第4話 私、大きさと形には結構、自信あるんですよ

 雨でぐっしょりだ。着替えもない。とりあえず家に帰るか……。


「巧、部室の鍵もってるから弓道部行こう。今なら誰もいないし、着替えられる。さっきの奴の対策考えないと……」悠が提案してくる。


「だがどうやって行く? バイクに2人は乗せられないぞ」


「そんなの決まってるじゃん。未来が後ろに乗りな」


「うちはランニングしながら追いかけるから」


 2人だけ早く着く。「どうしましょう……」


「そう言われてもな……鍵もらい忘れたからな」


「私の服、透けてますね」


「そうだな」


「こんなことならもっと可愛いブラのにしとけばよかったです。この前、優乃さんからもっと女子力を磨けって言われたばかりなのに……」


「そんな力いらね〜よ」


「そう言いながらさっき胸見ましたよね?」


「見てない」


「見ました!」


「見てない!」


「じゃあほら」と未来は胸を寄せて見せる。


 未来「感想は?」


「普通そんなもの求めるか?」


「求めちゃだめですか?」


「いや、ダメじゃないけど……かわいいよ」


「やった〜 私、大きさと形には結構、自信あるんですよ」


「なにやってんの?」気が付けば悠が仁王立ちになっている。「乳の鑑賞会?」


「いや、これはだな。その不可抗力で……未来が……」


「どーせ私は貧乳ですよ」悠はそう言いながら部室の鍵を開けた。


「ウチと未来は更衣室で着替えてくるけど、巧はそこに落ちてる誰かのジャージ着ちゃって。別に問題ないから」


 言葉にとげを感じる。


 更衣室の中から甲高い声が聞こえてくる。


「未来、いつもは感じなかったけど、大きいね! 触らせて触らせて。パンツもめっちゃお洒落じゃん。どこの?」


「やめてくださいよ。悠さんだってすごく綺麗じゃないですか。ここの腰のラインとか……セクシーすぎます」


 なんなんだこの拷問は。数分間これに耐えると、袴姿の2人が出てきた。道着が似合っている。2人とも身体を鍛えているだかって、さまになる。


 悠「お茶淹れるよ〜お菓子あるかなぁ」

 未来「いいですね。いいですね。温かいもの助かります」

 悠「ちょっとまってね」


 少しするとお茶が運ばれてきた。


 巧は少しイラついていた。あんなバケモンが出てきていて、俺たちは完敗したんだから……。


「あのさぁ。緊張感なくないか? あの敵はきっとまた出てきて世界を侵食するんだろ。なんでそんな楽しそうにしてんだよ?」


 悠が言い返す。


「じゃあなに? ウチらが悲嘆にくれてるほうがいいってこと? お茶は楽しんじゃいけないの?」


「悠さん言い過ぎですよ。巧さんは任務に真剣なだけです」


「じゃあウチは真剣じゃないってこと?」


 未来と巧は顔を見合ってしまった。巧が謝る。


「いや、悪かったよ。ちょっと苛立ったのかもしれない。焦ってたんだたぶん」その言葉を継ぐように未来が言う。


「巧様は知らないと思いますが、巧様が来る前は3人で戦ってました。シールドのない戦いはほんとうに命がけでした。でもよくこうしてここに集まってお茶をしていたんです。死を感じるからこそ、こういう時間が必要なんだと思います。明日に怯えて死ぬよりマシではないでしょうか?」


 悠が言葉を継いだ「そうだね。この部屋で話すのがお決まりだったけど、巧はまだ数回だもんね。よくこうやって道着を着て喋ってたんだよ。巧の言い分はわかるよ。けど今くらい笑っておこ。それにね、そこまで私は悲観してないから」


「悲観してない? 手も足もでなかった敵だぞ」


「巧はまだわかってないんだね。後衛ってなにしてるか知っている?」


「そりゃ後ろから攻撃するんだろ?」


「50点。後衛の役目は観察にこそある。大局を見るんだよ」


 巧は優乃に将棋の大局が見えてないと叱られたのを思い出した。


「あいつの移動には法則がある。当然だけど、例えば右から攻撃は左に動く。左からの攻撃は右に動く。でも、どちらもどれくらい動くかはわからない」


「なんだよ。わかんねーのかよ」


「少年、話は最後まで聞くものだよ。未来と巧、2人が挟撃したことあったよね。あの時は後ろに下がった。真後ろに下がるんだ。矢っていうのはまっすぐに飛ぶ。だから前から打ち込めば、そのまま当たる。けど、そこに問題があってね。消えてから出現するまでの間」


「なるほど。私がタイミングを見ればいいんですね?」


「そういうこと」


「待て待て、なんで未来がタイミングを見れるんだよ」


「私の目です。私の目はちょっとよく見えすぎるんですよ。現れる瞬間、正確にはその少し前まで見えます。挟撃からの弓。この作戦で決まりですね」


「もしかしてお前ら、ここまで読んでゆっくり茶会でもしてたのか?」


「違います。3人でいればどうにかなると、信じているからです」


 巧は手をつけていなかった茶をすすった。

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