第10話 傘は持ってる?

「傘は持ってる?」悠がニヤつきながら訊く。


「持っている」


「話が早いね、目眩が治まったらさっそく練習しよう」 悠はそう言いながら水色の傘を見せる。


「まずは攻撃を躱すところから。ウチらの戦いは防戦が多いから」


「その前に巧様の能力について教えて上げないとアンフェアですよ」


「それもそうか……」


「そんなもんいるか、女には負けねぇよ」


 悠は髪をポニーテールに結び終えたかと思うと「領域侵犯!」と唱えた。さっきまでただの水色の傘が弓矢の弓に変わっていた。どこからともなく矢を取り出して、「トクソ・トゥ・ネルー」と唱え弓を射った。


 一直線に巧めがけて飛んでくる。反射的に傘ではたき落とした。我ながら恐ろしい反射能力だ。キスが効いているのだろう。ただ次々と矢が飛んできてじり貧になる。相手は長距離型だから、接近するしか他に手はないだろう。


 矢の雨を躱しながら、徐々に悠に近づく。悠も接近されたくないので後方に下がりつつ攻撃してくる。


 未来がすぐそばで「2人とも危険です。ここは順を追って練習しましょう! どちらかが大けがしますよ!」


 悠は一瞬だがその声に気を取られた。巧はその瞬間を狙ってレスリングのタックルをを決めた。悠をずざーと砂の上を滑らせてしまった。立ち上がろうとすると、悠の胸をわしづかみしてしまっている。


 一瞬で顔を真っ赤にする悠と、怒り心頭の未来。


「あーわりい」


 2人の少女からむすっとされた。


「巧様に傘の使い方をお教えしようと思いましたが実践形式を続けようと思います」


「つめたくないか?」


「つめたくありません!」とあしらわれた。


「ただ一言アドバイスするなら、今の巧様なら傘を浮かせられるということです。

 それともう一つはシールドを完全に展開するためには詠唱が必要です。覚えてくださいね。『アスピダ・ティス・ギス』です。

 では行きます。

 領域侵犯! クシフォス・ティス・フォティアス!」


 未来の剣は炎をまとっている。悠のものは水。なんとなくだが一緒にくらったらダメな気がする。というか大丈夫なダメージってあるのか? 若干死期を感じる。


 未来と対峙する。お互いに円形に回るが、悠からの攻撃も躱さないといけない。これはかなりの難題だ。


 そうだ。傘を浮かしてみよう。なにか効果があるのかもしれない。確かに上に浮かんだが、なにも起きなかった。嘘かよ。アスピダ・なんちゃらの呪文も覚えていない。


 その瞬間に未来から攻撃が入る。軌道が読めなかった。かなり手慣れている。とっさに腕で受け止めたが、そこまで熱くなかった。痛みはある。しかし切られたという感じもしなかった。


 未来が話しかける。


「そうです。巧様の能力は盾です。盾は巧様の全身に作用し、腕や拳も強化されます。鉄の拳みたいな感じでしょうか。私たちの能力は通常状態でも発動していますが、それをより一層強めるために詠唱をしています。巧様の場合は『アスピダ・ティス・ギス』です。その上でもう一度手合わせを」


 3人で距離を取った。巧は傘を浮かせ、2人の動きを観察する。2人とも運動能力が高い。悠は弓道部らしいので、分かるが未来はどこでトレーニングをしているのだろう。


 1本目の矢が飛んできた。恐れることはない。じっとみつめて躱せばいいのだ。いまだ!

 矢は顔の横をかすっていった。頬が切れた。完璧に躱したはずなのになぜ……。


 未来が斬りかかってくる。それを腕で受ける。プロテクターをつけたように衝撃だけ感じる。お返しに未来の頬をかるく触ってやろうとすると避けられた。ボクシングのスエーバックみたいに。


 悠の矢はさきほどと違い、身体をかする。だが幸いブーストされた肉体と防御能力でどうにかなっている。


「よく躱すね!」悠がにこにこしながら言う。


「躱さなかったら死ぬからな」


「手加減してるからそんなことはないよ! でもこれは手加減できないかも!」


 矢が飛んできたので躱すが、矢がカーブを描いてまだついてくる。ホーミング?! 慌ててそれを掴むとその矢は冷たかった。冷たいなんてものじゃない。掴んだ腕が凍り付きそうになっている。


「巧様〜 いま溶かしますので」


 そう言って未来は両手をお椀ようにするとそこから火がでてきた。特殊な氷だったのか、特殊な火だったのかわからないがどうにかなった。


 3人でベンチに腰を下ろした。


「やれやれだ。どんどん新しい能力が出てくるなんて聞いてないぞ」


「お言葉ですが巧様、それが実戦です。相手のカードはいつもわからないのです」


「そうかもしれないけどよぉ……それにしてもお前ら強いな。おれだって喧嘩では負けないんだぞ」


 未来はこう返す。


「私たちは元々、戦うことを主眼に置いてません。守ることが第一なのです」


「いや、悠なんて殺す気で来てただろう」


「その方が荒川君は好きかと思って」


 テヘペロと舌をだす悠。


「あ! そうでした私、今日は実家のお手伝いをする予定でした。一足先に帰ってますね!」


 わたわたとしながら未来は帰ってしまった。


 悠と2人……気まずい。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る