第1話ー⑤ 春風の出会い、大地の使徒誕生!

 (ま、まさか…作戦に気づかれた…?で、でもここまで自分で何かを考えて動いているというより別の何かに反応して攻撃しているような気がするんだけど…)


 ソルがそう思ったのは、自身がアンジェストロに変身してから怪物がミランやエポンに見向きもしないで自分だけを狙ってきていたからだ。

 今のラパンと合体した自分たちの方が怪物を引き寄せる何かを持っている…例えば動物が放つフェロモンみたいな…そういう物があるんじゃないかと思っていた。

 すると怪物は、しゃがみ込むようなポーズをして、右手と両足が激しく発光し始めた。まるで、アニメで何か特別な力を溜めているかのような光景だった。


 「こ、これは…!」


 《ど、どうしてアイツからフェアリニウムが放出されてるラパ!?》


 「ふ、ふぇあ…?なにそれ?」


 《あの光ってる力の源ラパ!あとソルが作ってる盾の力とも同じ力ラパ!》


 「もしかして、妖精が使う力の事?」


 《そ、そうラパ。でもアイツは闇の世界の住人のはずラパ…なんで使えるラパ…?》


 ラパンのその呟きに対して、ソルは心の中で一つの考えが浮かんだ。


 (もしかして…あの怪物の正体って…)


 放たれていた光が両足と右手に集束し、光が消えたと事をソルが認識した瞬間怪物が視界から姿を消してしまった。


 「えっ!?どこに…!」


 辺りを見回すが見つからない。

 そんな時ラパンの声が、ソルの頭の中に響く。


 《上ラパ!》


 それに反応できたソルが自身の真上を見ると、空中で怪物が地面にいた時と同じポーズで飛び上がっていた。


 (あそこからどうやって…でも予想外に状況は良い方へ向かってる…後少しで止められる!)


 空中の怪物の動きをしっかりと見て、いつでも盾を作り出せるように体勢を整える。

 次の瞬間怪物が空中を蹴りもの凄い速度で垂直に落下してきた。


 「今だっ!やぁー!」


 一瞬でソルとの間の空間を詰める敵。事前に準備をしていなかったら、盾を発動できていなかっただろう。

 思い切り伸ばしてきた怪物の右腕とソルの両手の平の間に半透明な桃色の楕円形の盾が出現する。

 そして盾に拳が触れる瞬間、盾の角度を地面の一番湿っている場所に弾かれる様にした。

 盾と拳が触れた次の瞬間。ドンッ!という音が辺り一帯に響き渡った。


 怪物の拳はソルの作戦通り湿った地面に突き刺さっており、フェアリニウムというエネルギーを溜め、空中からの落下の勢いを利用した攻撃であったからか、何と肘まで地面に埋まっており完全に抜けなくなってしまっているようだった。

 何度も抜こうとしている様だがビクともしていない。


 「よし、今ならあの怪物を…浄化できるかもしれない!」


 《ラパンもそう思うラパ。何でかわからないけど…頭に技の名前が浮かんでるラパ…!》


 ソルは少しだけ後ろに下がり、先程怪物がやっていた姿を参考にして彼女的に丁度いい距離を取ってから胸元に手を添えて体中から溢れるエネルギーを腕に集め始めた。

 羽根や足など全身だけじゃない、空気中からも青い光がソルの腕に集束していく。ポカポカと暖かな光が彼女の腕を強く輝かせている。

 そして十分なエネルギー…フェアリニウムがチャージされた時、ソルは手を三角の形に組んで怪物の方へ突き出し、頭の中に浮かんできた闇のエネルギーを浄化させる技の名前をラパンと共に叫んだ。


 「ソル・プリエール・クラーレ!!!」


 叫んだ瞬間、三角に組んだ手から桃色の光線が怪物に向かって放たれた。

 光線は真っすぐ進み、身動きの取れなくなっていた怪物を光の激しい流れに飲み込んでいった。

 数秒間続いた光線の放出が終わると、怪物がいた所に、フワフワとしたラパンの様に身体に宝石が付いている動物が倒れていた。


 「あ、あれって…」


 ソルがラパンに聞く言葉を喋る前に、ラパンの声が彼女の頭の中に響いた。


 《エキュロン…エキュロンラパ!リスの妖精ラパ!》


 駆け寄って倒れている宝石の付いたリスを優しく持ち上げる。


 「名前知っているって事は…お友達?」


 《友達ではないラパ。近所に住んでた食事処の料理人で有名だったラパ》


 (しょ、食事処……なんかすっごく渋い言い方な気がする……妖精の世界って日本の下町みたいな世界観なのかな…?それにしても妖精が怪物の中に入ってたなんて…もしかしたらと思ったけど、本当にそうだったなんて…変に攻撃しなくてよかったな……)


 などと考えていると、戦いが終わった事を察知したのか、ミランとエポンがソルたちの所にやって来た。

 「おーい!凄い音と光が見えたけど大丈夫ミラー!」


 「わぁ~、お疲れ様ぁエポ~」


 エポンは終わった前提で声をかけてきたが、ミランはソルとラパンの身を案じて声をかけてきた。


 「大丈夫だよ。ほら、えっと…え、え、エキュ?さんを助けられたよ」


 手の平に乗せているエキュロンを近くに来た二人に見せる。


 「お~本当エポ~。エポンよくエキュロンの鰺の塩焼き食べてたエポぉ~」


 「鰺の…そ、そうなんだ……」


 ソルの頭の中の妖精界のイメージが、エポンの言葉によってどんどん和風になっていく。


 「そんな事言ってる場合じゃないミラ、エキュロン…どうするんだミラ?ここは人間界だし、妖精を診れる医者なんていないミラ」


 ミランの言葉に、ソルの中のラパンが《一旦自分たちで面倒を見ようラパ。今妖精界に送っても敵にまた攻められるかもしれないから安全とは言えないラパ》と答える。だが、ミランたちには聞こえないので、ラパンの言葉を二人にソルが伝える。


 「なるほど…確かに今はミランたちの近くが一番安全ミラか…。アンジェストロもいるミラし…」


 ミランにチラっと視線を向けられた時、ソルは何時までアンジェストロに変身しているのだろうと思った。

 もしかして、そのまま?なって思ったが、変身を解除したいと思ったソルの気持ちを変身に使った腕輪が感じ取ったのか、再びソルの身体が虹色の光に包まれその中から、ラパンと薫の二人に分かれて元の姿に戻った。

 薫の服も、変身前のオーバーサイズの黒のスウェットと緑色のジャージのズボン、厚底のスニーカーに戻っている。


 「どうやら、変身を解こうと思ったら変身が解除されるみたいラパね」


 「あはは、良かったよ。このままアンジェストロのままだったらどうしようかと…」


 この町に来て初めて笑った薫だったが、町に来た時と打って変わって、とても気持ちよく笑っている様で、その笑顔をみたミランやエポンもアハハと笑った。


 「うん…今日はちょっと初めてだったし手間取った事もあったけど……これからもラパンさんたちの事手伝うよ」


 薫はそう言ってラパンと握手しようと手を伸ばす。


 「そう言えば、私の名前言ってなかったよね。私、天土薫!よろしくね!」


 「さんは要らないラパ。ラパンは…ラパンでいいラパ。……よ、よろしく…ラパ」


 「うん!わかった。よろしくラパン!」


 小さな手を伸ばし、薫の人差し指を掴むラパン。

 その表情は、晴れ晴れとした様子の薫と対照的に何かが心に引っかかっているような、曖昧でどこか思いつめたような顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る