第3話 あせり
コメントをずっと読んでいても、家には戻れそうにないし、スマホの充電もちょっと減ってきた。まだ40%あるけど、ダンジョン内じゃ充電はできないし。そういえば、なんで電波は届いてるんだろ?
そんな事を考えつつもまっすぐ歩くと、右への曲がり角。さらにもう少し歩くと、丁字路。まっすぐ進む道と、右に曲がる道がある。
「どっちにしよう……」
頭の中で地図を書いてみる。右だと、もしかしたらスタート地点の近くに戻るかも?
でも戻ってどうなる訳でもないし。
そういえば、迷路の中では右手をずっと壁につけて進むといいって、本で読んだことを思い出した。
右に行ってみよう。
しばらく進むと、扉があった。木で出来ていて、結構大きい。うちの玄関より一回り大きな感じで、二人並んでも通れそうだ。
「扉を開けると、普通に家の中、とかあるかな……?」
そんな展開を祈りながら、ノブに手をかける。残念ながらご都合主義な流れにはならず、ダンジョンのまま。ただ、通路ではなく部屋になっている。ちょうど、学校の教室と同じぐらい。
「他の出入り口は無いのかな?」
薄暗いので、部屋の端の方はよく見えない。そこを見ようとして部屋の中な踏み込んだら、ジャラリと音がした。
足元を見ると、コインがたくさん落ちている。それを踏んづけたらしい。
拾って見ようとかがみ込んだ瞬間、コインが跳ねた。
五百円玉ぐらいのコインが、結構な勢いで額に当たる。
一つだけなら、血が出るほどではないけどちょっと痛い。でも、足元の何十枚もあるコインがいっせいに跳ね始めた!
「ちょ、ちょっとまって!」
慌てて身体を起こす。コインは腰の高さぐらいしかジャンプ出来ないらしいので、足だけならまだマシ……
ボスッ!
鈍い音が左手の方で鳴る。手に下げたままだった紙箱に、コインが刺さった音だ。よくも人の力作チョコを!
怒りに任せて、コインをとにかく踏みつける。
チョコの紙箱は頭上に掲げ、足にコインが当たるのは構わず、何度も何度も。
しばらく踏み続けて、全部のコインが動かなくなってから私は一息ついた。
チョコの紙箱を確認すると、箱に刺さったコインがまだ動いていたので、地面に投げ捨ててもう一踏み。
スライムチョコは、箱の中でこけていたけど壊れてはいない。箱の方も、コインの厚みの細い穴が空いただけだから、とりあえずはチョコが落ちることはなさそうだ。
一安心して部屋の方に視線を戻すと、箱があった。四角い本体の上に円柱を半分にした形のふたが乗った木箱。
「ゲームで見たことあるなぁ」
私は宝箱です、と全力で主張してる形だ。中に、ダンジョンから脱出できるアイテムが入ってるかもしれない。でも、同時にファンタジーアニメで見た場面を思い出す。宝箱に化けていたモンスターに頭をかじられるキャラクター。あれはギャグっぽい場面だったから笑われるので済んだけど、これは現実だし。
誰かに聞いてみようと動画アプリを開くけど、ダンジョン配信の動画はもう削除されちゃったみたいでエラーメッセージが出てくるだけ。
仕方がないので、
バンチョー:台所がダンジョンになっちゃって、動くコインを踏みつぶしたら箱が出てきたんだけど、どうすればいいですか?
グラデ:ガチ宝箱だ! 下手に開けると、罠があるから注意しろ!
罠か、そういうのもあるんだ。やっぱり、いきなり開けなくて良かったかも。
レオン:まずは、そのコイン拾っとけば?
アイリス:モンスターと戦って、怪我はなかった?
そう言われて、改めて自分の状態を確認。額がちょっと赤いかな、ぐらいで足はズボンに守られてたので全然平気。
バンチョー:チョコの箱がちょっと壊れたけど、中身は無事です。
幽霊子:明日はバレンタインだもんなー
カフェラギ:アシタハヘイジツ、アシタハヘイジツ
アイリス:チョコは死守して帰らなきゃね。だったら、宝箱は無視しとく方が無難かな。
チョコという言葉を出したのがよかったか、反応が増えてくる。
そうだ。明日は早起きして、
バンチョー:そうなんです! 明日告白したいんで絶対帰りたいんですけど、どうやればダンジョンから出られるか、わかる人いますか?
カフェラギ:リア充爆発しろ!
レオン:何言ってんだ。今こそ、×民の集合知を見せるときだろ。
ドラクェスキー:ルーラを唱えろ!
無料屋:嘘教えんな。リレミトだろ。
知らん試練:脱出の巻物拾うところから。
どんなダンジョンよ、とツッコミしてると、建築的な意見があった。
とんぬら:けいせん、で変換するとマップが書けるぞ。これまで通ったルート書いてみ?
マップってつまり地図だよね。言われた通り「けいせん」で変換候補を探すと、確かにまっすぐな線や曲がった線が出てくる。これを組み合わせたら、地図っぽいものは書けそうだ。
バンチョー:
┏┳?
┃┃
┃部屋
┗?
↑最初にいたところ
こんな感じでわかりますか?
?マークは行ってないところです。
みんな地図を見ているのか、少し反応が止まる。
最初についた反応はーー
ダンジョンヘッド:もしかして試練場に似てる?
ダンジョンヘッド――
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