1話 葉月 零
――僕は、自分の事が嫌いだ――
優柔不断なところが嫌いだ。 何をするにしても踏ん切りがつかずに悩むだけ悩んで結果時間だけ過ぎて行って何も得れないところが嫌いだ。
容姿が嫌いだ。 男らしい容姿とは言えず、童顔な上、これといって特徴的なものもなくもはやどこにでもいそうとも言えずなんとも形容し難い容姿が嫌いだ。
学が無い所が嫌いだ。 知識に浅く、ましてや自頭が良いなんてあるはずなく、辛うじて読み書きはできるが突出できる点が無い所が嫌いだ。
怠け者な所が嫌いだ。 何をしても続かず、途中ですぐ諦めてしまう。 かといって努力家になろうとする努力もできない所が嫌いだ。
ひねくれ者な所が嫌いだ。 いつも正しいことよりもそれの反対な事に身を乗せてしまう。 天邪鬼と言うか性格の悪さが嫌いだ。
そして何より……。 亜人島に住んでいる事が嫌いだ。 まあこれは僕だけじゃないだろうけど。
「早くこのかばんにあるだけ金を詰めろ!」
「はいはい。 そんな急がなくたって誰もアンタに手出しできないよ。 つか今月入って強盗何度目だ……? 店長いい加減クビになるんじゃね……?」
それは僕が働く全国チェーンのコンビニで起きた。 別に変ったことなど何一つないどこにでもあるコンビニだ。 強いて挙げるなら強盗がクソほど多いことぐらいか。
「いいか! このナイフにはお前ら亜人が触ったら猛毒になる液体が塗ってある!!!」
髭面の顔を隠そうともしない男がナイフを僕に近づける。
「いやもうほんと勘弁してよ。 ちゃんとアンタの言う通りにするからさ」
セキリュティがログアウトしているこのコンビニだがそれには訳がある。 お客様が”人間“だからだ。 亜人は人間を攻撃できない。 物理的な話ではなく精神的な話だ。 もし怪我でも負わせてしまったら僕ら亜人は人間に逆らった罪として裁判にもならず殺処分されるのだ。 もしこの強盗が人間じゃなく亜人の場合はまあ話は変わるけれども、少なくとも僕は人間であろうと亜人であろうと言われたままこうしてレジの金を鞄に詰めているだろう。 だって殺されたくないし。
「はい。 これで全部だよ」
男は鞄をひったくり、来店して変わらず怒声を飛ばす。
「はぁ!? 少なすぎるだろ! お前隠してるんじゃないだろうな!?」
強盗に入られるのが取り柄みたいなうちのコンビニだが、一応奪われる側として対策して無いことはない。
「あのねぇ…… アンタみたいなの来るの何度目だと思ってんのさ。 店には最小限の金しか置いてないよ。 被害が少なくなるように銀行に預けてるの」
強盗を怒らせないように冷静に言い聞かせる。
「チッ……! これっぽっちじゃ割に合わねえじゃねえか……」
「うちに来る強盗みんなそれ言うよ。 だから僕も次は銀行を直接って……。 この案内も何度目か……」
最初は恐怖したが、ようは慣れである。 冷静に考えたらお客様は僕の命ではなく、店の金が目当てなのだから襲われる心配もない。
「もうこんな店2度とこねえよ!」
強盗は腹いせにラックを蹴り飛ばして足早と退店していった。
「ご来店あざしたー」
僕は強盗が姿を消すのを見届けるとため息をつく。
「いやあ。 災難だったな」
「町村……。 見てたんなら助けてよ」
金髪の髪の毛に頭部から犬のような耳をはやした男。
「いやだっておっかねえじゃん。 葉月が来てからほんと助かるわ。 俺ああいうの苦手なんだよね」
町村の性格もあって僕がこのコンビニで働き始めて”強盗担当“という不名誉な役職が付いてしまった。
「金が目当てなんだから抵抗しない限りむこうも僕たちなんか相手にしないよ」
「わかってるんだけどさぁ……」
町村は頭を掻きながら苦笑いで応じる。
「ま、いいや。 店長に報告しに行こう。 今日はもう店じまいだな」
「かなー」
町村と二人して奥のスタッフオンリーの部屋に行く。 広くない部屋にパソコンが1台と大きな金庫が置いてあり、モニターに向かいながらキーボードをタイピングしながら恐らく発注業務をしている白髪で狸耳の壮年男性。 店長に声をかける。
「てんちょー」
「ああ。 葉月君に町村君。 騒ぎは聞いてたよ。 怪我はなかったかね?」
「ナイッス」
「右に同じく」
「はぁ……。 今月で5回目か……。 人間様には本当敵わないよ」
そういって店長は手を組みうなだれる。
「まぁいつもの事なんでいい加減慣れましょうや。 今日もう店閉めますよね?」
「うん。 そうだね。 閉店業務頼めるかい?」
「了解っす」
「葉月君」
僕は部屋を出ようとすると呼び止められる。
「いつも君のおかげで助かるよ。 君が言いくるめてくれるおかげでこうして金庫の金は無事だ」
そうなのである。 僕の業務”強盗担当“とはこうして本丸の金を盗られないように、そして存在を悟らせないようにするのが本懐である。
「終わったら飲みに行こう。 もちろん私が出すよ。 本来は盗られたはずの金を君たちに還元するだけだから遠慮する必要はないよ」
そうして店長は苦労皺を浮かべながら笑う。
「ほんと、変わんないっすね店長は」
そうして僕もそれに笑顔で応えるのであった。
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