第2話華麗なる一族
桜島警部と仙岩寺は、遺言状に書いてあった宮部創一郎の屋敷を訪ねた。
屋敷はモダンな門構えで、また、庭は洋風庭園であった。
門に立っていると、若い女性が出てきた。
「あのう、警察の者ですが、こちらのお嬢さんですか?」
と、桜島が尋ねると、
「私は使用人の立松です。お嬢様は今は学校で、奥様はいらっしゃいます。ご案内致します。どうぞ」
と、立松春子(25)は、門を開いた。そばには、男の使用人が花壇の手入れをしていた。男は、どうもと言った。男と春子は夫婦である。立松典夫(30)であった。
「奥様、警察の方をお連れしました」
奥様と呼ばれる御婦人は、宮部純子(48)であった。リビングで、編み物をしていた。
テーブルに宮部は2人を案内した。
この屋敷は内装もこだわっており、流石資産家の住処だと言う表情の桜島だったが、仙岩寺にしてみれば、成金の贅沢だと思っていた。
テーブルに座る客人と宮部に、春子は紅茶とカステラを運び置いていく。
「実は、昨夜、ひなの屋で弁護士の袖山さんが亡くなりました」
と、桜島が言うと、無表情で、
「袖山さん……あ、主人が生前財産分与の相談をしておりました。あの時の弁護士さんね。で、何故亡くなられたの?病気?事故?」
「それが、恐らく殺害されたと我々警察は捜査にかかりました。タバコに毒物が検出されて、殺人です」
「あなたは警察の方でこちらは?」
「すいません、ご紹介します。私は刑事の桜島と申しまして、こちらは私立探偵の仙岩寺さんです」
「仙岩寺です。初めまして」
と、仙岩寺は胸ポケットから名刺を取り出し、婦人に渡した。
「こちらの、遺言状は見覚えありますか?」 と、桜島が遺言状を見せると、
「あります。間違いないです」
と、婦人は答えた。
「これを開封したいのですが」
「それは、私の顧問弁護士の大迫さんに依頼します。私にはひとり娘がいます。財産分与は私と娘と決めてあるはずです」
「そうですか。では、娘さんと顧問弁護士の方がいらっしゃるまでこの桜島が保管しておりますので」
ゴーンゴーンゴーン
と、大時計が鳴る。16時だった。婦人は庭を眺めていた。その向こうには、娘と若い男の姿が見えた。
その様子を仙岩寺はじっと見つめていた。
「お母様、ただいま〜」
「おかえりなさい」
「……し、失礼しました。お客様がいらっしゃるとは気づかずに。宮部美加と申します」
「こちらは、警察の桜島さんと探偵の仙岩寺さん」
「……せ、仙岩寺さんって、あの有名な?」
「美加、あなた仙岩寺さんを知ってるの?」
「もちろん。世界的に有名な探偵さんなんですよ。お母様」
「そうでしたか。仙岩寺先生、ご無礼をお許し下さい」
「いえいえ、飛んでもありません」
「それより、美加。まだ、あの男と付き合っているの?」
「お母様には関係ない」
「あの男は、遊び人で有名じゃない」
「宗さんは、立派な小学校教諭よ!」
「あのぅ、宗さんとは?」
と、仙岩寺が尋ねた。
「私の今、お付き合いしている学校の先生です。宗健太郎さんです。今年で35歳になります。歳の差はありますが、彼は優しくて、強い信念をもった先生です」
「あなたはおいくつ?」
「仙岩寺さん、失礼ですよ!」
と、桜島が言ったが、美加は笑いながら、
「大丈夫ですよ。私は21歳で地元女子大で英語を学んでいます。将来、英語教諭を目指しているのです」
と、宮部は白い歯を見せた。
「ご主人は残念でしたね。まさか、つり橋から転落するとは」
「私も晴天の霹靂でした。でも、それが天命でしょう」
「桜島警部、いつの話し?」
「約1カ月前です。つり橋の下に人が倒れているのを駐在所の折田君が発見しましてね」
「で?」
「事件性はなく、また、自殺の可能性も無かったため事故死となりました。翌日の村の将棋大会にエントリーされていたのでね」
「まず、そんなに人が自殺はしないね」
「あ、御婦人、失礼でしたね」
「いいえ、もう過去の事です」
「仙岩寺先生、面白い話し聞かせて下さいよ」
「良いよ」
純子婦人は、
「私は今から、名光寺で御経を唱えてきます。では、ごゆっくりと」
と、言って村の寺の藤谷孝樹住職の元へ向かった。
藤谷住職(51)は、村の人々から信頼される人物であった。
婦人は決まって16時半から18時まで名光寺で御経を唱えていた。
これは、夫が亡くなる1年前からだ。
婦人曰く、心が浄化されるらしい。
カステラを食べた仙岩寺は、3年前の鹿鳴館殺人事件の話しを美加にしていた。
19時にひなの屋に戻ると、すぐに料理を里美が運んで来た。
瓶ビールを飲みながら。
「先生、今日は私の煮物も入ってるんですよ!後で感想聞いてもいいですか?」
「うん。良いよ」
「それではごゆっくり」
と、言って出ていった。
そして、1時間後。里美は片付けに来た。
ニコニコしていた。
「ねぇ、先生。1番美味しかったのは何?」
「瓶ビールかな」
「ちっ!この味音痴!」
「アハハハ。ウソウソ。煮物美味しかったよ。特にフキがね」
「え、そうですか?フキの筋取るの大変でしたから。うれしいわぁ〜」
「明日も頼むよ」
夜9時、村の駐在さんは自転車でパトロールをしていた。
あの、ひなの屋事件の直ぐ後だから、村を警戒していたのだ。
折田拓郎巡査は若いが頼りがいのある警官だった。
だから、村人から愛されていたのだ。
宮部邸
夕飯が終わり、立松夫妻は後片付けをしてから、自分達の夕飯を食べていた。
キンコンカン
と鳴る。
門に向かうと、駐在さんが立っていた。
一応、遺言状の事もあるので、庭と部屋の巡回をした。
そして、2階の純子婦人の部屋に入り、パトロールの結果を伝えて、直ぐに部屋から退散して、玄関に向かった。
「折田さん、ご苦労様」
「美加ちゃん。まだ、起きてたの?」
「はい。何だか眠れなくて」
「大丈夫。僕がパトロールしてるから。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
暫くは平温な日々が続いた。
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