですよ。それに、腕時計は持っていませんが、父の形見の懐中時計は持っています。これです」

と、懐中時計を見せた?

「あっ、良い懐中時計だね。私はコレ」

「めちゃくちゃ、高価な懐中時計ですね。相当、お金持ってますね」

「いやいや、飲み過ぎるから金なんて無いよ」

「……僕も、探偵になろうかな?こんな、警官の給料なんて、知れてますからね」

「うん。君は独立した方が良いかもね。でも、自分の仕事に誇りを持ちなさい」

「はいっ!」

「じゃあ、またね。喜美子ちゃん、お茶ありがとう」

と、仙岩寺は駐在所を後にした。


謎解きは、夕飯の後にしようとしたが、里美が今夜は食事を共にしたいと言うので、一緒に宮部美加とその彼氏宗健太郎がプレゼントした、日本酒を飲みながら話しをした。

「特急なごや殺人事件」の話しをしながら夜更けまで2人で飲んだ。

「さぁ〜、こっからが大変だ。私は容疑者に実験させたんだ……」

里美はこんな旅館の中居は辞めて、探偵になりたいと言い出した。

僕はそういう輩にいつも言う。

「探偵だけにはなるな」と。

翌朝は、普通に起きたが里美は二日酔いで別の中居が朝ごはんを持ってきた。

その中居が言う。

「昨夜はうちの田島が失礼しまた」

「いや、良いんだよ。無理やり飲ませのは私だから」

「そう言われて、助かります」

仙岩寺はニコニコと納豆をかき混ぜた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る