第12話 乙女だよ!
「授業おわり〜!! つかれた!」悠が伸びをする。今日から期末テスト期間で授業が早く終わり、部活も休みだ。部活は好きだが、たまには休むのもいい。
クラスメイトの
「今日、スタバ行きたいです。レモンケーキフラペチーノ飲みたくて!」花音が嬉しそうに話しかけてくる。
「いいよ。行こっか」と悠。今日はチートデーってことにしよう。
2人で向かったのは渋谷2丁目店。クロスタワー店なんて騒がしくし行く人の気が知れない。
鼻歌を歌いながら横を歩く花音を余所目に、出会いを思い出していた。あれはまだ2人が入学して間もない頃。花音は丸菱重工という巨大企業の令嬢で、クラスでもお嬢様扱いされていた。
悠はそんなことはどうでもよくて、特に関わりもなかった。しかし体育の時間。ドッジボールの際にぼやぼやしている彼女に剛速球の玉を当てたのだった。
花音はひっくりかえって、あたりは騒然。救急車まで呼ぶことになった。幸いただの失神だったが……。
それを受けて悠は母親と花音の家に菓子折を持っていくとどっしりとした貫禄のある父親と花音が出てきた。巨大な邸宅の和室に通された。
「話は花音から聞いています。別に故意だったわけじゃないでしょう謝らなくて結構ですよ」
「すみません」悠の母親が謝る。
「柊のお嬢さん。聞きたいんですけど、なんでうちの子狙ったんですか?」
「ぼやぼやしてたからです。的みたいに見えました」
「至近距離だったと聞いていますよ?」
「外したら負けますから」
悠は空気が読めず思ったままを伝えてしまった。
西園寺父は「わはははは」と大きな声で笑った。
「お嬢さん実に気に入りました。君がもう少し大きくなったらぜひ我が社に欲しい人材ですね。勝負で忖度しない、使えるものは使う。いい社員になりそうです」
それはそれとして……とお茶を一口飲んで父は続けた。トーンが重くなった。
「花音はですね、昔から私の娘ってだけで変に扱われてきたんです。だから本当の意味で友人がいないんですよ。私とのパイプ目当てだったりして……。学校でも浮いているでしょう。そこで、もし柊さんよかったら仲良くしてやってください。このとおりです」
土下座された。
その横で花音も頭を下げた。まぁそれから色々あって仲を深めたわけだけど、きっかけはそんな感じだった。
「ねぇ、聞いてる?! 悠!!」
「あ、え? うん」なにも聞いてなかった。
「悠には好きな人がいないのかって聞いてるの!」
「うーん。いないかな……」
「そうなんだ。ふーん」と意味深な表情を浮かべる花音。
そうこうしているうちにスタバについた。
もちろん頼むのはレモンケーキフラペチーノだ。少し汗ばむ季節にはぴったり。
「で、なにで悩んでるの?」悠が聞く。
「えへへ。バレてた?」
「ばればれだよ。べつにいいけどさ」
「うーん、実は別クラスに気になる人がいてさぁ……。そんな話したことはないんだけど……悠から情報欲しいというか……」
「え、まさかとは思うけど、巧のことじゃないよね?」
花音は顔を真っ赤にした。
「あれはねぇ……やめたほうがいい」
「分かってる。自分でもわかってるけど。胸の鼓動が……」
「乙女か!」
「乙女だよ!」
「どんなところが魅力的なの?」
「一匹オオカミでかっこいいところ。背も高いし……最近は地味な女の子と一緒にいるけど、あの子には勝てる自信があるから大丈夫」
「実際のところ、荒川さんってどんな感じなの?」
「うーん。私もそこまで知らないけど粗野だよ。でもそうだなぁ。筋は通すやつかな」
「え、悠の評価高いね。周りの評価と全然違うじゃん。近づいたら喧嘩になるって噂だよ」
「じゃあ今から呼ぶ?」
「えええ。ちょっと待って、荒川さんを呼びつけるの? そんなことして怒られないの?」
「私のお願いなら聞いてくれると思うよ」
「え、なんか弱みでも握ってるの?」
「そんなところかな」
◆
30分くらいして巧が到着した。黒のTシャツにジーンズ。なんともなしにタグを見たらリーバイスだった。ファッションにお金をかけるタイプだったのか。
「こちら、西園寺花音さん、こちら荒川巧さん。私は向こうの席に動くね〜」悠はチェシャ猫の笑みだ。
「西園寺さん? 俺らどっかで合ったか? てか飲み物空だな、アイスコーヒーでいいか?」
「は、はい」消え入るような声を出す。
巧がアイスコーヒーを持ってくる。
「俺は難しい話とか苦手なんだけど、なんでここに呼び出されたんだ? 悠は西園寺さんに聞けの一点張りだし……」
「えと、その……」
「悠に呼ばれたから来たんだけど、俺も暇じゃないんだよ。用事がないなら帰るぜ」
「じゃ、じゃあ休日の過ごし方教えてください!」
「変なこと聞く奴だな。筋トレと将棋くらいだな」
「じゃあじゃあ、どんなお料理が好きですか?」
「高タンパク低脂質だとありがたい。時々、ラーメンを食べたくなるが……」
「好きな本はありますか?」
「お前、本当に変な奴だな。これじゃあお見合いみたいじゃないか……あ、もしかしてそういうことか?」
「そうです。荒川さんのこと、遠くからお見かけして好きになってしまったんです」
「俺の風貌を見て、大抵は引くんだけどな。だがあんた、遠くから見たってことは俺のことよくわかってないんじゃないか?」
「ごめんなさい。知りもしないのに好きだなんて」
「別に否定はしない。ただもし今後、恋人になるならちゃんと知り合う必要がある」
「そう思います」
「じゃデートでもしよう。連絡先を教えてくれ」
連絡先を交換すると巧は去っていった。
「ね、粗野だったでしょ」
「でもコーヒーくれたし、真摯じゃん! ますます好きになっちゃったよ〜」
「ほどほどにね」
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