第9話 ミランだって戦いたい!~妖精視点~

 「今頃カオルは何をしているラパねぇ…」


 ラパンはどこまでも続く青い空を見上げながら呟いた。

 現在彼女は、神尾町南区にある小さな公園の草むらに寝転がっている。

 今日は快晴だ。きっと、相棒の薫にも勇気をくれるだろう…と言った事を考えていた。


 「真面目に探すミラ!何を感慨に耽っているミラ!今日中に見つけるんだミラ!」


 寝ているラパンの顔を覗き込み、ボーっとしているラパンに檄を飛ばす。

 そう言われて、少し身構えるラパン。ポーズだけで、寝転んでいるのは変わらないが。

 今ミランとラパンは、新しいアンジェストロ。ミランのバディとなる人を探していた。

 エポンは一人で何処かへ出かけて行っている。


 「そうは言っても、商店街とか色々見てきて、一向に石は光らないラパ」


 「だから、もっともっと色々な所行ってぇ!いろんな人で試すミラ!」


 「どれくらいの範囲を探すつもりラパ?」


 「そんなの町中に決まっているミラ。神尾町全体ミラ!」


 「えぇラパぁ……」


 ミランの勢いに気圧されて再びぐったりとした体勢になってしまう。

 寝転がりながら腕を組んで、ラパンは少し考えてから、ミランに一つ提案をした。


 「でも町中を探すって言ってもこの町は広いラパ。そんな急いで探さなくても良いと思うんラパけど…」


 正直探すのが面倒くさく感じていたラパンが遠回しに帰ろうと言っただけだった。

 だがミランはただでさえ真剣な顔をさらに真剣な顔にして、自分の顔をラパンの顔に近づけて話す。


 「いいかミラ?!これはカオルの為でもあると言ったミラ!いいミラ?このままイブニングとの戦いが激化していけば、今のカオルの戦い方は近い将来、限界を迎えてしまうミラ!それに、敵がカオルの浄化技以外攻撃できないと気づくのは時間の問題ミラ。その時にその弱点を補ってくれる、一緒に戦える仲間が必要ミラ!」


 ミランの言葉にラパンは惚けていた表情から、真面目な顔になる。

 薫のため。この言葉はやはりラパンの中では大きな意味を持っていた。

 だが同時にラパンは”星の輝き”に選ばれるという事が、どれだけの重荷なのかも理解していた。

 目の前のミランが、どれだけ自身の無力さに悔しい思いをしているかもわかっている。

 だからこそ、ラパンは迷っていた。自分たち妖精の事情に、この世界の人たちをこれ以上巻き込んでしまっていいのか。


 薫は大丈夫だと言ってくれたが、全員が全員そうだという訳ではないだろう。

 きっと他にもアンジェストロが生まれれば、薫の負担は減り、仲間ができる事でより様々な状況に対応できるだろう。

 だが色々考えてみても、やはり他人を巻き込む事への忌避感をラパンの中から拭い去る事が出来なかった。


 「ミランの気持ちは理解しているつもりラパ。でも、そう簡単に見つかる存在じゃないと思うラパ…流石に今日中は現実的じゃないラパ」


 「わ、わかってるミラ…!でもやらなきゃダメミラ!ミランは…ミランは…ミランだって…戦いたいミラ……!」


 力強く、しかし絞り出すように声を出す。

 心からの言葉だと、ラパンは感じた。


 「昔からミランは、責任感というか正義感が強い妖精だと思ってたラパ。やっぱりラパンとカオルみたいにドーン帝国に対抗できる力を欲していたラパね…」


 「当たり前ミラ!妖精界を冷たくした奴等を許せるはずがないミラ…ミランは目の前で家族が凍ったミラ…お父さんやお母さんが咄嗟に、ミランに飛べって言ってくれたから……でもその所為で、自分だけ助かって、家族を助ける事はできなかったミラ。だから…今度こそこの翼で誰かを助けたいミラ!家族の時みたいに、無力な自分とはさよならをしたいミラ!」


 「ミラン……わかったラパ…もっとちゃんと探すラパ。でも、もっと探す場所を決めて探さないと、キリがないラパよ」


 ミランの心の底からの叫びにラパンは、自分が思っていたよりミランの力への渇望は深かったと知り、”星の輝き”に選ばれる人間探しを再開する事にした。見つかってからのミランに、一抹の不安を覚えながら。

 足に勢いをつけて起き上がり、ミランの持っている”星の輝き”に目をやる。


 「わかってるミラ!だからこの”星の輝き”に少しのフェアリニウムを込めて、ミランと相性が良い人がいる方角を向けば光る様にしたミラ」


 「そ、そんな力があったラパ?」


 ラパンも知らない”星の輝き”の力を使ってミランはゆっくり自転する。くるくると。

 すると一つの方向でのみ、ピカッと淡い青色に点滅した。どうやら西の方にミランの相棒になれる人がいるらしい。

 見つかったミランはとても嬉しそうな表情になり、わぁ!と叫びそうだった。


 「こっちミラ!この方角ミラ!」


 「ラパ?その方角って……」


 ”星の輝き”が示した方角である西。そっちには一つの学校がある。

 今朝別れたばかりの薫が通う、私立神尾南第三中学校がある方向だった。

 まさか、薫の学校にいるわけないだろうなと思ったが……ラパンは、先ほど感じた不安が全く別の形で現実になりそうだと予感していた。


 「か、カオルに見つかったら怒られないかな…ラパ……」


 ミランの相棒探しの冒険はまだまだ続く……。

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