第3話 ラパンの秘密?特殊な妖精
ラパンが薫の元を去っていってしまったという緊急事態。
エポンはまるで気にしていない様で、「家でエキュロンさんを見てるエポぉ」と言って探しに行く事はしなかった。
ミラン曰く、エポンは昔からそういう妖精で、責任感が無い奴!なんだそう。薫はミランの言葉に愛想笑いを浮かべつつも、今急に部屋に家族が入ってきて、エキュロンを見つけられるのもマズいし、案外残ってくれて助かるなぁと思っていた。
だが今はそれより、ラパンの事である。昨日一緒にこれからもアンジェストロとして頑張っていこうと握手を交わしたはずなのに、突然いなくなるだなんて…。薫は理由を知りたかった。
「カオル!まさかこうやってラパンの秘密を話す事になるとは思わなかったミラけど、聞いておいて欲しいミラ!」
「え、ラパンの秘密?」
薫は昨日の公園に向かって走りながら、ミランは薫の肩に留まり耳元で囁く様に話す。
「ラパンは特殊な妖精ミラ。妖精の中でも超能力を使う事が出来る妖精ミラ」
「ミランとかエポン、それとエキュロンは使えないの?超能力って」
「エキュロンは使えるミラ。エキュロンは空気を蹴ったりできる力を使えたミラ」
ミランの話を聞いて、エキュロンが入っていた怪物の事を思い出す。あの怪物は、大技を使おうとした時、空中を蹴って薫にパンチをしてこようとした。つまりあの時、突然何もない空中を蹴ったのは中にいたエキュロンの力だったという事だ。
「ミランやエポンは超能力が使えない普通の妖精ミラ、でもエキュロンの事を考えると、ドーン帝国は超能力が使える妖精を狙っているかもしれないミラ。何のためかはわからないけれど、多くない特殊な妖精があの怪物の素材のために誘拐されてるかもしれないって、思うんだミラ」
薫は何となく妖精は不思議な力を使うイメージを漠然と持っていたので、使えないというミランの言葉に内心驚いた。そして、ミランが危惧している事も何となくわかってきた。
今ミランが急いでラパンを探そうとしているのは、敵がラパンの力に気づいたら狙われる対象になるかもしれない。一人で居たら、その力を使わざるを得ない場面も出てきてしまうからだ。
だから早く見つけなくてはいけないということだ。
二人は昨日怪物と戦った公園、神尾公園まで来たがここは広く、ラパンを探すのは時間がかかってしまいそうだった。
「入り口近くにも、昨日座ってたベンチにもいない…どうしようか…」
「ミランは、公園を上から探してみるミラ!カオルは危ないかもしれないけど、人気が少ない所を探して欲しいミラ!」
「わかった。林とかそういう所探してみるよ!」
二人は役割を分担して、ラパン探しを再開する。
薫は昨日戦った林や、その他公園内にある自然が多いエリアをメインで探す事にした。
ミランは天高く飛び、空から公園全体を見て探す。高く飛んで、小さな妖精が見えるのか?と薫は思ったが、もしかしたら妖精には人と違う何かわかる目印みたいのがあるのかもしれないと考え、自分の方に集中するべく、走り出した。
「そういえば大声で呼んでも大丈夫なのかな……妖精だし……いや、名前呼ぶだけなら外国人を探してるみたいなもんだ。大丈夫大丈夫。私、やるぞ」
生垣の間を抜けて、林の中へ入っていく。昨日あれだけ湿っていた地面はもう固く乾燥していた。
昨日の作戦は昨日にしかできなかったんだな…としみじみ思いつつ、薫は林の奥へ歩いていく。
「ラパーン!どこー!いたら返事してー!」
薫は林の中全体に聞こえるくらい大きい声を出して呼びかける。
しかし、いくら耳を澄ませても、ラパンの声は聞こえてこない。反応したような音も聞こえてこない。
今いる地点より奥に行くべきか…薫は悩んだが、ラパンを見つけなくてはという使命感から、更に林の奥に進んでいった。
勿論自分が迷子になるわけには行かないので、林の出口が分かる場所から地面に長い枝で線を引いて、進んでいく。
「ラパァーン!ラパァーン!」
何度も呼びかけるが、ここにはいない様でラパンに対して、声が届いている気がしない。
(どうしよう……ラパン…何でなにも言わずにいなくなっちゃったの…?助けてって言ってたのに…)
更に林の奥に足を踏み入れるが、薄暗くラパンの様な小さい身体の存在を見つけるのは難しく思えた。
だが薫は諦めず、必死に草木を掻き分けて、ラパンの名を呼ぶ。
林にはいないならと、池の周りにも探しに行くが、やはり見つからない。影の一つも見つからない。
(そういえば、今ミランはどの辺りを探してるんだろう)
そう思って空を見上げてみたが、ミランの姿は確認できなかった。
どうやら池の上にはいないようだが、薫はミランすら見失ってしまったという気持ちになってきて、落ち込んでしまいそうだった。
よく考えれば、ミランも小さな妖精で空の高い位置にいれば地上からは見辛く、すぐに発見できるわけではないと思うのだが、今の薫にはそのように考える事はできなかった。
(ダメだ……ネガティブな思考になりそう…ラパンが心配なのに、こんな時でも私は自分の気持ちを優先してしまう…)
迷路に迷うが如く気持ちが悪い方へ悪い方へと向かってしまっている薫は、トボトボと池から公園内にある動物園の方へ向かって行った。
一方ミランはというと、薫が林で大声でラパンを呼びかけていた時、公園ではなくその近くにあった神尾商店街の門の近くでラパンを見つけていた。
すぐさまラパンの元へ降下し、声をかけた。
「ラパン!何してるミラ!カオルが心配してたミラ!」
自分ではなく薫が心配していたぞと、ラパンに告げた。ミランは昨日出会ったばかりではあるが、薫とラパンがとても気の合うコンビだと思っており、少しズルいかもしれないが薫を使ってラパンを説得しようと考えたのだ。
だがミランの予想に反して、ラパンは俯いたまま首を横に振った。
何をしているのかという言葉への返答にはなっていない。しかし何か事情があるという事は伝わってきた。
「…教えて欲しいミラ。あんなにアンジェストロを探していて、ようやく見つけたんじゃなかったミラ?なんで…」
ミランがそこまで言った時、ラパンが顔を上げた。
その表情は今にも泣きそうで、辛そうな顔だった。
ミランは驚きつつも、「何でミラ?」と何も言わずに出て行ったラパンの行動の真意を聞いた。
「ラパンは…ラパンは……もう一人で戦えるラパ…」
「何言ってるミラ。ミランたちと違って、超能力があるからって怪物と戦えるわけでも無いミラ?そうじゃなかったら何でドーン帝国の刺客から逃げ回ってたかわからないミラ」
「それは…そうラパけど…でも、カオルは戦えないラパ…だから一人でやった方が良いラパ…」
「戦えないって…カオルは怪物を倒してたミラ!そうじゃないのかミラ?」
「…倒した…というより浄化して闇のエネルギーをフェアリニウムに変換したんだラパ……それで形を維持できなくなった怪物が消滅、中から囚われていたエキュロンが出てきたラパ…」
「やっぱり戦えてるミラ!何をそんなに思いつめてるミラ?」
「だから!ラパンは戦えるけど、カオルが戦えないんだラパ!カオルは…カオルは……戦う事…いや誰かを傷つける事を心の底から嫌がってるラパ!」
そうミランに叫ぶと、ラパンの大きな瞳からポロポロと涙が溢れてきてしまった。
その姿を見て、ミランはただ困惑するしかなかった。
ミランにとっては戦う事ができる事と傷つける事の違いがハッキリしているからだ。
だが、ラパンは言う。薫にとってそれは同じことなのだと……。
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