第19話 謎の少女の正体って誰?

 校外学習の次の日の昼休み、薫とラパン、明瀬とミランは屋上へ向かうまでの階段でお弁当を食べていた。

 ここは中庭よりさらに人気が少なく、妖精たちを交えて話すには丁度いい場所なのだ。


 「天土さんのお母さん、大丈夫だった?」


 「うん、外傷もなければ内側も無傷だったよ」


 「ただ、どうやって博物館まで来たのかは覚えてなかったみたいラパ」


 「つまり、リコルドにされてから博物館に連れてこられたって事ミラ?」


 「多分ね」


 おにぎりを食べながら、ミランたちの言葉に答える。

 あの日、自然科学館から病院へ搬送された薫の母、花子はすぐに精密検査を受けた。結果は先程薫が言った通り、何も怪我はなく、体内器官にも何一つ異常は見られなかった。

 薫はホッとしたものの、伯父家族や父の弘から一体何があったんだと顔色を変えて、花子に聞いたが何も覚えておらず家で仕事していたらいつの間にか病院にいたと答えていた。

 もちろん薫も、アンジェストロの事やリコルドの事を言える訳もないので、何も言えず急に花子がやって来たとだけ伝えた。

 そのせいで更に大騒ぎになって、薫は心臓が飛び出そうなほどドキドキし、自分が秘密を持っている事に罪悪感を感じたが、言えないモノは言えないので、我慢するほかなかった。

 ただ、家で仕事をしていたら……という話が薫の中で引っ掛かっていた。


 「家で仕事をしていたら…ねぇ…あーそういえば、イブニングの奴変身といた後も後を付けてたって言ってたわね…」


 「えぇ!?そんな事言ってたっけ!?」


 「丁度、天土さんが焦ってリコルドと戦っていた時ね。キモって思うし、危ない話よね。だって、向こうはあたしたちの家の場所や、親の顔だって把握しているわけでしょ?いつ襲われたっておかしくないのよね…」


 「心配だなぁ……どうやったら、守れるんだろう…」


 「あと、博物館のリコルドみたいに、人もリコルドにされちゃうのよね。いつもみたいにとりあえず武器を使って戦うって訳にはいかなくなっちゃうわね」


 「人がリコルドにってあの時が初めてだったけど……あの機械がその為の機械だったのかな…?」


 「イブニングの言葉を聞く限り、あれは擬似的にアンジェストロの様に妖精と人間を合体させるための機械だったと考えられるミラ。多分普通にリコルドを作るみたいにはできなさそうミラ」


 先日の戦いを振り返って、これからの事を話す4人。

 どうやって無関係の家族を守るか、人が使われるリコルドと戦い方など、色々考えなくてはならない事が増えてしまった。

 結果、薫の頭が爆発しそうになっていた。


 「あぁ…もう!何なのドーン帝国って!イブニング以外見た事ないけど、もー!」


 「ラパンたちにもわからないラパ」


 「あぁ、あとあの時助けてくれた人!あの人誰!」


 「ミランたちも分からないミラ」


 「ムキー!!!」


 「黄色い、アンジェストロっぽい子よね……ホント、不思議。急に出てきて的確に助けてくれた…それに強かったわ、あのリコルド…筋力も凄かったのに、その肉体をあんな紐でグルグル巻きにして動きを止めるだなんて…」


 明瀬は食べ終わった弁当箱をしまい込みながら語る。

 戦いの終盤に現れ、彼女たちがリコルドを浄化するための隙を作ってくれたあの謎の少女の事だ。


 「あの紐、光ってたから恐らくフェアリニウムで作られた紐だと思うミラ。でも、フェアリニウムは人間界には無い元素で、操る術だって無いはずミラ。だからアレは絶対に妖精界由来の人ミラ」


 ミランの話に、林檎を食べていたラパンが反応をする。

 そしてその肩はプルプルと震えていた。


 「ラパンは正体の目途がついてるラパ…」


 「「え?」」

 「ミラ?」


 突然目を見開き、食べ終わり芯だけになった林檎をビニール袋に詰めてラパンは話し始めた。


 「あの謎の女の人の来ていた服は黄色が基調だったラパ。それで今この人間界に来ていて動ける黄色い体毛を持っているのは……エポンだけラパ」


 「体毛…?確かにエポンは黄色いけど、それとあの女の子の服と関係あるの?」


 薫がそう疑問を浮かべると、ラパンは頷き答えた。


 「ラパンは桃色の毛が生えていて、カオルとアンジェストロになった時は、赤色と桃色の服になるラパ。ミランは青の羽でアオイとアンジェストロになったら、青の服になるラパ。つまり、妖精の体毛とアンジェストロの服は対応しているラパ」


 「なるほどね……でも、それってアンジェストロだからよね?あの人がアンジェストロじゃなかったら…」


 「他にもエポンだという根拠はあるラパ!それはあの紐ラパ。あの紐、よく見えなかったけれど、どこか水の様な性質に見えたラパ。エポンは見ての通り鯱の妖精ラパ、それはつまり水に関する妖精って事ラパ。ミランは父親の能力が羽の剣…ミラン自身には能力が無くても、似たような形でシエル・アンジェの棒、シエル・グルダンとして現れているラパ。ソル・アンジェには、弾く盾、いなす盾とか相手の行動を阻害させる能力が多いラパ。これはラパンの特殊能力、”硬直”が由来していると思うラパ」


 「あの紐、水っぽかったかなぁ……?光ってたから特に水っぽいとか、火っぽいとかはわからなかったなぁ……よく見てたね、ラパン」


 「ていうか、ラパンのそのアンジェストロの力の考察…よく考えたわね。確かに言われてみれば、ミランのお父さんの能力とあたしのグルダン、そっくりよね」


 「弾く盾とかも兎っぽいよね。ジャンプする感じで」


 ラパンの話は3人にも納得のいく話だった。

 アンジェストロの色、技の特性、武器、様々なところに妖精の要素が現れているというのは、確かと言う外なかった。

 さらに、ラパンは続けた。


 「あと最近エポンの奴、よく散歩に行っているラパ。妖精界にいた時は家の中で昼寝ばかりしてたのに、人間界に来て少ししたら急に出かけるようになって…変ラパ。多分その散歩に行くきっかけになった何かがあって、それがあの黄色い女の子に関係してるはずラパ!」


 力強く言い切るラパン。

 しかしミランも、その言葉に納得がいっていたようで、うんうんと頷いていた。

 明瀬は腕を組み、「じゃあ、次にエポンが散歩に行く時に後付けてみる?」と提案した。


 「そうするラパ!それで、その女の子を見つけるラパ!!」


 「そうミラ!」


 「えぇ……なんだか気が引けるんだけど……でもそれで、あの女の子にお礼が言えるなら…いやぁ…まあ…うーん……そだね…やってみようか……」


 薫は渋々了承した。

 そんな彼女とは対照的に、明瀬たちはノリノリでどんな服装で行こうかとか、どうやったらバレずに尾行できるのだろうとか話している。

 薫的には、関わりづらい話だったが、まあ目立たない服で行けばいいか……と心の中だけで呟いた。


 すると、彼女たちが座っていた階段の陰から、黄海が顔を出した。


 「あれぇ~?2人ともこんなところで食べてたのぉ~?」


 「お、黄海さん!?」


 「柚希!?な、何?何か用!?」


 慌てて、薫と明瀬の間に座っていた妖精たちを自分たちの陰に隠した。

 黄海の目線がその陰に隠す時に、妖精たちの手や腹にある宝石がキラっと反射した光に向いていた事に、2人は気づかなかった。


 「別にぃ~、最近2人が一緒にお昼食べてるみたいだったしぃ~、ゆずも一緒に食べたいなぁってぇ。だって校外学習で一緒のグループだったじゃぁん?」


 「そ、そっか、ごめんね黄海さん。誘えばよかった…」


 「いいのいいのぉ~、明日は一緒に食べよぉ~」


 「ええ!是非そうしましょう!」


 2人と話した後、黄海は先に教室に戻っていった。

 ホッと安堵する薫たち。

 そして次の休みの日に、エポンが散歩に行く時その後を尾行するという事になった。

 エポンは土日には必ず散歩に行くからだ。薫は知らなかったが、ラパンがいつも見ていた。

 そして4人は少し遅れながらも、教室に戻っていった。


 先に戻っていた黄海は、先ほど少しだけ見えた宝石の光について考えていた。

 光だけではない、実はその宝石が付いていた動物も目に入っていた。

 だがあえて先ほどは、見て見ぬふりをした。


 (な~んか事情がありそうなんだよねぇ…詮索してほしくなさそうだし……話してくれるまで待ってよう)


 どこか壁を作っている転校生と、何か秘密が出来た小学校からの友達の関係性が何なのか、わからないが明日のお昼は一緒に食べられるらしいし、楽しみだ。

 と考えながら、自分の席に座った。

 

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