13.告白
自身の中首を手に持ち、黒いローブを靡かせているのはクロウさんに呪いをかけた最後の死神だ。
全員が再び臨戦体制を整えると、死神の足元に光沢のある巨大な赤色が蠢く。その先に視線を移すと鱗を輝かせたドラゴンが鋭い眼光を三日月に歪ませ、舌舐めずりをする。
地割れを起こす咆哮は空気を裂き、私達の何倍、ゴーレムを跨げるほどの巨体が猛威を振るう。この2体を相手にするのは骨が折れる。だが、私は、私達は規格外の力を所持している。先程の死神でも十分に分かった。
手加減しても勝てる相手だ。
最初に提案したのはアスタロトだ。それぞれが突出した能力を持っているが、敵がなんらかの罠を仕掛けている可能性もあるし、大群で襲われたら体力や魔力が尽きる可能性を考慮して、全力でいくのを抑えた方がいい。その為に先程の死神戦では力を抑えて戦った……自動防御もかなり抑えていたのもあり破壊された時には、死神相手に手を抜くなんてと思ったが、杞憂だった。
「さて、ウォーミングアップは十分だったわ。」
足元の魔法陣から杭のついた鎖を放ち、死神を捉えようとする。クロウさんに勝っただけあって逃げ足は速いようだ。でも、相手は私だけではない。
「……!!」
鎖よりも死神よりも閃光よりも早くクロウさんは死神の背後を捉え、短剣を振りかざすが、死神も避けようと翻す。その隙を鎖が捉える。この鎖は相手の魔力が強ければ強いほど拘束力が強まる。力の強いものには紙切れ同然だが、魔力が高いものには身動き一つ取ることができない。
「お前のせいで散々な目にあったんだ。責任とってもらうぜ。」
クロウさん相手に、身動きを制限される状態では助かる見込みはないだろう。
一方ドラゴンは、アスタロトにより防御を限界まで固められ、鉄をも溶かす炎も、ゴーレムを砕く牙も、私達には傷一つつけることは叶わなかった。
リュカは大きく跳躍し重力を味方につけ、欠けた剣で尻尾を切断する。鼓膜が割れそうな悲鳴をあげ、敵わないことを知り、飛翔し逃げようとするが地下では翼が退化してしまい、逃げることもままならない。
リオさんは、そんなドラゴンに微笑みながら近づき召喚の契約を結んだ。契約を結んだら召喚者には攻撃できない。流石に可哀想になったのか、アスタロトは回復魔法をかけて、ドラゴンの尻尾はすぐに再生した。ドラゴンは半狂乱になり、ダンジョンの奥底に消えていった。
「そちらも終わったか。」
クロウさんに声をかけられた瞬間、鎖の拘束が緩むのを感じた。魔術感知よりも速い対応――やはりこの人は頼もしい。
「ええ、クロウさんも無事で良かったわ。」
「アザラ様の鎖があったからな、ほら。」
そう言って渡されたのは一冊の本だった。絵本よりも薄いその本は、ふとした拍子に折れてしまいそうだが、魔力がこめられているのが分かる。タイトルは『不老不死』とあった。
ページを開くと、名前がずらりと書かれていた。しかし、その全てにバツ印がついている。最後の一行には、私の名前が記されていた。不老不死を得た者のリストだろうか。バツ印は処罰された証のように思える。
「……ありがとう。」
クロウさんにお礼を伝え、本を閉じる。その瞬間、本から魔力が流れ出し、身体に満ちていくのを感じた。やはり、これは禁書に違いない。
「魔力、戻ったか?」
「ええ、クロウさんは?」
「ああ、もう問題ない。」
そう言って首を軽く回すクロウさん。その仕草から、呪いが完全に解けたことが分かった。
「呪いが解けたんだね。良かった……!」
「アザラ様のおかげだ。改めて礼を言う。」
「いや、私は何もしてないよ。」
「アザラ様が来なければ、俺はずっと痛みと死に苦しんでいたんだ。礼くらい言わせてくれ……ありがとう。」
真っ直ぐな瞳で言葉を告げられ、思わず目を逸らしてしまう。この間の出来事もあり、冷静でいられない。
「アザラ様、俺は……。」
その言葉の続きに妙な予感を抱き、心臓が痛む。けれど、その予感よりも早く背中に猛烈な痛みが襲った。
「アザラーー!!何話してんだよ!」
「ぐうぇ!?」
リュカの強烈な一撃が背中に炸裂する。死神とドラゴンとの戦いを終えた後だったので、自動防御を抑えめにしていたのが仇となった。もし防御そのものがなければ、背骨が砕けていただろう。
「自分の力を少しは理解しなさいよ!」
「悪い悪い!」
「リュカ!お前馬鹿なんだから、馬鹿力を理解しておけ!この馬鹿ッ!」
「アスタロト、うるせぇ!」
さっきまで命を賭けた戦いをしていたとは思えない口喧嘩が勃発する。その騒ぎを嗅ぎつけたモンスター達も、ドラゴンの血の臭いに反応して一目散に逃げていった。
「それで、何の話をしてたんだ?」
リュカが話を戻すと、クロウさんは微笑みながら返した。
「俺が、アザラ様を好きだという話だ。」
「え!!??」
思わず大声をあげる。突然の告白に頭がついていかず、皆も口を開けてぽかんとしている。リオさんだけがはしゃいで、モンスターや人間を召喚し、盛り上がっている。
なんで増やすの!?
「気づいてなかったのか?」
「だ、だって言われてないし!お礼とかの話じゃ……!」
「結構、鈍感なんだな。まぁ、今はそれどころじゃないから禁書を集め終えてから本格的に行動するつもりだ。」
「何を!?」
好きってそんな話、してたっけ!?いや、してないはず……。そりゃあクロウさんのことは嫌いじゃないけど、急にこんな……いや、抱きしめられたから!?でも、あれは私を落ち着けるためだし……!と混乱していると、リュカがさらに追い打ちをかけた。
「俺もアザラのこと好きだからな!」
「は!?」
2連続の告白にただ狼狽えるばかり。いや、恋愛感情じゃない。これは友情とか家族愛の話に違いない!
「お、おい、何を言ってるんだお前!」
「アスタロトだって好きだろ!アザラと一緒にいる為に不老不死の研究してるじゃねぇか!
結婚するって10年前から俺とお前でずーっと言ってたじゃねぇか!」
「全部バラしてんじゃねぇ馬鹿ッ!!!」
これを恋愛感情じゃないと言うのは無理がある。頭が真っ白になり、ふらついたところを誰かに支えられる。振り返ると、それはドラドだった。
いつもの笑顔はなく、どこか怒ってるように見える。
「ドラドもアザラ様のこと好きなんですよ!アザラ様凄いです!」
悩みの種が増えた……!リオさんは目を輝かせ、召喚された学者たちは
『魔女の魅了か?』『4人が同じ人を好きになる確率は?』と真剣に議論を始める。
ぶん殴りたい気持ちをなんとか抑える。
「俺たちみんなアザラ好きなんて最高だよな!クロウの呪いも解けたし、祝いに酒でも飲もうぜ!」
とんでもない提案したリュカは、無理やりアスタロト達の肩を掴み野営の準備を始める。本人を目の前にしてよくそんなことが出来るなと呆れ返る。それは周りの者も同じようだった。
「お前、恋敵だぞ。分かってるのか?」
「何言ってんだよ。選ぶのはアザラだろ?じゃあ、俺達が仲違いしても意味ねぇだろ。
それに、ここは一妻多夫に一夫多妻も認められてるんだ。アザラが全員と結婚すれば良いじゃねぇか!」
そう言うとリオさんからお酒とツマミを受け取り、着々と準備を始める。他の皆も納得したようにそれぞれに酒を注ぎ始める。
いや、納得するなよ。
なんだかアホらしくなり、リオさんと学者達を呼びだし、こっちはこっちで宴会を開くことにした。
不老不死や、未来の技術者を聞いていたが、一妻多夫こと逆ハーレムの歴史を延々と説明した者は強制退去を告げるも、興味深々のリオさんに断られて、なんとも居心地の悪い飲み会となった。
死神は全部倒し、禁書は残り2冊。
あと僅かだが新たな悩みを忘れる為に、酒を飲み干した。
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