勇者と魔王~一目惚れから始まる異種族婚~

ニート一歩手前

勇者と魔王、その日常つまりはプロローグ

人類と魔族の終わらない戦争。

数百年に渡り続いた戦争はついに佳境を迎えていた。

「行くぞ――魔王.....!!」

大予言者が世界に平和をもたらす勇者の誕生を告げて17年。

勇者は遂に、世界を混沌に陥れた魔王と相対した。

「やめるのじゃ!来るでない!勇者ぁーーっ!!」

これは決して血で血を洗う物語ではない。

「観念しろ!魔王!」

「嫌じゃー!!妾は今日は二度寝する日だと決めておったのじゃー!!」

勇者と魔王。

二人の一目惚れから始まった――

ドタバタ日常ラブコメディである。


「お前そんなこと言って昨日も一昨日も一向に布団から出ようとしなかったろ!!」

魔王城の一角、魔王の部屋。

「お主こそ!お主こそ、毎日毎日二度寝しようとする妾から布団を剥ぎ取って、妾の快適な睡眠を邪魔してくれてるではないか!?」

勇者と魔王は一枚の掛け布団を奪い合っていた。

「魔王ともあろうお方が毎日二度寝とはどういう了見か!布団一枚剥がれたくらいで情けない!こんなのに人類は苦しめられてたってか!?」

勇者は鬼の形相で布団を引っ張る。

「妾は闇の種族ゆえ朝は苦手なのじゃ!お主に合わせて日中起きて夜に寝る生活をしておるのじゃぞ!?どれだけストレスかわかっておるのか!たまに二度寝するくらい許さんか!そのように小さきケツの穴で勇者とは片腹痛いわ!」

魔王は涙目で布団にしがみつく。

「勇者に器の大きさは求められていませーん!求められているのは魔王をぶっ殺す力でーす!だいたいお前が一目惚れしたとか何とか縋りついてくるから猶予をやってるだけで、いつでも倒せるんだぞ!戦るか!?お?」

などと珍妙な顔で魔王を煽る勇者。

しかしこれには魔王も黙っていない。

「それはお主じゃろうが!『顔が好みだ。殺すには惜しい。』なんて言って、どうせ本当は最強の妾を恐れただけなのじゃろ?じゃからあの日以来一言も好きだとは言ってくれず、このように嫌がらせをするのじゃ!妾の名前だって一度たりとも呼んでくれた試しがないであろう!」

頬を膨らませながら反論する。

そう、何を隠そうこの二人は互いに一目惚れをしていたのだ。

人類と魔族。

500年続いた戦争も遂に最終決戦、勇者は長い旅路を超え魔王城に辿り着いた、つまりは勇者と魔王が相見え雌雄を決するはずだった。

しかし、両者は互いの顔が最高にタイプだった。

魔王のタイプは眉が細くつり目で目つきの悪い、顔の良い男。

勇者のタイプは童顔、というか勇者は筋金入りのロリコンだ。

「当たり前だろ!俺が好みなのはお前の見た目だけなんだよ!なんだよ実年齢200歳って!ただのババアじゃねーか!?騙されたわ!」

「何を言うか!この無礼者!!妾の種族では200歳などまだまだ若手じゃ!!!乙女の年齢にごちゃごちゃ言うなどお主はデリカシーというものがないのか!それに妾だってお主の見た目以外はなにも興味などないわ!顔が良いから生かしてやってるだけなのじゃぞ!!今すぐ不敬罪でお主の首を刎ねてくれるわ!」

勇者と魔王はギャーギャーと大声で言い合い、次第に罵詈雑言の応酬になる。

城に住む魔族達はもはやいつものことだと、慣れたものだと言わんばかりにおのが仕事を進める。

そうこれはもはや日常になった。

初めのうちは、自分たちの主である魔王を侮辱されたことに怒り心頭だった魔族達だが、毎朝毎朝同じようなやり取りを聞いているうちに慣れてしまった。

勇者の魔王への不満は概ね城の魔族達と合致していたし、何より魔王から勇者には絶対に手を出すなと命令が下っていたのもある。

「だあーっもう!だから服を脱ぎ散らかすなと言ってるだろ!ちゃんと畳むなり洗濯に出すなりしなさい!」

「そんなのはメイドのメアリーが全てやってくれるからよいのじゃ!妾はあえてメアリーに仕事を与えてやってるのじゃぞ?でなければメアリーは飯を食えんかもしれん。」

今朝も二度寝の件は魔王が折れたらしい。

「お前いい加減その傲慢な考え方やめろよ!メアリーがかわいそうだろ!いつも俺の身の回りの世話までありがとうメアリー。魔王に嫌がらせされたら俺に言ってくれよ。」

「おい!お主妾とメアリーで随分と扱いが違うでないか!?まさかメアリーに浮気しておるわけじゃあるまいな!?」

一喧嘩去ってまた一喧嘩。

一瞬の静けさの後再びギャーギャーと言い争う声が魔王城に響く。

これはそんな日常。

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