第4話 しんじろ!

 せっかくのチャンスだ。 

 私は、ダンジョンヘッド=頭田すだくんを×ペケポン上でフォロー。そのまま直接メッセージを送る。

 これまでは恥ずかしくてフォローもしてなかったけど、今の状況なら自然なはず。


バンチョー:ダンジョンヘッドさん、その試練場だとしたら、どっちに行けば出られるかわかりますか?

ダンジョンヘッド:試練場と同じなら、ちょうどバンチョーさんが最初にいた場所に出口の階段があるはずなんだけど……


 メッセージには間髪入れず答えが返ってきた。

 すぐに返事してれたのはうれしい。でも、出口の階段があったら今こんなとこにいないないのである。


ダンジョンヘッド:それが無いから困ってるんだよね。


 そうそう、その通り。さすが頭田すだくん、賢い。


ダンジョンヘッド:今いる部屋を出て、右の方に行ってみて。

バンチョー:わかりました。


 言われた通りに部屋を出て、丁字路を右に。少し行くと、また丁字路だ。でも、今度は右の道はもう扉が見えている。


バンチョー:また分かれ道です。右に行く道と、真っ直ぐと。右は扉が見えてます。

ダンジョンヘッド:まっすぐ進んで。すぐに扉があるはず。


 確かに。ほんの五歩ほど歩くと、扉が見えた。頭田すだくんの書いてる事が当たってるのが、うれしい。

 だが、喜んでばかりもいられない。後ろの方から音がしたのだ。

 振り返ると、見えるギリギリのところに人影がある。大体のシルエットは人間っぽいのだけど、私より背が低い感じで、手には何か棒のようなものを持ってるのが4体ほど。通路をふさぐ様に横に広がっているのは、つまり私を逃す気がないって事のような気がする。


バンチョー:扉あった。でも、モンスターが後ろからついて来てる。


 ついでに、ふと思いついたことも書き込む。


バンチョー:もしかして、チョコの匂いに引き寄せられてる?

ダンジョンヘッド:捨てた方がいいかも。

バンチョー:やだ!


 コレは即答。


ダンジョンヘッド:そうだよね。ごめん。


 もう! 知らないから仕方ないけど、頭田すだくんへのチョコなんだからね。

 そんなことを考えていたら、スマホが残りの電池容量が少ないとゴネ始める。


ダンジョンヘッド:扉を開けたら、左を向いて。広い通路があるはずだからまっすぐ進んで。


 急いで扉を押し開けると、すぐに壁。前も右も壁だから、左にしか行きようがない。左の方はたしかに、これまでの通路の倍の幅になっている。

 左右にも別れ道があるが、指示通りにまっすぐ。

 後ろを振り返ると、人影たちも扉をくぐったところだった。距離がちょっと縮まったからか、毛むくじゃらの犬っぽい顔が見える。狼かも?

 追いつかれないよう早足になって進むが、ちょっと変。廊下の前方の闇が、近づいてもそのままなのだ。後一歩、というところまで来ても変わらない。まるで、そこに黒い壁があるみたい。


バンチョー:なんか、真っ暗なところがあるよ!


 そんなメッセージをスマホに打ち込みつつ、黒い壁に手を伸ばす。指がそのまま黒い壁に飲み込まれた。別に何の感触もない。

 足先を入れてみると、床も普通にあるっぽい。


ダンジョンヘッド:ダークゾーンだ! いい感じだよ。


 頭田すだくんはちょっとはしゃいでる感じ。知ってるダンジョンと一緒なんだろう。


ダンジョンヘッド:その中じゃメッセージ読めないと思うから、覚えてね。暗闇の中を前に進んで壁に突き当たったら、右。その次はちょっと進んだらすぐ壁があるから、左に曲がる。


 暗闇に入って前に進んで、壁があったら右に行って左、よし覚えた。


ダンジョンヘッド: 四マス分歩いたら左に扉があるはず。

バンチョー: 四マスって何?


 ゲームのダンジョンならそれで分かるんだろうけど。このダンジョンの床を見ても、マス目事の仕切りとかは無いのだ。


ダンジョンヘッド:あ、そうか。ええと


 そんな困ってるだけのメッセージはいらないから!

 私はまた後ろを見る。もう、狼頭たちは5mぐらいのところまで近づいてきている。頭を妙な方向に傾げたりして、気味が悪い。


ダンジョンヘッド:今いる通路の幅の2倍分。扉があったら、蹴り開けてもいいから中に入って!


 今の通路は教室の横幅ぐらいだから、十歩ぐらい? その倍だから二十歩。

 それだけ覚えて、暗闇の中に飛び込む。本当に真っ暗で、手に持ったスマホの明かりすら見えない。

 スマホはポッケにしまい、右手を前に突き出して早足で歩く。左手はチョコの箱を胸に抱く。体温で溶けそうだけど、この闇の中でチョコを落とす方が嫌だ。


 十八歩目で、手の先が石壁に触る。右を向いて六歩でまた壁。ここから左を向いて二十歩だっけ。狼頭たちは、追ってきてるだろうか?


 二十歩進んで左を向き、三歩ほど歩いたところで手が木材に触れた。扉だ!

 でも、ノブの位置が分からない。右? 左? 狼頭たちの足音に怯えつつ、なんとか息を整える。

 そうだ。頭田すだくんは、蹴り開けろって言ってた!

 足の裏で思いっきり押すように蹴ると、扉は意外とあっさり開く。そのままタタラを踏んで部屋の中に入ってしまう私。


 明るい! 暗闇に慣れていた目には眩しすぎるぐらいだ。

 それほど大きくない部屋だけど、壁は本棚になっていて図書館っぽい。

 部屋の真ん中、椅子に座って本を広げている小柄な少女が私を睨みつける。何か言っているけど、言葉が分からない。


バンチョー:なんか、女の子がいるんだけど

ダンジョンヘッド:女体化!? でもNPCがいたなら当たりのはず。多分無事に帰してくれるよ。


 言葉が通じないと悟ったか、少女は呪文っぽいものを唱え始める。

 呪文に合わせて光が、私を取り巻きはじめる。これが家に帰してくれる魔法、なのかな?


ダンジョンヘッド:告白、ちゃんとできるといいね。


 そのメッセージが届いた瞬間、スマホは動きを止め、私の視界が真っ白になった。

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