第3話

電車が完全に停車し、安全に立てるようになる。周りを見渡すと車内の手すりに頭をぶつけた人や、急な出来事に混乱している人達が居る。


そんな中、先程チラッと外の様子が見え、信じられないものが目に入ってきていた。あまりにも有り得ないことに、見間違いかと思った。再度確認しに、倒れ込んでいる人を跨いで窓際まで進む。いつもであれば倒れた人に声をかけ、状態を訪ねて手を貸そうとするだろうが、今はそれどころでは無い。


外の景色に衝撃を受ける。


瑠璃色になっていた空に、亀裂が生まれていた。真っ黒く、光を通さないような色をした裂け目。そこから紫色の煙?雲?のようなものが漏れ出ているのだ。その煙のような雲は、夜の暗い空にもハッキリと目視できるような、不思議な光り方をしていた。しかし裂け目から漏れ出ているそれは、亀裂から離れていくと空気の中に解けるように消えていく。



「なんだ、あれ?」


亀裂を見ていると、瑠璃色の空を背景にして何かがくる。それらは亀裂の中からゆっくりと姿を現し、亀裂から完全に出てくると重力に引っ張られるように落下し、地面へ降り立つ。


最初に姿を表したのは、10メートルはあろう巨体をもつ巨人。人型ではあるが、どう見ても人ではないそれは、新宿の街を見回し吠える。



次に亀裂から現れたのは、球体の形をした何か。地上へ落ち際に、ビルへぶつかり半壊させながら地面へ転がり落ちる。


その次は巨大な...ドラゴン?本当に信じられないがドラゴンとしか言いようのない生き物が、亀裂から出てきて空を旋回し始める。


それに続くように青色の炎を纏った怪鳥が現れる。しかしそいつはどこかへ飛んでいってしまった。


その後も色々な生き物が亀裂から出てくる。当然、それらが降り立った地上は見ていられない様子であった。


煌びやかな街が、一瞬にして地獄へと変わった。



現実離れしていてショックを受けることも出来ない。意味がわからない、としか言いようのない感覚がおそう。


かと思っていれば、突如白と黒色の光が亀裂から漏れだし、瑠璃色の空を吹き飛ばしていく。


もはや何が起きているか理解ができないが、天使のような人型の何かと悪魔のような見た目の何かが戦いながら亀裂から現れた。


天使と悪魔はぶつかり合って火花を散らしながら地上へ降りてくる。


2つの存在は周りの存在など気にする様子もなく破壊を撒き散らしていく。


悪魔が天使に攻撃を仕掛けた瞬間、天使の手元から謎の物体が飛んでいく。というか、こちらに何か飛んできた。


ソレはなにかの装置のような、生物のような、なんとも表現しがたいものであった。


ソレが電車の車体の天井部に当たると、ドゴォン!と大きな音を立てる。そこからミチミチミチミチ、と嫌な音が聞こえてくる。不気味な音だけが聞こえる車内。みんな不安そうに音の方向へ目を向ける。


そこへ天使の見た目をした奴が近づいてくる。しかし、なんでか分からないが近づいて来れないようだ。パントマイムのように空間を殴っている。そして何かを懸命に伝えたいのか、俺たちに向かって叫んでいる。


しかしミチミチと今もなにか蠢いているような音がしている方に意識を持っていかれる。なにか、猛烈にやばい感じがする。理不尽で、致命的な。あの天使のようなやつの様子も相まって、その不安は高まっていく。



鳥肌がたった。理由は恐らくこの後のことを感じ取ったからだろうか。


ミチミチと鳴り響いていた音がなり止み、徐々に電気が弾けるような音がバチバチバチンと連続で流れ始める。その音の感覚が徐々に早まり、ギュリリリリリリリィーー!!と耳を覆いたくなるような不快音に変わる。


何が起きているか分からないので何かヒントを得ようと、天使のようなやつへ目を向ける。すると、焦ったようにその場を飛び退いていき、こちらを振り返る。その表情はどこか悔しげであったように思える。


そう思った瞬間。いつの間にか生まれた真っ黒な空間に電車ごと吸い込まれていった。























こうして、俺が今まで感じていた、なんとなくの世界が消え去っていった。

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