第3話 そろそろ、時間です

「香川さん! すみませんでした!」


 巧が学校に着くと知らない男子生徒が未来に菓子折を渡しながらそう言っている。どういうことだ?


「昨日、机蹴ったり、ヘッドホン外したりほんとすみませんでした」


「別にいいですよ。私、気にしてませんから。菓子折も持って帰ってください」


「そんなこと言わずに。俺、なんていうか、香川さんのこと気になってて、それでちょっかいを出してたんです。昨日、蹴り飛ばされてそれを自覚しました」


「ならもうしないでください」


「もちろんです。俺、香川さんの眼鏡の色からうっすり透けて見える瞳が好きで……その、あの、今度、デートしてもらってもいいですか?」


「私には心に決めた方がいるので無理です」


「そう言わずに。俺待ちます。二番目でも三番目でもいいんです」


「分かりました。その時はまた声をかけます」


「ほんとですか?!」


 男子学生の顔が晴れやかになる。


「これ召し上がってください」


 GODIVAの高級チョコの詰め合わせだった。巧様好きかな? と思いながらもらった。


 巧「おお。なんか仲直りしたみたいでよかったじゃねぇか」


 未来「そうでしょうか……それまでちょっかいを出していた人が蹴り一発で心変わりするというのはよくわかりません」


「俺にはわかるな。可愛いとさ、手を出したくなるんだよ、男ってのは厄介なんだ」


“かわいいとさ”のところに無駄に反応してしまう。私、可愛いのかな? ネイルもしていない爪を見て、ネイルしようと心に決めた。


「これ、食べますか?」


 先程のGODIVAだ。


「いやいや、お前が食べてやれ。俺が食べてるの見たら目から血を流すぞ」


「そういうものですか」


 授業が始まり、授業が終わった。


「私、嫌な予感がします。このまま帰ってもらっていいのですが、今夜あたりにインベーダーが来そうです。いつでも出られる準備をしておいてください」


「おう。わかったよ」


 ◆


 帰宅後、風呂に入ろうかどうしようか……風呂に入ればさっぱりする。しかしまた戦いとなれば雨まみれだ。脱衣場で思案していると、スマホが鳴った。


「でました。渋谷中心部。ヒカリエ。最上階のフットサルコートです」


 帰ってきてすぐだ。なにもできなかった。


「わかった」


 傘だけ忘れずに持って、Honda CB400 SUPER FOURをひっぱりだしてくる。バイクが唸りを上げた。


 ヒカリエ前につくと、未来と悠が待っていた。


 未来に怒られた「遅いです!」


 3人で最上階を目指すが、その前に受け付けを通らないとそもそも上に行かないといけない。いちいち登録なんて面倒なことをしている時間なんてない。


 3階に着いて、どうする? と2人に聞くと、悠が黒いカードを見せてくれた。「これで通れます」


「本日のご用件はなんでしょうか?」


 悠が黒いカードを見せて、フットサルコートを貸し切りたいと言う。なんなんだそのカード。


 そのカードを見ると職員が目を丸くした。


「そのカードは……すぐに貸し切りにしますので、私たちと来て下さい」


 移動しているときに悠にそのカードのことを聞く。なんなんだそれ?


「お友だちの花音さんが貸してくれました。この辺りのビルはとある財閥が後援して建てられているのです。そのVIPカードです。大抵の場所はこれで通れます。


「すごいな」


 上に上がるとすでに雨が降り注いで、敵が空を飛んでいた。職員が事情を説明し、フットサルをしていた者たちは不満そうに出て行った。


「さてどうするよ。あいつでかいぞ」


 十字の形をしていて、全体に白く、横3メートル、縦3メートルほどある。


 未来「私と巧様が前衛、悠さんは後衛でお願いします」


「状況開始します」未来は眼鏡とイヤーマフを投げ捨てた。


「「「領域侵犯」」」


 巧「行くぞ。アスピダ・ティス・ギス」

 未来「クシフォス・ティス・フォティアス」

 悠「トクソ・トゥ・ネルー」


 未来は一瞬で距離をつめて、剣を振るう。その瞬間に敵はいなくなった。1秒くらいのラグがあって、別の場所に出現する。


 それを巧が追いかけてナックルをお見舞いしたが、不発。敵がまたも消えたのだ。


 後ろから悠の加勢はあるが、どれも当たらない。


「未来、こいつ攻撃をしてこないぞ?」


「インベーダーの目的は浸食です。目標時間を耐えられればいいので攻撃の必要はないのでしょう……にしてもどう戦ったらいいのか」


「挟撃だ。未来、息を合わせるぞ」


「アスピダ・ティス・ギス」「クシフォス・ティス・フォティアス」


 息はぴったりだ。左右から同時に叩く。


 だが擦り抜けられた。手の尽くしようがない。


 未来「これは私たちの完敗です。10分間、相手に攻撃し続けせめて浸食範囲を減らしましょう。幸い敵は攻撃してきませんし」


 そこから何度か攻撃してもあたらなかった。3人はどんどん疲労が溜まるばかりだ。


 未来「そろそろ、時間です」


 その言葉と同時くらいに敵の姿が消え、雨もやんだ。


 3人は疲労困憊で、ヒカリエを出た。


 悠「今回はだめだったね。この後部室で話そう」

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