第3話 世界を救うメンバーです

 未来の用心棒をし始めて数日が経った。先週の金曜日にまた未来のヘッドホン、もといイヤーマフを取る遊びをしている奴はいたが無視した。未来も巧に助けて欲しいとも言わない。それでいいのだろう。


 怠い授業が終わると未来がこちらへ来る。


「巧様、18時になったら弓道場に来て頂けますか?」


「わかった」


「私は一足先に行ってますので」


 そう言って踵を返した。事務的な態度。ちぐはぐな奴だ。キスして欲しいと言ったかと思うと、人を金で動かす。ウエットなのかドライなのか分からない。

 とはいえ、べたべたされたらそれはそれで嫌なのだが。


 巧は屋上へ行き、タバコをふかしながら将棋ウォーズというオンライン将棋対戦アプリをして時間を潰していると、誰かが屋上に入ってくる。金髪の女だ。こちらを認めたのか走ってくる。


「うぇーい。巧じゃん。噂聞いてそうかなって思ったんだよね」


 ハイタッチを交わす。


 彼女は山口優乃。高校はバラバラになったのだが、それでも交流のあるごく僅かな友人だ。ブリーチした髪にピンクのインナーカラーが入っている。スタイル抜群でコミュニケーションスキルも高い。人気を集めるタイプだ。


「まさかここに転校してくるなんてね。どーせ誰か殴ったんでしょ。ここではやるなよ〜」


「そんなところだ」


「で、ここでなにしてんのさ? タバコふかして感傷に浸ってるの?」


「いや、時間を潰してる」


「ふーん。誰かとの待ち合わせでしょ? 丸くなったねぇ……」


「まぁそんなところだ」


 巧はゲームをしながら優乃と話し時間を潰した。


 そろそろ時間だなと空を見上げる。今日は変な天気だ。さっきまで晴れていたと思ったが、今は曇っている。もしかしたら雨になるかもしれない。


 ◆


 18時。巧は弓道場にいた。部活はすでに終わったようだ。うろうろしていると未来に声をかけられた。部室に来いという。


 なかに入ると弓や矢が綺麗に整頓されている。運動部特有の匂いもほとんどしない。剣道部だったらこうはいかないだろう。


 部室の中にはパイプ椅子が数脚あり、真ん中に小さなテーブルが置かれていた。少々手狭だ。そこに座っているのは、男が一人、女が一人、未来と巧の4人だ。


「そろそろ始めましょうか」未来がその場を仕切った。今までに見たことのない態度だった。堂々としている。未来はこの部の部長なのかもしれない。


「まず紹介します。こちらが荒川巧様です。今日から入って頂きます。そして私は彼がキーだと思っています」


「おおー! ついにキーを見つけたんだね!」


 男が喜んでいる。


「名乗り遅れたね。俺は柊新一ひいらぎしんいち、君のひとつ上の学年だけど、あまり気にしなくていいから」


 新一は巧と握手しようと手を出してくる。腕が太い。身長は巧とそう変わらないが筋肉が美しくついている。制服の上からでも、鍛錬されているのが伺える。


「ああ。よくわからないがよろしく」


 もう一人の女も巧と握手しようと手を出してくる。


「私は柊悠ひいらぎゆう。残念ながらそのでかいやつの妹やってる」


 女の方も身体がしっかりとし、背筋がぴんと伸びて身体がカモシカのように引き締まっている。身長は未来よりも低いか。髪はポニーテールで可愛らしいピンクのヘアゴムできつく留めていた。


「メンバーは私含め3人です」


「あのさぁ。なんのメンバーなんだ?」


「私たちの世界を救うメンバーです」


「意味がわからん」


「いずれわかると思います。今ご理解頂きたいのは私たちが世界を救おうとしていて、巧様にもご助力頂きたいというものです」


「巧君はまだ受け入れてないんだな」と新一。


「ええ。キスもまだです」


「急ぐ必要があると思うが……」


「本人の同意なしに無理矢理というのは気が咎めます」


「おいなんなんだよマジで。世界救うとか本気でいってんのか? てかあれかこれ宗教か。だったら俺は間に合ってるぜ」


 未来はそれを制して、窓の方を見た。雨雲がさらに発達しているようだ。


「そんな予感がしていましたが、これから浸食がおきます。脅威レベルは不明。行きましょう。屋上です。巧様はこれを持っていってください」


 黄色い傘を渡された。


 なにに使うんだこれ。


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