悪魔が降りた村

羽弦トリス

第1話仙岩寺満探偵の旅行

昭和35年春。

1人の男が汽車で旅に出かけた。ある地方の、鬼切村と言う村の温泉の出る旅館へ向っていた。

滞在は1カ月間の予定である。

この男、歳は47歳の中年太りでよせば良いのに、蝶ネクタイをしている。

そして、水筒の水を飲みながら車窓から移りゆく景色を眺めていた。

汽車を乗り継ぎ、朝の8時に出発したが、目的地に到着したのは16時だった。

「こんばんは〜」

「はーい」

と、若い女の子が出てきた。

「電話した、仙岩寺だが」

「はい、お待ちしておりました。お荷物運びます。お部屋は2階となっております」

と、中居の田島里美(24)は、にこやかに階段を上り仙岩寺を部屋へ案内した。

「あぁ〜、遠かったなぁ〜。疲れたよ」 

「そうでしたか。わざわざこんな田舎の旅館を選んで頂きありがとうございます」

と、田島はお茶を出す。

「ここの、温泉はどこにあるの?」

「この旅館ひなの屋の、別館が隣にありまして、そこに大浴場があります」

「そうか、そこで少し風呂でも浸かってから、晩飯にしようかな?」

「その方が疲れも癒されて、美味しいご飯になりますからね。お客様は、何のお仕事なんですか?」

「探偵だよ」

「探偵……あんまり知らない職業なのでコレから1カ月間話し聞かせて下さい。私は田島里美と言います。宜しくお願い致します」

「はいはい、分かりました。里美ちゃん」


「今から、風呂に入るから貴重品を預かってくれ。この鬼切村に悪い人はいないだろうが、里美ちゃんなら信用できる。毎日、お風呂の時は貴重品を預かって下さい」

と、仙岩寺がお茶を飲むと、

「任せて下さい。探偵さん」

「じゃ、ひとっ風呂浴びて来るわ。浴衣どこ?」

「その、姿見の下です」

「ん?あったあった。じゃ、また、夜ね。晩飯は7時でお願い」

仙岩寺は懐中時計を見た。17時過ぎだった。


大浴場。

源泉かけ流し温泉で、ちょっと温度は高めだが、気持ちの良い感じがした。

10人は入れるだろう大浴場には、仙岩寺しか居なかった。

石けんで髪の毛を洗い、身体をヘチマで擦った。

仙岩寺はデブだが、ハゲ体質では無い。鏡を見ながら、ヒゲを当て、歯磨きまでした。

身体を一通り洗うと、また、湯船に浸かった。

温泉を充分楽しんでから、懐中時計を見ると18時45分。

2時間近く、風呂に入っていた。

少々、のぼせてしまった。


部屋に戻ると、里美が、

「探偵さん、お食事をお運びして宜しいでしょうか?」

と、言うので、

「うんお願い」

と、答えた。

豪華な料理が運ばれて来た。

まずは、イワナの刺し身を地酒で楽しんだ。

美味い!と言った表情だ。

仙岩寺は数々の事件を解決しており、お金には不自由してなかった。

食事が終わっても、酒は運んでもらった。

1人で飲みながら、喫煙していた。ホープだ。

フィルターつきのタバコが出たのはホープが最初だった。

今夜は、疲れた。里美を呼んで、布団の準備を頼もうと、2階から、

「里美ちゃん、里美ちゃん」



キィヤァァァ〜!



あれは里美の声だ。間違いない。1階に仙岩寺は降りた。

「どうした?里美ちゃん!」

「あれ!あれ!」 


田島が指さす方向に、男がトイレで倒れていた。

シャツが真っ赤になるくらい口から血を流して死んでいた。

仙岩寺は、警察に通報して!と、言うと田島は、はいっ!と言って電話を掛けに走った!


自転車でこの村の駐在さんがやって来た。

「夜なのにすいませんね、駐在さん。ちょっと、死体がね?」

「あなたは?」

「この人は、探偵の仙岩寺満先生よ!」

「……探偵?」

「はいそうです」

と、仙岩寺は自己紹介した。

駐在さんは、折田拓郎(27)の、若者だが、警察勤務歴、9年だった。

現場の維持を周りの野次馬に言って、県警に連絡をいれた。


仙岩寺は田島に言って、死んだ男の部屋に向かった。

吸いかけのタバコがあった。恐らくこれが原因だろう。


これは、病死でもない。殺人事件だ。しかし、誰が一体いつ毒入りタバコを作ったのだろうか?

スッカリ、酔いが覚めてしまった。

1人目の死亡者は、この中年男だった。

警察が到着した。すると、担当の桜島警部が仙岩寺の顔見ると、

「ま、まさか、仙岩寺探偵さんですか?」 「はいそうです」

「まさか、こんな田舎に先生がいらっしゃるとは。あの、九州での殺人事件では知り合いの刑事がお世話になりまして」

「あぁ〜、鬼瓦警部は大変優秀でしたよ」

「ありがとうございます。私、桜島源太と申します。宜しくお願い致します」

桜島は生き生きしていた。

死体の身元が判明した。

死亡したのは、袖山順(56)、職業弁護士だった。バッグには、遺言書が入っていた。

名前は、宮部創一郎とある。

宮部創一郎と言えば、鉱山を所有する資産家であった。だが、その宮部創一郎は、1カ月前に事故で亡くなっている。

第一発見者は、駐在さんだった。

鑑識を1人呼び、桜島警部は仙岩寺とのツーショットの写真を1枚撮った。  

 

事件の様子をじっと見ていた里美は、ここで今夜の客人は、有名人だと知った。  

凄惨な事件の幕開けだった。

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