第10話 普通の人がこんな怪我したら大声だしてるよ

 2人を見れば2人とも傷だらけだった。

 こんな早朝にやってる病院なんてないもんな……いや、あった。早朝というか深夜の範囲でやっている病院。


 未来だけバイクに乗せようと思ったが、見れば悠もかなりの怪我している。腕なんかぱっくり切れている。


 その部分を指さして巧が言う。


「そこ痛くないのか?」


「なにその質問。痛いに決まっているでしょ」


「タクシー呼んでくれ。バイクはその辺りに隠しておくから」


 3人でタクシーに乗ると、巧が案外近くの地点を伝えている。繁華街の一部だ。


「車入れないですよぉ……」


「まぁまぁそう言わずにさ」


 着いたのは渋谷の繁華街のすぐ近くの雑居ビルだった。


「こんなところに病院あるんですね?」


「まぁな。赤福っていう変な医者だが、外科・内科なんでもござれだ」


 重いドアを開けると(自動ドアなんてものはない)、でっぷりとした中年の男が出てくる。


「こんな早朝になんだもう。そろそろ寝る時間だ」


「カチ込んできたやつらを一蹴したのは誰だったかな?」


「古い話を持ち出すなよ」


「とりあえず、座って。そこのイヤーマフの子。なんか踏んだかな?」


 未来が座席に座る。


「ちょっと見るよ」


 靴下が真っ赤になっている…………。


「靴下はいててよかったね。細かい破片が刺さらなかった。でも結構、深いのもあるね。今、麻酔するから……」


 未来の処置が終わり、悠の処置が始まる。


 優乃傷を見る。腕の前腕部が切れている。


「なんだこの傷。銃弾でもかすったのかい? 巧、こんな可愛い子をなにに巻き込んだんだ?」


「まぁ抗争っていうか。戦いかなぁ……」


「あのねぇ。この子が我慢強いからだと思うけど、普通の人がこんな怪我したら大声だしてるよ」


「ただねぇ……ちょっと麻酔足りて無くて……さっきの子のが最後だったんだよね。ほらうち非合法だろ? 降ろしてもらえなかったりなかったり……」


「おいおい。ふざけんな。どいつをボコせばいいんだよ?」


「麻酔なしで大丈夫です。自分の至らなさなので!」


「痛いよぉ……これは四ヶ所くらい留めないといけないからね。タバコ吸う?」


「大丈夫ですが、なにか噛めると助かります」


「じゃあこれ噛んでおいて。ガーゼを渡された。


 悠は涙を流しながらひーひー言って耐えている。ガーゼは唾液でぐっしょりだ。それでも耐えた。


「強いお嬢さんだねぇ。こんなの普通に気絶してるよ」


「こんなもんで頼む。持ち合わせがなくてな……。


 未来からもらった封筒を見せる。


「あーまぁこれくらいでもいいか……でも2人も見たしなぁ……」


「じゃーあとはこれで」


「巧は財布から3万出した」


「まぁいいでしょう。その代わりに夜、電話したらすぐに駆けつけること。それが条件だ」


 病院で貸してもらったスリッパをパタパタさせながら、未来が近づいてくる。


「あのお金、私が渡したものですよね。」


「そうだが?」


「私たちの治療費に充てるなんて……それに多すぎます」


「まぁな。でもここはそういう病院なんだよ」


 ◆


 3人が出た後、赤福は誰かに電話をした。


「ええ。来ましたよ。かなりやられてました。まぁ私の腕にかかればあっという間に治せませたがね」がはははと笑った。


 電話向こうの男が誰なのか、どんな反応をしたのかもわからない。


「情報は渡したんだから、検挙とかはやめてくださいよ」


 ◆


 巧が提案する「今日はダメージがでかかった。それぞれ休もう」

 巧はバイクを取りにいかないといけないが……。


 バイクに乗って自宅に着いた。


 疲れた。布団に大の字になっていたら、急に眠気が襲ってきて寝てしまった。


 嫌な予感がして目が覚めた。


 浸食? このタイミングで? 浸食は短期間で発生しないと未来は言っていなかったか?


 バイクをスタートさせた。


 着くとボスはいなかった。雑魚の集団。未来も、悠も具合が悪いのでとっとと片付けようと決めて、敵陣に入ったが思ったより苦戦している。


 あちらこちらから来る敵をなぎ払うのが精一杯で、肝心の攻撃に全振りできない。


 ヒュっと弓が飛んできて、敵の頭部に命中してそいつは消えた。


「ありがとう悠」


 そう言って彼女の右手を見ると、腕から血が滴っていた。彼女もノーダメージではないのだ。ここは俺がなんとかしないと……。未来みたいに必殺技みたいのがあればいいのに……。


 見れば未来もやってきた。


「おいおい。歩くのだってままならないのに、来なくて大丈夫だよ」


「巧さんが1人で倒せる量ではありません」


 そこに2人の男女が現れた。


 2人とも巧と同じ学校の制服を着ている。男の方はかなりでかい。未来よりも遥かにでかいだろう。女性の方は線こそ細いが、気が強そうだ。


 2人がインベーダーの軍勢に走り込む。


「あぶねぇから」という気は一瞬で失せた。バサバサと相手を切り倒すからだ。たしかに敵は雑魚だ。それにしても圧倒的過ぎる。かたがついた。


 男が言う。


「こんな雑魚も倒せないのか?」


 巧が言う「なんだとこの野郎!」


「明日、生徒会にくるように」


 はぁ……? あんな奴らが生徒会長だった?

 3人は不思議な顔を見合わせた。


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