第2話 私、2人がキスしてるところ見たんだ

 昼休みだ。各々の学生が弁当を開けたり、食堂へ行ったりする騒がしい時間帯。


 未来の昼ご飯はパンだ。サンドイッチや惣菜パンがメイン。それと紙パックに入ったコーヒー牛乳。それらを幸せそうに机に並べて、どれから食べようかと思案していると誰かが机の脚を蹴った。


 明らかに故意。パンがバラバラと零れ落ちた。今日はボディーガードの巧がいないからかもしれない。まぁ巧がいても怒りはしなかっただろうが……。


 そこで声を荒げたのは優乃だった。


「今、蹴ったでしょ!」


「いやしらねーし。足が当たっただけでしょ」男子学生が答える。


「じゃあ謝って拾うくらいしたら?」


「優乃ちゃん、そこまでさせなくていいです」


「未来も未来で悪いところあるよ。そうやって受け入れるから助長するんだよ」


「ねぇほら、聞いてんの?」


 優乃は男子学生の胸ぐらをつかんだが、相手の方が力が強い。押し返されて転倒してしまう。


「大丈夫ですか? 優乃ちゃん!!」駆け寄る未来。


「ちょっと口切ったかも……」微かに血が滲んでいる。


 未来が男子学生の方を向く。背筋がピンと伸ばされ教室で目立たない未来ではなかった。


「優乃ちゃん、怪我させましたね!」


「な、なんだよ。お前みたいな陰キャ怖くもねぇ。それですごんだつもりか?」


 男子学生はへらへら笑っている。


 そのへらへら顔に未来のハイキックが炸裂した。顔面が歪むほどの威力。倒れたどころではない、飛んだ。そして失神。


 クラスはざわつき、優乃もきょとんとしている。


 優乃「あ、ありがと?」


「ええ。私は友人のためなら実力行使いたします。ただその友人がいないんですけど」笑ってみせる。


「ささ、パンを食べましょう。優乃ちゃんもどうですか? たくさんあります」


「う、うん。頂く」


 優乃はメロンパンをかじりながら言う。


「実はね、今日は大切な話をしようと思ってきたの」


「大切なこと?」


「そう。巧のこと」


「巧様がどうされましたか?」


「私、2人がキスしてるところ見たんだ」


「そうだったのですね。お恥ずかしいです」


「2人はもうそういう関係ってことであってる?」


「あははは。全然違いますよ。確かに戦いに協力をしてくれますが、それ以外はからっきしです。手も繋いでもらえません」


「ほんと? じゃあなんでキスなんかしたの?」


「ちょっと込み入った話を端折ると、世界を守るためです」


「じゃあ話を変えるけど、未来ちゃんは巧のことどう思っているの?」


「慕っています」


「それだけ? 下心はないの?」


「下心ですか……ないと言えば嘘になりますね……」


「恋愛的な意味で好きってこと?」


「有り体に言えば、そうなるでしょうか……」


「じゃあウチらはライバルだね」


「優乃さんも好きなんですか?」


「そんな感じ」


「でも未来ちゃんが巧の横を歩くなら、メイクくらいして! Youtubeで動画あるから探して。あと爪ね。爪は最初自分でやるのは難しいからネイルサロン。こまめに美容室」


「そんなにしなきゃだめですか?」


「女子は可愛くてなんぼだから。それに巧はああ見えて結構、細かいところ見てるからね」


「私はそのままの方がいいと思います。着飾ったって所詮は私だからです」


「それが甘えなんだよ。それは努力してみてダメだったときの話。そもそもさ、巧に何させてるの? 危ない目に遭わせてるんじゃないの? それって巧の善意につけ込んでるんじゃないの?」


「そう言われたらそうかもしれません。巧様優しいですから……」


「ウチはね、未来のことは好き。すごくいい奴だと思ってる。でも巧に甘えないで。自分でやって。自分でやってみてダメだったらヘルプを求めてよ。ウチには未来ちゃんたちがなにやってるかわからないけどさ、通すべき筋はあると思うよ」


 ひとしきり喋った後に優乃は表情を和らげた。


「怒ったらお腹空いちゃった」


「パン、食べましょ!」

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