第6話 アクシデント勃発

 僕はどちらかと言えば愚かだし、かぎりなく平凡よりの人間だ。

 未来のことなんてほとんど予想できていないし、だからこれから起こるアクシデントの予兆にも気づけやしない。


 問題の種はすでに沢山蒔いてあった。

 あとから知る話だが、僕は驚くほど自分の首を絞めていたようだ。


 まず第一に、『モモモの使いすぎ』である。

 モモモの扱い方を習得するため、何度も実験を重ねた。これまでに作成したモモモ想像物は以下のとおりだ。


・宇宙船のUFO化。

・鯨骨生物群集個体番号1127のタコワサ化。

・船殻の不透明化。

・金銀財宝。

・桃のようなナニカ。

・タコワサデータバンクの浮かぶ文字。

・多数のラムネ。

・水分。

・空気。


 いくら高出力のエネルギー体であるモモモとは言え、これほど多量に使用したら、残料は目減りする。


 船内に保存してあるモモモの大部分は、UFOの推進力として利用されている。

 結果、生存スペースのモモモはほぼ無くなっていたようだ。


(モモモは宇宙空間にも点在しているので、回収事体は容易)

 

 これがのちに悲劇を生む。


 第二に、ラムネの失敗作たち。

 ブドウ糖とクエン酸。二種の『粉末』を固めるために『でんぷん』を使用するわけだが、これがどうにも扱いにくかった。


 天然高分子化合物という特性がもたらす、複雑な化学式。

 味とは直接関係しない素材であるという、イメージの難しさ。


 ラムネ制作時間のほとんどは、でんぷんとの格闘記録と言っても過言ではない。


 つまり凝固しきれなかった失敗作、『ラムネ粉塵』が多量に空気中を漂う結果になった。


 第三に、気圧。

 UFOに空調機能はない。

 なぜなら人間用にできていないから。

(タコワサは無酸素状態でも生存が可能)


 地球生命の僕が生き残るには、多量の空気を想像しなければいけなかった。

 つまり密閉された船内に、ちくじ空気が投入されたわけだ。気圧は数倍に膨れ上がっていたことだろう。


 これは風船に息を吹き込み続けるようなもの。

 いくら強固な船殻とはいえ、ストレスを受けていたことに間違いはない。


 さらに言えば、空気想像によりゆるやかではあるが、船内で『気流』が発生していた。

 おかげでラムネ粉塵がよく舞った。


 最後に、高濃度酸素がもたらす、意外な弊害だ。

 僕は酸素中毒ギリギリでO2の供給をやめたが、続いて窒素の想像へと着手した。


 この際、宇宙空間へ過剰な酸素を逃せば良かったのだが、そこまで頭が回るはずもなく。


 僕は高濃度酸素を、『窒素で割る』という対処方をとってしまった。


 なので船内には未だ『多量の酸素』が漂っていたことになる。


 高濃度の酸素には、酸素中毒以外にもひとつ、無視できない脅威がある。『爆発の危険性』だ。


 火が燃焼するのには、酸素という『エサ』が重要なのは周知の事実。濃ければ濃いほど、燃焼速度は爆発力を増す。


 船内は今、非常に『燃えやすい』状態にあった。


 モモモの不足、高濃度酸素、粉塵、船殻のストレス。

 ここまで言えば、今から何が起こるのか、おおかたの予想はできるだろう。


 以下はバカの会話だ。


「ねぇタコワサ。いまさらだけれど、この船暗くない?」

 光原は遠く離れた太陽と星の灯だけ。

 UFOの回転次第では、真の闇に包まれる。


【モモモ生命体は『光』を見るすべがない。モモモを知覚することに特化しているからだ。よって視力が発達しなかった。万物にはすべからくモモモが宿っている。光が見えなくても生活に支障がないのだな。不便なら自分で明かりを灯せばいい】


 明かりといえば白熱電球やLEDだが、感覚的にはロウソクやランプの方がイメージしやすい。


 ならば火種が必要になる。

 僕は脳裏に棒状のマグネシウムをイメージした。

 

【それは?】


「メタルマッチと言ってね、この棒をナイフなどで擦ると、摩擦で強い火花がちるんだ」


 シャキッ。シャキッ。

 なかなか火花が発生しない。

 うまくいくには多少のコツが必要のようだ。


【火花。火……。!? まずい! 桃姫君、いますぐやめ——】


「あ、ついた」


 着火。


 火花は空気中の酸素とラムネ粉塵に著しく反応し、大爆発を起こした。


 ダメージを受けていたUFOの船殻は爆風に耐えきれず、大穴が空いた。


 まずいことになった。

 空気は気圧の低い方へ流れていく性質がある。高気圧であった船内に対し、宇宙は真空0気圧だ。急速に空気が宇宙空間へ吸い込まれていく。


 死因が爆死か窒息死か。

 さしたる違いはない。

 結果はどうあれ、僕は自らのヘマのせいでおそらく死ぬ。


 非常に残念だ。


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