第1話ー③ 春風の出会い、大地の使徒誕生!
ラパンは、薫に詰め寄りながら自分の事情を簡単に伝えた。…伝えられているかと言われれば、伝えきれていないのだが、あまりにも慌てている様子から、薫は今は深く聞くのは止めておこうと判断した。
「え、えっと…妖精界が大変なのはわかったから、えっと…その…何で私の助けが必要かなのだけ聞いてもいい?」
手から発されている光を薫の顔に近づけて、ラパンは話し始めた。
「今光っているのは”星の輝き”という特別な石ラパ。妖精界の言い伝えによると、この石が輝く相手と妖精は運命によって惹かれ合う相棒なんだって…そう聞いているラパ。ラパンは今持っているのを手に持った時、淡く光ったラパ。そして今、あなたと出会った時、より強く光り輝いているラパ!」
…?ラパンの説明を静かに聞いていた薫だったが、何も理解できなかった。そもそも質問の返答になっているのかも怪しかった。
とりあえず聞いた話を整理すると、何かの基準を満たしたら常に淡く輝く”星の輝き”という石を持って、相棒となる人を探していたのだろうか?そして薫がその相棒にふさわしく、石が光が強くなったから協力してほしいという事なのだろうか?
薫は頑張って、不思議な兎の話を理解しようとした。
「わ、私にラパンさんと似たような、何かしらの才能があるみたいな事…?」
「才能というより、特別な力ラパ!あなたと私で力を合わせれば、妖精界を救える…かもしれない…多分…ラパ…」
どんどん曖昧になっていくラパンの言葉に、少し不安になる薫だったが、自分になにか特別な力があると言われて興味が湧かないわけがなかった。
正直妖精たちの事情にはまだ他人事という意識があるのだが、ラパンの目を見ると、今すぐにでも助けてほしい…手を借りたい…という目をしていた。薫はその目を見て親近感の様な共感を覚え、もし自分に助けになる力が本当にあるのなら…と思い…
「私…やるよ」
と返事をした。
「ほ、本当ラパ!?ありがとうラパ!!」
ラパンは大喜びで、光っている”星の輝き”を持ちながら、薫の周囲をクルクルと飛び回った。
あぁ…ラパンさんも空も飛べるんだ…。そう薫が思った時、突如薫の目の前で爆発が起こった。
「な、何!?」
薫は爆風が巻き上げた土煙のせいで咳き込みながら、自分の周りを飛んでいたラパンと足元にいた他2人の妖精を抱えた。
そのまま煙の中から走って逃げ出す。もし爆弾だったらどうしよう…薫はそう思っていたが、抱えていた妖精は違った。
しきりに、「追われてたラパ…!?」などと言っている。
追われていた?いまいち状況が呑み込めない薫は、とにかく周りが見えない状況から脱出しなければならないと考えて、爆発の位置から離れた。
「いったい何が起きてるの?」
生垣にラパンたちを下ろして、事情を聞く薫。
ラパンたちも、急な状況で混乱しているらしく、慌てた様子で答えた。
「ラ、ラパンたちもよくわかってないラパ!」
「多分妖精界を襲ったドーン帝国の攻撃ミラ!」
「妖精界に攻撃した時はぁ、急に寒くなったんだけどぉ…今は寒くないエポぉ?」
3人の話を聞いている感じだと、とにかくラパンたちが助けてほしいと言った理由がさっきの爆発と関係があるらしいという事だけはわかった。後は、慌てすぎているのと今は関係ない話だ。
「これってまた爆発が来るのか……な……」
薫がもう一視界に入って来た異常を無視する事が出来ず、質問の返答の前に少しづつ後ずさりをした。
目の前の異常。それは、人の形をしているようだが、全身が真っ黒で頭部の左側が大きく丸く腫れたような奇妙な形をしている男か女なのかもわからない存在だ。
爆発による土煙が晴れていくと、そこに立っていた。
薫はその異物が放つオーラの様な物を危険だと感じとった。
「は、早く逃げ…!」
「ま、待ってラパ!アイツがもしドーン帝国の追手なら…どっかにドーン帝国のマークが描いてあるはずラパ。妖精界に攻めてきた奴には服に描いてあったラパ!」
ラパンにそう言われて、ジッとそのマークというのを探してみると、右肩辺りに何か絵のようなものが確認できた。
「あ、あの肩の奴ってそうじゃない?その…どー…ん?帝国っていう国のマークなんじゃないかな?」
「それラパ!あの、翼を広げた鳥の周りに炎の意匠!正しくドーン帝国のマーク、間違いなくアレは帝国の手先ラパ!」
ラパンによって、ドーン帝国の追手である事が確定された怪物は、ここまで大騒ぎをしていても、立っている場所から動こうとしなかった。
そして、それを好機だと考えたラパンは、薫の右腕に二つの細い輪が複雑に絡まったようなデザインの腕輪を付けた。
「え?な、なにこれ…」
薫が困惑した様子で、ラパンに尋ねる。
「多分”星の輝き”に選ばれた証だと思うラパ…伝説の通りならここにラパンが入れば、あなたはアンジェストロになって…あの怪物と戦えるラパ!」
「た、戦う…!?え、協力するって戦うってこと!?」
「あれ?言ってなかったラパ?」
「聞いてない…!」
ラパンと薫がワタワタと押し問答をしていると、ミランが大声を上げた。
「二人共!避けるミラ!」
「えっ…」
薫がその先を言う前に、眼前に怪物が迫っていた。
間一髪薫はミランとラパンに左側に引っ張られたお陰で、左腕にかすり傷を負うだけで済んだ。
だが、一瞬注意を止めただけで死が目の前まで迫っていたという事実が、薫の心臓の鼓動を加速させていた。
耳にまで聞こえてくる心拍音と、引っ張られた事で地面に倒れている自分を見下ろしてくる怪物が彼女のそれからの動きを阻害していた。
このままでは、倒れている薫に攻撃が来る。
(ど、どうしてこんな事に…私、この町でやり直そうって思って…もう一度頑張ろうって思って来たのに…なんで…)
怪物から目をそらさず、ずっと同じ事が頭の中を巡っている。
巻き込まれた戦いへの恐怖が、彼女の心の中を支配してしまっており、周囲ではラパンたちが必死に、薫に声をかけているのだが、自分の世界に入ってしまった彼女には声は届いていなかった。
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