最終話 サラはハイになりました

 二月十四日、乙女にとっての赤壁の戦いである。違うか。そんな一人ツッコみをしてしまうぐらい睡眠不足でテンションがおかしい。


 謎の呪文で光に包まれた後は、いつの間にか家の中に戻っていた。台所の、冷蔵庫があった一角が闇色の箱みたいになってる以外は、いつも通り。お母さんを起こして、そこに入らないようにだけ注意し終わったときにはもう日付も変わって一時を回っていた。


 五時間だけ寝て、チョコを持って、いつもより三本早い電車に飛び乗った。

 ちょっと壊れたままのチョコの箱が、昨日の冒険が夢じゃなかったと告げている。

 ……新しい箱に変えたいけど、こんな時間じゃ百円ショップも開いてないし。


 一駅揺られる間に、脳内軍議。もとは古式ゆかしく下駄箱に入れる計画だったけど、登校待ち伏せに作戦を切り替える。夜討ち朝駆けは武士の習いとぞいふ。そもそも、ダンジョンでモンスターにつけまわされるのに比べれば、告白なんてなんぼのものか!


 頭田すだくんは自宅から徒歩登校だと確認済み。駅からのルートとは逆方向なので、学校の前を通り過ぎる。


「がんばれ。遅れんなよ」


 すれ違った担任に励まされた。意外と理解あるんだな、あの先生。

 あまり目立たないように電柱の影に立って待つ。それでも、何人かの生徒たちに気付かれた。不思議そうな視線を向けてくる。

 昨日までの私なら、この時点でかなり心が折れそうになっていたはず。今でも結構心理的圧迫感はある。

 でも、あえて笑ってみる。ダンジョンのモンスターよりは怖くないし。

 何人かは目をそらすだけ。何人かは励ますように頷いてくれた。親指立てた人も1人。そう、恐れることはない。


 一限まであと十五分というところで、彼の姿が見えた。

 頭田すだくんだ。

 制服はちゃんと着てるけど、髪はちょっとボサボサ。やっぱり睡眠不足なのか、あくびをしてるのもちょっとかわいい。


「あ、あの!」


 電信柱の陰から飛び出し、チョコの箱を突き出す。

 止まりそうになる喉を叱咤する。ダンジョンでモンスターの攻撃に晒されるのに比べれば、告白なんてなんぼのものか!


「わたし、同じクラスの、昨日、あ、ダンジョンヘッドさんですよね」


 昨日の配信者のことをどうこう言えないぐらい、ひどい順番で話してしまった。なんで、事前にどう話すかを考えてなかったのか。私のバカ!


「え、青山さんが、バンチョーさん?」


 あ。

 名乗り損ねたのに苗字を呼ばれて、ちょっと目頭に来てしまった。頭田すだくん、私の名前を知っててくれたんだ。


「そう、だから、その」

「いや、ちょっと待って。確かにダンジョンヘッドは俺だけど、ダンジョンで守り抜いたチョコでしょ? ちゃんと好きな人にあげた方が」

「初めから、頭田すだくんのために作ったやつだから!」


 あわあわと手を無駄に動かしていた頭田すだくんがさらにあわあわする。


「それは、つまり、その……」

「本命、です」


 二月の空気が、ひときわ冷たく感じられる。顔に血が上りすぎてるんだ。

 走り出しそうになる足をとめ、返事を待つ。


「ええと、俺、まだ青山さんのことよく知らないから……」


 彼の顔も真っ赤になる。多分二人とも同じ色だろう。


「パーティーメンバーからじゃダメですか」


 このヘタレめ。でも、ヘタレっぷりは私もいい勝負。いきなりラブラブカップルより、この辺が手の打ちどころでしょ。


「いいよ。じゃあ」


 私は学校の方を指さす。


「一緒にダンジョンに行く相談しよ」


 チョコの箱はしっかり彼に押しつけて、二人並んで歩き始めた。


୨୧・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧・・・・・・・・・・・・・・・・・୨୧


 あとがき


 ダンジョン配信(?)に巻き込まれてしまったサラですが、なんとか無事に帰りついてチョコを渡して告白できました。

 頭田くんの答えはちょっと煮え切りませんでしたが、まずは一歩前進!


 本作はここで一旦終わりですが、評判良ければ続編や長編化も考えています。

 ちょっとでも興味が湧いたなら、★や♡いれていただけますと幸いです。



 また、長編でもカクヨムコン10に挑戦しております。

 お願いします、読んでください!


 『魔女と聖女はすれ違う』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330658455237705


 若くして余命短い魔女と聖女。2人が惹かれあい、そして悲しくすれ違ってしまうファンタジー百合長編となっています

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トイレに行ったら帰り道にダンジョン配信されちゃった地味オタ女子高生ですが、明日のバレンタインまでに帰れますかね? ただのネコ @zeroyancat

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