Chapter5 東の空で旅する雲
第13話 肝試し
世の中に霊を信じる人は果たしてどれくらいいるだろうか。神様を何となく信じる人はいるかもしれないが、実際空想の話にすぎない。現実に影響を及ぼす存在ではない。そう思う人が多いだろう。私もそうやって目に見えない存在を何となく信じて、時々一種のエンタメとして楽しむ。そのくらいの生き方をしたかった。
というのも私は生まれつき目に見えないものを否が応でも感じさせられてきた。いわゆる霊感の強いタイプの人だった。霊感が強いって羨ましい、と軽く口にする人達にはいつもイライラする。それなら四六時中霊に脅されてばいいのにと思っていた。
私の霊感は霊だけでなくそういう類の話が好きな人も沢山寄せつけた。昔の純粋に楽しんでいた友達との仲はいつからか失われてしまったのだ。
私はおそらく一般的に見たら明るくて快活な方の人間だ。気持ちが顔に出やすく感情の起伏が人より多いのは事実かもしれないが、そのおかげで深く関われる存在として扱ってもらえる面もあったと思う。
実際小学生の頃からの友達は楽しい時も辛い時も常に寄り添ってくれたし、私も寄り添ってあげられていた。何でも遠慮なく話せる関係は私にとって本当に貴重なものだった。
しかし学校が離れ、付き合う友達が変わってからは以前ほどの安心感で接することは難しくなった。関わる人は皆私の霊感を面白おかしく扱い、しょっちゅう肝試しに誘われた。結局私がいないと話題性がなくて困るのだろうなと思うと行かざるを得なかった。
正直肝試しは憂鬱でしかなかった。そこらじゅうにただならぬ雰囲気を感じ、いちいち気を遣っていると疲れてしまうのだ。本来私はビビりで怖いものは見たくないし関わりたくない性格だった。だから霊感を持つことと相性が悪い。ただこうして何回も心霊スポットとやらに連れていかれるせいで慣れてきたのは確かだ。最近は肝試しに誘ってくる人達が勝手におどおどし始めるのを見て、それなら来なければいいのにと呆れてしまう。望んでもないのに悪役に仕立て上げられる霊たちを可哀想に思った。度が過ぎると私が申し訳ない気持ちになるので、一人で見えない霊に向かってお詫びをすることもあった。
肝試しに誘ってくる人たちはよく「どこにいるの?」と聞いてきた。私から言わせてもらえばその答えは「どこにでもいる」だ。ただそんなことを言ってもつまらない顔をされるか、過度に怖がられるだけなのでそれっぽいことを答える。一応一番雰囲気を感じるところを伝えるようにしているが、挙げ始めたらきりがないということを分かってくれないだろうかといつも嘆く。
そんな中でも少し気の許せる友達がいた。莉子、葵、真奈の三人だ。それぞれの誕生日にはパーティーもするし、普段からよく話していた。親しい三人がいてくれるのはとても嬉しかった。しかし彼女達にもやはり私の霊感のことを軽く話題として出して楽しむ傾向があった。
今日の何十回目かの肝試しは三人と一緒に行くことになっている。他の人よりは気楽に過ごせるが、結局肝試し自体が疲れることなので辛さはあまり変わらないだろうと思った。私が勇気を出して「行きたくない」と言えば三人はきっと分かってくれるだろうし、下手に私の嫌な話題を出すこともなくなるだろう。それでも私はそのことを切り出すことで壊れてしまうのではないかと不安になるくらいの関係性しか築けていなかった。だからこれからも真剣にその相談を切り出すことは無いだろう。
日が沈みかける頃、学校の正門前に四人で集まった。制服から着替えてすっかりお楽しみ気分になっている三人を見てため息が漏れる。「さっさと行こう」と呼びかけた。
「さすが美咲はやる気が違うねえ」
心霊・オカルト系の話題に異常なほどの興味を持つ葵がいじり口調でそう言った。だから早く終わらせたいだけだって。そんなことを考えても仕方ないので歩き始めた。とはいえ、どこに行くのか知らされていなかった。
「ていうか、今日どこの心霊スポット行くの?」
「そうだ、美咲にはまだ言ってなかった。あれ、真奈どこだっけ?」
「私も調べただけで初めて聞いた名前だからうろ覚えなんだよね。ちょっと待って、今サイト確認してみる」
そこそこマイナーなところに行くらしい。まあどこになろうと私にとって疲れるだけということは変わらない。
「あったあった、んーこの漢字読めないなあ。美咲ここ分かる?」
真奈が見せてきたまとめサイトには中国でしか使われていないような難しい漢字が並んでいて最後に"霊園跡地"と続いていた。
つまり昔誰かが管理していた墓地でその管理者がいなくなって以来、放置されたまま荒れ果ててしまった場所、といったところだろう。行ったことのない場所だった。
「んー、私も分からないかなぁ。けどここからそんなに遠くないんだね」
「そうそう。近くの山の中にあるみたい。」
「まあよく分からないけど行ってみるしかないね。やばそうだったら言うから」
「頼りになる〜」
そう言ってみたはいいものの初めての場所となるとやっぱり不安はある。私の経験上、霊の機嫌を損ねるようなことをしなければ基本無事に帰れる。しかし時々危険な気を感じる時もあるので意識を集中させる必要はある。それにさっき見たまとめサイトで危険度が最高値になっていたのも気になった。どうして三人はこんな場所を選ぶのだろうかと思った。
山の中を進んでいくと一瞬にして辺りが暗くなった。一応懐中電灯も持っているし落としてしまってもスマホさえしっかり持っていれば明かりは大丈夫だろう。ただスマホを見るとまだ山に入ったばかりなのに圏外の表示があり、異様な感じがした。ここまで暗いと単純に危険なので他の三人がパニックにならないよう配慮しなければいけないと思った。
それからまたしばらく歩くと突然墓地が姿を現した。青白い街灯が一本だけ立てられていて不気味だった。
「着いたね……」
おそらくこの中で最も心霊を苦手とする莉子が口を開いた。すでに声が震え始めている。
「そんなビビってたら余計寄ってくるよ」葵がからかうように言った。
「そうだよ。もっと気軽に行こ。ちょっとした楽しみのつもりでさ」と真奈。何だか傍から見たらよくバランスが取れているなと思った。
私は少し異変を感じ始めていた。三人には言えないが霊の気配がほとんど感じられないのだ。山に入った途端に電波が圏外の表示に変わった。しかしその時も私の霊感は何も反応しなかった。……私の感覚が鈍ってきたのだろうか。それともこの周辺の電波が人為的に操作されているのか。私たち四人には関係ないと思いたいが。
「美咲としてはこの場所どのくらい危険だと思う?」葵が尋ねてくる。
「あんまり危険な感じはしないな。ただ暗いだけって感じ」
「ほんとに?私たちを油断させようとしてない?」
「してないって。まとめサイトには危険度マックスって書いてあったけど実際何がマックスなの?って思うし」
「おぉー、結構言うね」
そう言った葵の口角がゆっくり上がったのを見て、しまったと思った。絶対変なことを企んでいる。弁明しようとしたが間髪入れず葵は口を開いた。
「私、さっき思いついたことがあってさ。どうせ暗いわけじゃん?」
「うん」
「だったらいっそのこと目隠ししてもいけるんじゃないかなって」
「うん……?」
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