*2-2


 大きな神社の森を抜け、広い果樹園に囲まれた道を歩きながら、何気ない言葉を交わす。学校から離れれば知り合いにも行き合わなくて、何故か心が軽い。

 私が何部だったか思い出そうとしたり、深夜にやってる海外ドラマとか、コンビニのお菓子とか、そんな話ばっかりが続く。


 未玲は、心なしか上機嫌に見えた。

 私の前に回り込んだり、かと思うと横からじっと顔を見てきたり。

 「何?」ってちょっと睨んでみても、「何でもないよ」ってかわされる。

 さざ波のように、かすかに心が騒ぐ。


 学校を出てから、1時間近く。今日の帰り道は、何だかあっという間だった気がする。


 人気がなく、車もめったに通らない小さな交差点。ここは二人の別れ道。

 私はまっすぐ、未玲は右へ。

 未玲はそのまん中に立って、それから静かに、私の方を見た。


「ねえ、由貴子ちゃん」


 心が警報を鳴らす。

 いつもは優しい表情の未玲が、こんな風に真剣に私を見るとき。それは……


「急に、なに」

「友達づきあい、キツイの?」


 ――見られてた、、、、、


 羞恥心と焦りと、それからワンテンポ遅れて、怒りの感情がわき上がってくる。

 未玲は知ってた。私と、紗菜と、芙美香のコト。もしかしたら……、私が微妙に感じてた疎外感まで。

 何、勝手に。分かったみたいに。

 ここまで歩いてきた二人の間にあった空気は、どこかに消えてしまった。どうでもいい。未玲のせいだ。


「意味わかんない。なに勝手なコト言ってんの」

「うん、勝手なのは分かってる。でもね……」

「聞きたくないし、未玲には関係ない。自惚れんな、たまに声かけたからっていい気になんないで。あんたなんかより、紗菜や芙美香の方がずっと友達だし大事だし、あんたなんてクラスじゃいてもいなくても同じだし、私はあんたが好きじゃない」


 好きじゃない。その言葉で未玲の表情が凍り付いたのが分かった。

 だって本当のコト。私は未玲なんか好きじゃない。


 小さな交差点。ここから先は別れ道。

 未玲はうつむいて、それから寂しそうに微笑んだ。


「知ってた。ごめんね」


 それだけ言うと、未玲は私に背を向けた。

 歩き出す未玲。ごおっと、山から吹き下ろしてきた風が私たちを包む。


 夏の熱気の中の、かすかな秋の気配。それから、未玲の香り。

 小さい頃、未玲の家に遊びに行くと、いつもこの香りがした。

 記憶の残り香。私を気づかう様な、未玲の表情。

 ぎりっ。怒りも苛立ちも心の中でいっぱいに暴れ回ってるのに、遠ざかっていく未玲の背中が胸を締め付ける。


 あんなコト、誰にも言われたくない。私は上手くやってる。もう中学生の私じゃない。自分の思い描いた通りの関係を、思い描いた通りの友達と。

 私は悪くない。悪いのはあんなコト言った未玲の方だ。

 やっぱり私は好きじゃない。未玲みたいな子、好きじゃない。


 小さな交差点。ここから先は私ひとりの帰り道。

 かつ、かつ。いつもよりも乱暴な歩き方で、私は家路を急ぐ。

 明日が来れば。いつも通りの明日が来れば。紗菜と芙美香と普通にしゃべって、未玲なんか視界にも入らなくて、そんな風に楽しい一日が、きっとまた――。

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