第2話 新たなる朝、消えたラパン!?

 神尾町に引っ越してきた天土薫が、妖精と出会い妖精界の伝説の使徒”アンジェストロ”になった次の日。

 怪物の中から出てきた妖精、エキュロンは薫の部屋の段ボールで作った小屋に寝かせておいて、静かに寝かせてあげた。

 幼い頃に買ったペーパークラフトの人形の家がこんな形で役に立つとは……人生何があるかわからないなぁ……と薫は感じた。

 翌日になっても前日の戦闘からくる高揚感で、胸はドキドキしていたが、家族に怪しまれない様に、深呼吸をして自信を落ち着かせた。

 その後、朝ご飯を一階の食卓で、家族と共に食べた薫は少々のロールパンを拝借し透明なビニール袋に詰めて、二階の自分の部屋まで戻り妖精たちにパンを渡す。


 「わぁい、朝ご飯エポぉ」


 薫が部屋に入って来た時、真っ先にエポンがパンに飛び付いてきた。


 「おっとと、ごめんね。お腹空いたよね」


 「気にすんなミラ。エポンが意地汚いだけミラ」


 「意地汚いは言い過ぎエポぉ~」


 ミランとエポンは気の知れた仲なのか、歯に衣着せぬ物言いで話ながらパンを食べている。

 その光景を薫は、人形が喋りながらパン食べてる…と思いながら見つめていた。

 

 「そうだ、聞こうと思ってたんだけど。結局妖精界とかドーン?帝国?って何?帝国に攻められて妖精たちが大変!って言うのは昨日会った時に聞いたけど、結局その後聞けなかったからさ」


 薫の質問に、ミランがパンから口を離して答える。


 「ドーン帝国については、ミランたちもよくわかってないミラ。人間界に逃げてくる前に女王様から聞いた話だと、闇の世界にある国って事と、突然妖精界に攻撃を仕掛けてきたって事くらいミラ」


 「闇の世界…って、妖精界と人間界の他にも世界があるんだね…さらっと言われたけどビックリだよ…」


 「ミランも知ってるのはその三つだけミラ。それで妖精界っていうのは、カオルも分かっていると思うけど、ここ人間界とは別の世界で、キラキラした空間に一つの大きな島が浮いている世界ミラ、いろんな妖精が住んでるミラけど、その世界を統治しているのは妖精女王こと、女王様ミラ。見た目は、カオルみたいな人間の女の人みたいな見た目ミラ」


 「妖精の世界の不思議さにも驚きだけど、女王様って人間みたいな見た目なんだ…何の動物か考えてたんだけど…いや、人間も動物だし変じゃないのかな…?」


 「女王様が何の動物かはともかく、今の妖精界はたった一人の帝国の刺客によってあっという間に氷漬けにされてしまったミラ。ミランたちが、敵の事を詳しくないっているのも逃げるのに精一杯で、氷をどうにか逃れられたエポンやラパンと共に女王様から”星の輝き”とかの最低限の説明だけされて人間界に送られたからミラ…妖精界について説明できるのはこれくらいミラ」


 「氷漬け…一人で世界を制圧しちゃうなんて…その敵すっごく強いよね…」


 ミランの説明を聞いて、少し怖くなったのか薫は暗い顔で俯いてしまった。

 だがミランは絶望はしていないと、俯いた薫の顔の下に飛んできて、彼女の膝の上に留まった。


 「大丈夫ミラ!確かに敵は強いミラ、でも伝説の使徒アンジェストロはきっとカオルの思う力を貸してくれるはずミラ!」


 「あはは…そうだね。アンジェストロになった時、すっごく力が湧いてきて、しかもラパンの心も伝わって来たんだ」


 「ラパンの心ミラ?」


 「うん、ざっくりと、だけどね。嬉しい!とか助けて!とか、そんな感じ。どっちもミランたちの話を聞いた感じだと予想は付くけどね、アンジェストロになれて嬉しい!妖精界を助けたい!…かなって。あぁそうだ、本人に聞けばわかるよね」


 「そういえば、ラパンはどこミラ?」


 ミランの言葉を聞いて、薫も「そういえば…」と、部屋の中を探してみるものの、確かに何処にも姿が見えない。

 パンもエポンとミランしか食べていなかった。

 考えてみれば、今日起きてからラパンの姿どころか、声すら聞いていない!


 「ラパン?どこ?」


 薫は声に出してラパンを呼ぶ。だが、返事は返ってこない。

 エポンのパンを食べる音だけが、部屋に響いている。


 「おーい、朝ごはん食べようミラー。エポンが全部食べちゃいそうミラー」


 ミランは部屋の中を飛び回りながらラパンに呼びかける。しかし返事はない。

 ベッドの下や、机と椅子の下、クローゼットの中などラパンが入っていそうな所をしっかり探してみるが、やはり彼女はいなかった。

 すると、エポンが満足するまでパンを食べたのでニコニコとした笑顔で、ラパンを探している薫とミランに声をかけた。


 「ラパンなら朝早くに窓から外へ出て行ったエポぉ~」


 「え?え、エポン出て行くって知ってたの?」


 突然のエポンのカミングアウトに困惑しながらも、薫は質問をする。

 だがのんびりとした雰囲気のエポンは、ミランも驚いて硬直してしまっているのにも関わらず、何かありました?みたいな空気感である。


 「ううん、エポンも知らなかったエポぉ~。音がして目が開けたら、窓を開けて出て行くラパンを見たんだエポぉ~」


 「えぇ!?そ、そんな…昨日一緒に戦おうって言ったのに…どうして…ラパン…」


 空いていた窓は、寒かったからエポンが閉めたらしく、それがラパンが出て行ったという事を気づかせるのを遅らせた原因となっていた。

 薫とミランは急いで、ラパンを探すために家を飛び出した。

 そうして、アンジェストロ二日目の朝は、慌ただしい始まりで迎える事になった。

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