第8話 応急処置は一応学んでいる

 こうなるとなかなか動けない。


「おら、どうしたよ金髪くん。女ってのはな弱点なんだよ。弱点。分かるか? 女を連れて歩くって時点でリスクなわけ。ほーら首筋切っちゃうぞ? 顔にしてやろうか?」


 黒服と白服が近づいてくる。


「やってくれたなぁ……これでお前も井の中の蛙だな」


「兄貴、それはちょっと違う気がしますが……まあでも締め上げますか」


 黒服を後ろから巧を羽交い締めにすると、白服がみぞおちにパンチを打ち込んだ。効くは効くがそこまでではない。こいつは本格的に鍛えてはいない。


 何発か打ち込まれてつつ、紫パーカーにスキがないか観察する。


「お嬢ちゃんさぁ、前髪で顔があんま見えないけどかき上げると可愛いよねぇ……胸もあるし」


 そう言いながら胸をまさぐる。


「下の方はどうかなぁ……このロングスカート邪魔だねぇ……。切っちゃおうか」


 未来は過呼吸になっていて苦しそうだ。今すぐにでも助けないと……。気ばかり焦る。でもここで巧が動いて怪我でもさせたらと思うと動けない。


 そいつらの背後から1人の女性が歩いてきた。変な風貌だ。真っ黒のラバースーツのようなものを着ている。エ〇ァとかGA〇TZとかに登場するような。


 そいつが未来を押さえている紫パーカーの背後に回ると、ナイフをもった左手を捻り挙げた。


「いてぇいてぇ」と紫パーカは叫ぶがラバースーツはどこふく風で、そのまま腕をへし折る音が聞こえる。それにビビる2人組。逃げようとするが、ラバースーツにパンチと蹴りで気絶させられた。


「少女よ落ち着きたまえ。敵は去った。呼吸をゆっくりするんだ。吸って〜吐いて〜吸って〜吐いて。そうそう、その調子だ。君を害する存在はみな打ち倒した。大丈夫、安心して。吸って〜吐いて〜吸って〜吐いて〜」


「随分と手際がいいんだな。あんた」


「応急処置は一応学んでいる」


「なんで助けた?」


「理由は2つだ。1つは少女が危機に瀕しているのを見逃せないからだ。2つ目は我々はいずれ合うからだ。今回は少し予想外だった」


「なにはともあれ助かった。あんたはどこか遠くへ行ってくれ。おれは警察を呼ぶ。もしかしたらこの紫パーカーが重要人物かもしれないんだ」


「それでは御免被る」


 さっと歩き去ってしまった。あれほど目立つ格好だというのに、すぐに見えなくなった。歩き方が特殊なのかもしれない。


 巧はスマホで山口に電話する。


「現場はそのままにしておいてくれ。すぐに向かう」


 10分もしたか、パトカーが到着すると、なかから出てきたのは本田だった。続いて山口もくる。


「君たちなにしたんだ? 喧嘩か?!」


「おいおいどうなってるんだよ。なんでこいつが居るんだよ。話にならねーぜ」


「新人教育も兼ねてな」


「本田。いま大切なことはここで喧嘩が起こったことか?」


「そうです!」


「ほんとうか? 俺たちはジャックを追ってるんじゃないのか?」


「そうです!」


 本田は一々敬礼しながらハキハキと答えるが、ちょっと頭が気になる。


「こいつバカなんじゃないか?」


「そう言うな学校を出たばかりなんだ」


「巧君といったなこれをやったのは君なんだろう? 事情徴収しますか?」


「巧、ここでなにがあった?」


「こいつらに絡まれてのした。それだけだ」


「で、この紫の奴がジャックかもというわけだな」


「まぁ可能性は0に等しいが服の色と、ナイフを持っているからな。数少ないが情報と一致している」


「3人を1人でやったのか?」


「ああそうだ」


「流石だな。今でも腕が鈍ってないということか」


「それ暴行事件ですよ! 署に連行すべきです!」


「あのなぁ……それを一々対応してたらもっと重要な事件を逃すんだよ。喧嘩があったなくらいで済ますんだよ。わかったか?」


「はい! 肝に銘じます」


 未来の方をみると、アスファルトに座り込んでいる。つかれたのだろう。


「怖い思いをさせたな。どっかで茶でもして帰るか」


「はい!」と未来は元気よく答えた。

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