第7話 デート

「お願いってなんだ?」


「そのぅ……えっとですね。リハビリに付き合って欲しいんです」


「リハビリが必要な傷なのか?」


「あ、はい先生からも少しは動くようにと言われています」


「病院内でも一緒に歩くか?」


「いえ、その渋谷で買い物をしたいのです」


「本当にリハビリなんだよな?」


「ほ、本当です」未来は目を泳がせた。


「じゃあどうする?」


「私はこれから朝食を食べるのと、着替えたりもしたいので15時に渋谷駅ハチ公前でお願いします」


「わかったよ」


 もっと問い詰めればリハビリではないと言いそうだったが、友人を亡くしたばかりだ。気分転換くらいは付き合ってやろう。


「じゃあ俺も着替えてくるわ」


 ◆


 14時50分。巧はハチ公前に居た。ジーンズに白いTシャツ。首には金色のネックレスをつけているが、それ以外の装飾はつけていないし、バッグすら持っていない。


 未来が少ししてハチ公前にやってくる。服装はレトロガーリースタイル。深紅のブラウスに黒のフレアスカート。首元に茶色のリボンがついていて、肩からヘルプマークのついた薄ピンクのポーチをかけている。


 巧は私服を初めて見た。なかなか可愛らしいが、相変わらず色つきの眼鏡とイヤーマフは付けたままだ。


「どのお洋服にしようか迷ってしまって……遅れてすみません」


「大して待ってない。でどこに行く?」


「まずは本屋さんに行きたいです。啓文堂書店」


「あのスタバのところにあるやつか?」


「いえ。そこにも行きたいですが、まずは普通の本屋さんです」


 歩き始めると未来が手を握ってくる。それを振りほどく巧。その攻防が何度か繰り返された。


「おまえなぁ……そういうのはウザいからやめてくれ」


「そ、そうですか? カップルであれば当然だと思いますよ?」


「いつからカップルになったんだ? 俺たちは」


「今朝、巧様の方から『彼氏』だと仰ったじゃないですか?」


「ああ。あれは刑事を黙らせるための方便だ。真面目に受け取るな」


「え。そんなぁ……では私たちはお金だけの関係なんですね?」


「嫌味な言い方をするな。だがいずれにしても、俺たちはカップルではない」


「じゃあせめて服の裾だけでも……」


「勝手にしろ」


 書店に入ると未来は水を得た魚のようにいろいろなとこをへ動き回る。対して巧は居場所に困った。本なんか読まないので、どこへ行けばいいのかさえ分からないのだ。

 そんな巧を見つけて未来は声をかける。


「巧様は本をあまり読まれないのですか?」


「読まないな」


「じゃあ漫画は?」


「あまり」


「じゃあここは早めに切り上げましょう。レジの近くで待っていてください」


 少し待つと未来は数冊の本を抱えてきた。ライトノベルだ。それを店員に渡し、袋に入れてもらった。そそくさと巧の方によってきてきて一冊の漫画を手渡した。


 表紙には『Re:CREATORS』と書いてある。


「なんだこれ?」


「私が一番好きな作品だからです。読んでほしいなと思いまして! 袋も二枚もらったので、これに入れてください」


 要領のいいやつだ。


「次に行きたいところはBunkamuraギャラリーです」


「お前、背中大丈夫なのか?」


「うーん。痛いは痛いのですが、こうして巧様と出かけられるチャンスはそうそうないですから」


 ギャラリーに行く途中、三人のチンピラ、巧と同じ匂いのする奴らが向こうから歩いて来る。未来は警戒したようだが、巧は気にせず歩いていた。三人のうち、一人と肩がぶつかった。


「おい。てめーいまぶつかっただろう?」三人の中で一番でかい奴がいう。


 さっと人混みに紛れたかったが、運悪く裏路地だ。


「知らねーな」


「なんだおら? 可愛いねーちゃんも一緒じゃねぇか。俺たちと遊ぼうぜ?」


「そいつに手を出したらただじゃ置かないぜ?」


 黒服は「そうかよ」と言って頭突きをしてきた。頭がジーンとするがそんなのは関係ない。距離か近いのでそのまま背負い投げをかます。その後その腕を身体の後ろに回して力をかけて、脱臼させた。


「いてぇ……」


 今度は白のシャツを着た男が殴りかかってくる。甘い。殴るときに振りかぶって殴るのは得策ではない。力が分散するし、軌道がすぐに読める。顔面にカウンターをお見舞いした。


「動くな!」


 紫パーカーの男が未来を捕まえて、喉に折りたたみナイフを突きつけている。ジャック? と一瞬思う。だがどうしたものか。

 未来はまた過呼吸を起こしているが男たちに関係はない。


 黒い服の奴と、白シャツが起き上がってきて、巧を殴りつけた。「反抗したら、この眼鏡女がどうなるか分かってるよな」


 こうなったら最後、賭けるしかない。敵が本気であれば容赦なく切ってくるが、二人を軽く蹴散らせば手を離す場合もある。


 さてどうしたものか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界侵食 〜ヤンキーは電波少女の妄言に巻き込まれて世界を救う〜 清原 紫 @kiyoharamurasaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ