第10話 ドキドキ!新しい学校!~薫視点~
「き、今日から2年3組に転入しました。あ、あ、あ、天土薫……です……!よ、よよろしくお願いします!!」
緊張しながら、事前に用意していた挨拶でも無かったが、しっかりと自分の名前と自分の事をクラスの仲間として受け入れて欲しいという事をいう事が出来た。
ちなみに、この神尾南第三中学校はクラス替えが無く、1年から3年までずっと同じクラスメイトと過ごす事になるため、薫がした「今日から」という挨拶は、ちゃんと必要だったものなのだ。
彼女がお辞儀をして、顔を上げると一気に教室内のボルテージが上がった。大盛り上がりだ。
男子も女子も、薫の事が気になっているようで、豊川先生が「はいはーい、落ち着けー」と言っても全く収まらなかった。
薫の見た目はとても整っている。父親譲りの二重瞼と母親譲りの小顔、そして両親から遺伝した桃色の頭髪をウルフカットにしてとてもオシャレに見せている。茶色い瞳は彼女の派手な見た目を落ち着いた印象へ変えてくれていた。
ようは、薫は男女どちらにも魅力的に見えるという事だ。
あまりにも興奮が収まらないその状況に、薫も慌ててどうしようか悩んでいると、一人の少女の声が教室内に響いた。
教室の校庭が見える窓側の席の後ろの方。青みがかった黒い長髪、左のサイドヘアに赤いメッシュが特徴的な女子生徒が立っていた。
「いい加減にして!天土さんも困っているし、豊川先生の話もまだ続きがあるんだから、一回落ち着きなさい!」
と彼女が一喝をすると、クラス内はシンと静まり、さっきまでの熱狂が嘘の様だった。
薫の立っている位置から、「しまった…委員長がキレたぜ。やり過ぎたな…」と呟いているのが聞こえた。
つまり彼女はこのクラスの委員長なのだろうと思った。
「ありがとうー!
豊川先生も厳しく注意をする。
薫は先生に言われ、そそくさと明瀬という女子生徒の後ろの席に歩いていく。
席に行くまでに周囲の生徒たちから小声で、「よろしく~」と声をかけられ、薫も「は、はい!」とビクつきながら答えていた。
そして、明瀬の後ろの席に鞄を置いて、静かに席に着いた。
すると、後ろの席にいた少女から声をかけられた。薫が後ろを振り向くと、黄色みがかった茶髪のサイドポニーテールの女子生徒がニコニコとした笑顔を浮かべていた。
「
喋り方はとてもゆっくりで一語ごとを丁寧に話しており、薫にはどこかエポンを思い出させる話し方だった。
「よ、よろしくお願いします…!」
「あはは~敬語じゃなくていいってぇ~。タメじゃ~ん」
「あ、あぁ…わ、わかった…」
「えへへぇ~」
その後薫は、前に向き直し先生の話を聞いた。
目の前の明瀬にお礼を言いたいが、今じゃないな、落ち着いた時に言おうと心に決めた。
先生の話の内容は明日が1年時の振り返りテストで、明後日から授業が始まるという話だった。
薫は少し前に親と共に聞いた転入後の説明で、新学期にはテストがあるとは知っていたので驚く事は無かったが、今の自分ではどれくらいの順位になるのか、楽しみだった。
そうして薫の紹介と豊川先生の話が合わせて30分程で終わり、放課後となった。
なので薫は早速明瀬にお礼を言おうと声をかけようと思ったら、数人の女子が話しかけてきてしまった。
どこから来たの?とか、好きな食べ物や芸能人は?など色々聞かれて、それに一つ一つ答えていたら10分程時間が経ってしまっていた。
話しかけてきた女子がはけて行き、質問タイムが終わった時、明瀬は流石に帰ってしまっただろうと、席の方を向くと明瀬がこちらを見てまだ座っていた。
「えぇ!?」
「どうしたの?」
まさかいるとは思っていなかったので、素で驚いてしまった。
明瀬も急に大きな声を出したので、少し驚いた様子を見せ、驚き過ぎで咳き込んでいた薫の背中を擦ってくれた。
「あ、ありがとうございます…!ゴホッ…もう帰っちゃったと思ってたんで…ビックリしちゃいました…」
「あぁ、そういう事。あたしは天土さんが話しかけてくる人数に対処しきれなくなってきたら、声をかけようと思ってここにいたのよ」
「え!あ、ありがとうございます…」
薫が思っていた以上に明瀬という人は優しい人の様だった。
別に放っておけばいい他人の事を慮れるのは、薫の中ではかなり優しく素晴らしい人の分類になる。
この時点で彼女にとって明瀬はただの良い人ではない、ものすっごくいい人!という認識になった。
「気にしないで、あたしこのクラスの委員長だし。……って、あたし自己紹介してなかったわね…あたし
「あ、明瀬さん!よろしくお願いします!」
椅子に座りながら、大きくペコリと頭を下げる。
明瀬はあまりにも堅苦しい態度に、少し笑ってしまった。
「敬語なんていいから、同い年で同じクラスになれたんだし、仲良くしましょ」
「あ、あは、はい……じゃなかった!うん!」
「ふふっ、天土さんってなんか小動物みたいな可愛さがあるわね」
「え、そ、そうかなぁ、えへへ…」
よくわからないが、褒められた気がしたのでとりあえず頭をかいて笑った。
明瀬とはすぐには無理だろうけど、もっと仲良くなれればいいなぁと思った。
そうした時、ふと視界に何か小さく動くものが入って来た。
……いや、気のせいだ。
薫は一回はそう思った。
「どうしたの?急にキョトンとした顔して」
「え、いやぁ、別に…あはは…」
「?」
もう一度何かが動いた方をみて見ると、そこにはフワフワと浮いているラパンと、パタパタと飛んでいるミランがいた。
気のせいでも見間違いでもなかった。
何故か学校に妖精が来ていた。
「あぁ!?」
「え、今度はど、どうしたの?」
「え!えっとぉ…そのぉ…よ、用事…そう!用事!用事を思い出したから、私ここで帰るね!今日はありがとう!また明日ぁ!」
「ま…また明日……?」
明瀬を困惑させながら、薫は大慌てで鞄を掴んで教室を出て行った。
「ん?あれ、天土さん、手帳落としちゃってるじゃない」
表紙に天土薫と書いてある赤色のカバーの手帳を床から拾う。
「…今からならまだ渡せるかしら」
明瀬はリュックを背負い、小走りで教室を後にした。
妖精を見た薫は急いで、教室の後ろ側へ周り、キョロキョロとラパンたちを探す。
すると、地面たくさん生えている草むらの中に、見覚えのある桃色の丸い尻尾を見つけた。
「ラパン!何してるの?」
声をかけると、尻尾はビクッと跳ねた。
そしてソロソロと草むらから顔を出した。
「ご、ごめんなさいラパ……」
「い、いや別に謝らなくていいんだけど…何かあったの?」
「え、えとラパ…」
ラパンは、ミランが自分が戦えない事に不甲斐なさを感じているという事、自分もアンジェストロとして戦いと思っている事、”星の輝き”がこちらに、ミランのバディになれる人がいると示した事を、説明した。
「ミランのバディになれる人がこの近くに…!?」
「そうみたいラパ…ただ方角だけで、どこにいるのかはまだわかって無いラパ。だからミランは今空から石を使って探しているラパ」
ラパンが上を向いて、ミランのいる方を指さした。
薫はそちらへ目を向ける。
そして先ほどラパンから聞いた、ミランの心の内を思い起こした。
ミランは確かに身を挺して妖精たちを守ろうとしたり、戦う事に決して否定的な妖精ではなかったけれど、まさか自分が戦えない事を悔しく思っていただなんて……思ってもみなかった。
薫とは真逆な考え、思いを持った妖精。
きっと完璧には理解できないだろう、だが薫としても仲間ができるのはとても嬉しい事だ。
彼女自身も、バリアを使ったり敵の攻撃の勢いを利用していなすなどの戦い方はすぐに対策をされてしまうだろうと考えていたからだ。
「私も探すの手伝えないかな」
「カオルも探すラパ?」
「うん、そっちの方が、きっとすぐ見つかるよ!それに私が一緒にいた方が妖精の事をごまかしやすそうだしね」
「確かに…わかったラパ!一緒に探すラパ!」
薫はラパンを抱えて、ミランを呼びながら合流する事にした。
校舎への影へ駆けていくその後ろ姿を、イブニングが見ている事を薫は知らなかった。
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