第15話 スイカ割りしようと思って
巧の休日は規則正しい。見た目こそ不良だが、おじきに叩き込まれたのでそのあたりはしっかりしている。
7時に起床し、10キロのランニングをこなし、熱いシャワーを浴びる。次に朝食を作る。焼き鮭と味噌汁と白米だ。それから洗濯をして掃除機をかける。
朝の家事が一段落するとスマホで将棋をする。将棋ウォーズで一級だからそこまで強くはないが、定石や戦法などをよく勉強していないと、簡単にたどり着ける級でもない。
戦法は三間飛車。振り飛車のなかでも攻撃メインの戦法。巧の性にあっている。おじきには一度も勝てなかったが……。
巧は将棋が好きだ。大好きだったおじきに習ったからというのもあるが、一瞬の判断が命取りにもなるし、起死回生の一手にもなる。全体の戦況を眺め、最善手を選ぶ。
これは喧嘩にも通じるところがある。巧がこう動いたら相手はどう動くか、予想通りに動けば対処策はこうする。喧嘩の強さとは腕っ節の強さあるが、戦略なしに戦うのは徒手空拳に等しい。
熱中しすぎたか……。
そろそろ昼時だなと思うと、玄関のベルが鳴った。こんな時間になんだろう? ネット通販の品物でも届いたのだろうか。
出ると、そこには悠と未来、優乃の姿があった。
2人とも私服でときめくほど可愛らしかった。
未来はレトロガーリー。ベージュのワンピースを腰のところをりぼんで留めて、スカート部分はふんわり。首元にはベージュのネクタイをしている。ヒールローファーを履いている。
対して悠はダメージジーンズにオーバーサイズの文字入りTシャツだ。靴はNIKEの白だが、かなり汚れている。
優乃はショートパンツで、上はノースリーブシャツで胸が少し見えている。靴はレザーのヒール。
「来ちゃった!」と悠。
「来ちゃったじゃねーだろ。勝手に来られても困るぞ」
「お邪魔します」と優乃は言って靴を脱ぎ始めている。
「なんなんだよもう。じゃあ勝手に上がれ」
「ちゃんといたね〜アポなしだからいないかと思った」と悠
「いると予感していました」と未来。
「買い物してきたからみんなで食べよう」と優乃
なんだこの荷物は……食べ物だけではない。スイカまで入っている。この家で何をすると言うのか。
「てか、3人とも仲良かったんだな」
「うん。未来ちゃん繋がりで仲良くなった」優乃
ピザやらお寿司やらが展開される。まぁ昼時だったしいいか。
優乃がピザ片手に訊く「聞きたかったんだけど、悠と未来って接点なんなの?」
「それは……」言いよどむ未来。
巧がフォローする「優乃は口が固いから言っても大丈夫だぞ」
「それじゃあ言いますが、笑わないでくださいね……私たちは世界を守っています」
「世界? それはまた大きくでたね」
「私たちには特殊な力があり、日夜侵略者と戦っているんです」
「ふーん。私にはよく分からないけど、巧が忙しいのはちょっとわかった。最近、付き合い悪いもんね。でも世界を救ってるならしかないよ」
「なんの疑いも持たないのか」と巧。
「うーん。ウチはUFOとか信じるタイプだからさ。この世界が危機に瀕しているとか言われても信じるかな」
寿司をパクパク食べている。
買ってきたものに統一感がない。ピザがあるかと思えばお寿司があり、ひじきの煮物がある。たぶん各々が食べたいものをバスケットに入れたのだろう。
寿司は白米が多いし、ピザはカロリーが高すぎる。うーんと考えていると、悠がサラダチキンを勧めてくれた。
ありがたい。脂質が少なくタンパク質が豊富。筋トレ後にはもってこいだ。
巧が食べながら訊く「ところで……そのスイカとでかい袋はなんなんだ?」
「スイカ割りしようと思って」と優乃
「まだ6月だぞ? 気が早いだろ」
優乃が嬉しそうに「みんなで決めたんだ!」と追い打ちをかけてくる。まぁ近くに公園もあるし付き合ってやろう。
話に花を咲かして時間は過ぎ去っていった。巧だけ蚊帳の外だったが、3人は意外と相性がいいみたいだ。そうこうしていると日が沈んだ。
「よし! いざ出陣!!」
4人揃って家を出る。家の近くには“
巧が門から入りつつ「ここ火気厳禁じゃなかったか?」と言う。
優乃が応える「ふふーん。大丈夫大丈夫。ダメなのはバーベキューだから。ちゃんと調べてきたから」
適当な場所を探してスイカを置く。巧が叩く役らしい。
優乃が「ほらほらネクタイで目隠し目隠し!」
3人の誘導に従って叩くが当たらない。
未来は辛辣だ「巧様、案外使えませんね。悠さんお手本を」
パカン!!
一発だった。もちろん周りの指示もよかったのだが、ここまであっさりと叩き割られるとくやしい。ぐしゃぐしゃになったスイカを各々もって、川の方に行く。
優乃が、はなび〜はなび〜と鼻歌を歌っている。
悠はネズミ花火を追い回し、未来は線香花火をちまちまと、優乃は手に持った花火をぐるぐる回している。三者三様。
4人が花火に飽きた頃。
優乃が「打ち上げ花火をやろう」と言い出した。確かに花火セットのなかに入っている。
巧が火をつけることになって、恐る恐る着火。
季節はずれの夜空に大輪が咲いた。
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