15.決着

「禁書がない?」


「魔術で隠されてるか、ここには存在しないのかのどちらかね。」


「あの悪趣味2人が考えそうなことだ。」


 リュカが吐き捨てるように舌打ちをする。人質をとられ村ぐるみで私に毒をいれ、ダンジョンで嬲られている様が配信されているのだ。

 今は私の作った幻覚でお楽しみ中だが、嫌いな人間でも相当堪える映像となっているだろう。


「そもそも、なんか変なのよね……。」


 地図を見ると、本の光が5つ私に集中している。5冊私が所持していることになるが、そんなわけが無い。

 ……いや、悪趣味カス野郎の考えた企画という事を忘れてた。私は自分の腕を胸元に突っ込む。ブラックホールのように体が歪み、その中を弄る。


「アザラ様、何をしているんですか!?」


 アスタロトが戸惑い疑問を投げかける。それに答えるように手を引き抜くと、赤いハードカバーの本が現れた。


「まさか、これが……。」


「魔術探知と封印を込められて私の中に隠していたようね。魔力がない時は見つけられず、ある時には紛れて分かりづらいと、性格の悪さが滲み出てるわ。」


 中には何も書いていないが、もう気にする必要はない。封印を解くと、これまで同様に魔力が流れ込んできた。

 いつ、この本が私の中に有ったのかは分からない。最初から入っていたのだとすると、私の魔術で地図を作った時にも気づかせないようにしたのだ。呪いがあるかもしれないので一応解いておく。


「さて、残り一冊ね。」


「場所分かりそうか?」


「勿論。」


 ダンジョンだけではなく地上にまで捜索範囲を広げる。これだけ元に戻ればもう間違わない。どこにあろうが、魔力探知阻害をかけようが、私なら見つけられる。

 

 それは、そこに有った。


「やっぱりね。」


「アイツ等か!」


 呆れた顔で頷く、自分達で作ったルールも守れないようじゃ、どんな目にあっても文句は言えないだろう。


「ここから出ましょう。」


 指を動かして魔法陣を描く。紫色の淡い光を放ち、全員を手招きしてダンジョンからの脱出と元凶達の元へ移動する……が、これは私の問題だしカス野郎とはいえ神と魔王だ。危険が大きい。


「アイツ等の元に今から行くけれど……その前に皆を故郷に帰すわ。どこか教えてくれない?」


 肩を思いっきり叩かれる。自動防御が反応し、反射をモロにくらったリュカが自分の手を押さえている。


「……学びなさいよ。」


「っーせ!そういうアザラも学べよな!俺がお前に、酷い事をさせた奴をそのままにして帰るかよ!」


「不本意ですが、そこのバカと同意見です。アザラ様があんな目にあっているのに、ただ見ている事しかできない状況ほど苦痛なことはありません。」


 アスタロトは眼鏡をあげ、眉間を深くする。彼等の祖父母も関わっていたことだ。相当苦しかっただろう。


「僕も利用されましたから、叱りたい気持ちは一緒です!それに、神様と魔王様を召喚できたら素敵だって思いませんか?」


 にこやかに本心でそう言ってのけるリオさんさんに少し寒気がした。見た目の幼さから想像できない考えに末恐ろしくなる。この無垢な貪欲さは誰よりも強くなるだろう。

 そんなリオさんの頭を撫でると、クロウさんは真っ直ぐ目を見つめながら宣言する。


「これはケジメだ。このケジメをつけなければ俺はこの先生きていけない。覚悟はお前の味方をした時からつけている。」


 本当に良い仲間を持った。涙を抑え、深く深呼吸すると上を向く。

 私が居るんだから誰も殺させない。


「行きましょう!」







 神と魔王は、巨大な配信画面でアザラの痴態を心ここに在らずで眺めている。天使と悪魔はその映像を見ることしか許されない。

 もう何日になるだろうか。不老不死となった魔女が、ただの人間と変わらない身体となり、モンスター達に良いように嬲られている。

 逆らった者達の顛末は毎度の事だが、今回は少し訳が違う。

 神と魔王がつまらなそうににしている。

 誰もがその訳を知っているが、それを口や態度に出すことは死を意味しているゆえに、全員が複雑な心境で映像に目をやる。


「特殊な性癖博覧会かよ。」


 その配信の主と同じ声に全員が注目する。その声を聞いた途端に先ほどのつまらない顔はどこえやら、嬉しそうに神と魔王は、笑った。


「返してもらうわよ。悪趣味ども!」


 神と魔王だけではなく、高上位の天使と悪魔が雁首揃えて私が見せた幻覚を見ているのは、なんとも言い難い気持ち悪さがある。配信蝙蝠の幻覚を解くと、そこには私が見ている光景と変わらないものが映し出される。

 コメントは爆速で流れ、登録者数100万人達成のファンファーレと、収益化記念の投げ銭が一瞬で行われた。そんな機能もついていたのか。変なところに拘っている。


「あの後も集めたのか。

じゃあ、配信機能を2つ解放するか!」


 久しぶりに聴く不快音とともに映し出されたのは「コメントで行動を決定する!」「投げ銭の数だけ弱体化!」だった。

 少しは配信者に対して有利なこともやって欲しいわ。そんなの全然フェアじゃないし、私にばかり悪いことが起こるなんて、逆ご都合主義にも程がある。コメントと投げ銭がどれだけ来ようが関係ない。

 私の力は全てを変えれる。


「手にした武器で1番近くに居る者を刺すだ!」


 宣言したことが起こり始める。


「え?あれ?」


 槍が深く突き刺さる。その場にいた天使が隣の天使を深く突き刺したのだ。動揺した天使が槍を引き抜こうとするが、自分もまた別の天使に刺される。

 異変に気付いた悪魔が突進するが、弱体化された体では自動防御の反射で、ぱちんと弾ける。


 悲鳴と恐怖に包まれるが、逃げ出すことは許されない。神と魔王が居るから生きていける。この場から離れれば恩愛を受けることができず消滅してしまう。どのみち彼等は消滅しか残されていない。


「さあ、悪趣味のカスども。この状況、どうするつもり?」


 神と魔王は目の前で起こる異変に対し、興味深そうに眺めている。

 神の純白の衣を纏ったその姿は神聖ですらあるが、底知れぬ冷酷さを秘めていた。

 魔王も楽しげに軽く指を鳴らす。辺りに漂う空気が歪み、黒い霧が渦を巻いて私の足元へと集まった。魔王の声が響く。


「それでこそ不老不死の最強の魔女だ。楽しませろよ。」


 私は嘲笑を返す。


「楽しみを他人に見出すな。」


 言葉を放ちながら、私は周囲の魔力を一気に収束させた。光で出来た大量の剣が2人に向かう。

 配信画面は緊張感で一気にヒートアップした。コメント欄は爆発し、視聴者数は億単位に達している。


 私の剣が黒い稲妻を放ち、神と魔王に向けて一直線に飛び出した。神は手を軽く振り、光の盾で防御するが、その盾は私の剣の一撃で割れる。驚愕の表情を浮かべるが、次の瞬間には冷笑に変わる。


「面白い。ならば、こちらも本気を出そう。」


 神が手を広げると、天使たちの身体から純白の光が奪われ、それが神の手元に集まっていく。

 一方、魔王は悪魔たちの恐怖を吸い上げるようにして闇を拡大させている。

 2人は天高く飛び構える。


「バカは、高いところがお好きね。」


 指を上から下に下げ、重力を操る。自分達の力で脱出を図ろうとするが身動きを取ることすら許されず、雲に近い場所から落とされる。骨が折れ、筋肉が裂けているにも関わらず、まだ生きているのは流石の生命力だ。

 元々、私の半分の魔力で敵わないのだから、どう足掻いても2人は私に勝てない。

 2人の魔力防御は砕け、肋骨が折れ肺に突き刺さっているのか血を吐いている。

 平和主義だからこんなことはやりたくない。弱い者をいたぶるのは心にくる。でも、こいつ等のせいで何人者の人達が不幸になったのだ。せめて関係者の人達が、この配信を見て気分が良くなれるようにはしよう。


「こっち来て。」


 深く息を吐き、生き残ってる天使達を魔術で無理矢理呼び寄せ、槍を構えさせる。

 顔が青ざめ、首を振るが、責任は取らなければならない。

 槍を一気に振り下ろし2人は串刺しになる。血の雨が降り注ぎ、声を上げることも出来ず項垂れ、天使達は神に逆らった罰として消滅する。


「アザラ様、神様と魔王様を殺すんですか?」


「創造主だから2人を殺したら世界が消滅するから、殺せないよ。」


 リオさんの問いに努めて冷静に答える。召喚できることが分かって嬉しいのだろう。随分とニコニコしている。

 クロウさんは新種の毒を試したいと魔王に様々な毒を試している。リュカはつまらなそうに弱体化した悪魔を寄せ付けないように脅していた。

 こうなるのは目に見えている。だってこの2人にとって敵わない奴を痛ぶるために、あのダンジョンに閉じ込めたのだ。そんな奴等が徒党を組んだらいとも簡単に組み敷かれるのは明白だ。コメント欄も阿鼻叫喚だし、このぐらいが潮時だろう。やはり私に痛めつける才能はないな。


「この2人は私が管理する。世界は滅びないし、神や魔王からの罰も2度と起きない。」


 実質私が新しい頂点と宣言したようなもんだが、世界の管理は前と変わらず2人に任す。

 魔術で2人の体から本を取り出し、ようやく全ての力を取り戻したことを確認し縛りつけた2人から、自暴自棄になってもいいように滅ぼす権限を魔術を使い破棄させる。


「一生飼って苦しめてあげるね。」


 脅しも忘れないようにするが、そんなつもりは毛頭ない。なのに2人はどこか嬉しそうにしている。きっと、楯突く算段を考えほくそ笑んでいるのだろう。次こそは油断しない。

 2人に鎖をつけ犬の散歩のように引っ張る。ようやく我が家に帰れる……こんな土産はいらないが、肩の荷が降りた。

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