第1話ー② 春風の出会い、大地の使徒誕生!
神尾町。S県O市の南部にある人口3万人程の街で、芝乃川によって東西南北に区分けされている。
今日薫が引っ越してきた家があるのは南区で、特にこれといった特色はないが、学校や商業施設のバランスが良く、住みやすい区だとされている。
今薫は家から歩いて5分程の小さな橋の上にいた。
橋の下に流れている川は、神尾町に来てからずっと目にしている芝乃川である。ここに流れているのは、主流から別れた細い副流なのだが、水はとても澄んでおり清流ではないもののこの川がどれだけ町の人々によって管理されているかが分かる。
薫もそのような事を考えながら、水面に映る自分の顔を見ていた。
(この町で…私は上手くやっていけるのかな…いや、上手くやるんだ。私が心からそう思えば、できるはずだ…そのはずさ)
自分に暗示させるかのように、心の中で何度も大丈夫だと念じた薫。近くを老人が通った事で我に返り、そそくさとその場を離れた。
橋から道なりに歩いてすぐに電器屋がポツンとあった。周囲は住宅街で、特に商店街だという訳でもない。
(町の電器屋さんって感じじゃなくて、地域の電器屋さんって事なのかな。なんだろ、こういうお店…好きかも…)
薫は財布がないので店の中に入るのは失礼だと思い、店頭に置かれているテレビを見る事にした。
流れているのは朝のニュース番組で、内容は昨晩少年犯罪者5名を乗せて移送していた警察車両が事故に遭い、犯罪者が全員亡くなってしまったという報道だった。
何とも痛ましいが、亡くなったのは犯罪者だけ…複雑だな…と思いながら、あまり長く店の前にいるのも失礼かなと思った薫はまた道なりに歩き始めた。
五分ほど歩くと住宅街を抜け、大通りに出た。車は多く行きかっており、道路を挟んだ向こう側の商店街と思われる場所は良く見えない。
近くに横断歩道があるので、そちらに行こうかとも思ったが、薫は渡らず電柱に付いていたこの先神尾公園という看板を頼りに、その公園へ向かう事にした。
看板からそう遠くない場所にあったので、公園にはすぐに到着した。公園はかなり広く、林もあれば遊具やアスレチックもあった。
もし自分が小学生だったら、大興奮で遊んだだろうな…と薫は考えながら、公園内に入りベンチに座った。
すると思っていたより、足に疲れを感じた。どうやら新しい町に緊張をしていた様で、公園に来たのは良い判断だったな…と一息つき、目の前の林を見つめて、自然を感じつつ新たな町の心地よさを実感していた。
心地よい風も吹いてきて、肌で心地よさを感じることができていた。
「この近くラパ!」
そんな時、風に乗ってどこからか声が聞こえてきた。
「ら…?なんか今変な声が聞こえてきたような気が…」
薫は周囲をキョロキョロと確認するために見回す。声が聞こえてきた方角がよくわからなかったので、全方位を見た。
座っているだけでは見えないところから聞こえてきたのかもしれない。
立ち上がって、もう一度立ち位置を変えて見回してみる。
だが、どこをどう見ても誰もいない。気づけば、先ほど聞こえたような気がした声も聞こえなくなっていた。
…勘違いだったのかな…?そう思った薫は落ち着きを取り戻し、もう一度ベンチに座った。
「ここラパ!」
「!」
また聞こえた。薫はすぐ立ち上がり、辺りを見る。
だがやはり誰もいない。…この妙に高く、語尾に変な言葉が付いている声の正体が気になって来た薫は恐る恐る、足元を見た。
するとそこには光り輝く何かを持っている両手の甲に宝石が付いている兎と、胸に宝石が付いた鳥と、額に宝石が付いた魚がいた。
「……魚が陸地にいる!?」
しかもよく見ると、その魚は少し空中に浮いているのだ。
薫は魚が普通に陸上にいる事に驚いて、そこまで見れてはいなかったが。
「ぎゃー!!見られたラパ!!ど、どうしようミラン!」
兎にミランと呼ばれた鳥は、「お、落ち着くんだミラ!ラパン!”星の輝き”をよく見るミラ!その光、目の前の人間に近づくと光が強くなってるミラ!」と兎、ラパンと同じくらい慌てながら返事をした。
「え、あ、ホントだラパ…」
ラパンが少し薫に近づくと、ミランの言う通り手から発されている光が強く輝きだした。
「って事はぁ、その人間が~ラパンの運命のペアって事エポぉ~?」
魚がゆっくりとした口調で呟いた。この子は二人に比べて落ち着いていた。
「な、なんなの…?」
薫は素直な今の気持ちを吐露した。
目の前にいる兎や鳥が人語を話しているという事にも驚かされているが、何か自分に用がありそうな事を話してもいる。
「あ、あの!ラパンの名前はラパンラパ!妖精界から来た妖精で…その、今妖精界が大変な事になってて…それで…とにかく!助けて欲しいラパ!!」
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