第7話 こんがりなたこ焼き

 一度は死を覚悟した。

 だが幸運なことに、かろうじて生きていた。

 タコワサが身を挺して庇ってくれたおかげだ。


 彼は瞬時に体積を拡大させ、僕の全身を包み込んだ。

 臨時のシェルターは見事爆風を防ぎ、壁面に打ち付けられる衝撃だけが伝わってきた。


「がはっ!?」


 骨がきしむ鈍い音が耳朶に響く。

 視界が白光し、意識が飛びそうになる。


【気を強く持て!! 空気を作るのだ! 死ぬぞ!!】


 タコワサは自らの触手を2本切断し、一本は船殻と僕を繋ぎ止めるのに使い(このままでは宇宙空間へ引きずり込まれてしまうから)。

 もう一本を口腔内に突っ込んできた。


【私はモモモ生命体。肉体もモモモで形成されている。今、船内のモモモはゼロに等しい。申し訳ないがそれで代用してくれ】


 タコワサが僕から離れていく。

 ベリベリと焦げた外皮が爛れ落ちた。

 痛々しい……。


【上手くいくかは五分五分だな……】

 彼は船殻の『穴』へ向かうようだ。

 

 現在、船内の重力は不安定な状態に陥っている。 

 多量の空気が宇宙空間へ放出され、エアスラスター、予想外の推進力が生まれてしまったのだ。UFOは人工重力の回転係数を乱した。


 だが彼の跳躍に迷いはない。


 空気が吸い込まれる気流に乗って、穴へ直接ダイブしたのだ。到達すると、全身で穴を覆い、自らをとし船殻の再構築をはかった。


「タコワサ!!」


 僕は彼の名を叫ばずにいられなかった。


【!!!!】


 タコワサの苦痛と懸命が脳裏に伝わってくるのだ。


 桃姫を死なせてなるものか。

 捨て身は覚悟の表れだ。

 正直、震えたよ。かっこいいやつだ。


【大丈夫! 成功だ!】


 タコワサはなんと穴を防ぎ切った。

 僕は高らかにガッツポーズした。


 ひとまず窮地を乗り越えた安堵と喜び。

 先の爆音が嘘のよう、驚くほどの静寂。

 僕はすぐに自責の念に襲われ始めた。


 ここまでくれば、なぜあんな爆発が起こってしまったのかが理解できる。


 僕のせいだ。

 僕が至らないせいで、タコワサを傷つけてしまった。

 

【やめろ。今回のことは私の落ち度でもある。君が萎えると、私もしぼんでしまう。今回のことは不運な事故だったのだ】


「でもタコワサ、見た目が……」


 彼は触手を切断し、僕を救った。

 あれがなければ空気を作ることができず、死んでいたことだろう。それだけじゃない。焼けた皮膚を削ぎ落とし、体の大部分は船殻の修理に当ててしまった。


 よって彼の見た目は——。


「可愛くなっちゃっているよ」

 とても小さな、ぬいぐるみ程度のサイズ感におさまっていた。


 クリクリお目目がとても可愛い。


 その姿に異星人としての威厳は微塵も感じられず。タコワサというより、たこ焼きのマスコット人形みたいだ。

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