魔法使いの世界~平穏を返して欲しい最強の魔法使いと魔法使いを目指す少女の日常~『最強の魔法使いのもとには面倒事が舞い込む』
Episode2.神代流哉は後悔している『その弐』 思惑通りにはいかない/シェニッツァーからの贈り物
Episode2.神代流哉は後悔している『その弐』 思惑通りにはいかない/シェニッツァーからの贈り物
昼過ぎ、講義のない者は帰り、ある者は受けている頃。
遅めの昼食を取っている学生や、食堂で友人たちと喋って講義と講義の合間の時間を埋めている頃。
図書館である者は昼寝を、ある者は論文の作成の為に必要となる本を書庫で探している頃。
流哉は第七号棟、別名“会議室棟”の最上階、第一会議室の扉の前に
普段であれば用のない者が立ち寄る場所ではないし、立ち入りが許される場所ではない。
ここへ呼び出された理由は大方の見当はついている。
先日提出した学期末に実地される民族学のテストの出題内容に対する質問だろう。
テストの内容は講義の担当である
疑問に答えを見いだせないまま、室内へと進む。
「何であなた達がここにいるんだ?」
数時間後、流哉は不満を抱いて夜の街を歩いていた。
「まさか待っていたのが
まあ、あの俗物どもと関わらなくて良いのは非常にありがたい。
明日からテスト終了までの期間、わざわざこの鬱陶しい場所に来なくて良いってのいうのは大きな収穫としよう。
テストの方は問題文の修正はしなくていいようだから、後は全て立花の方で引き受けると言っていた。
これで思いの外活動的だったお嬢様の方に集中できる」
流哉を出迎えたのは学長と立花楓の二人だけだった。自身の正体を知る数少ない一人である立花がいることは非常に都合が悪い。
流哉を呼び出しのが傲慢な委員会の連中だけならいくらでも手段があった。学長だけでもそれは変わらない。
しかし、立花がいるとなると話しは別だ。
決して安くはない費用をかけて用意した嗅がせたモノを傀儡にする香も、魅惑の魔眼を宿した蛇の頭も、全てが無駄になった。
学長と立花教授の二人から出された条件は唯一つ、このまま立花の下にいること。代わりに他の教授たちにはアレコレ言わないようにしてくれるらしい。
手駒は増えないが、
もともとは
少しでも静かになるのなら、それで構わない。
気が付くと景色は夕闇に閉ざされ、空を見上げると天高く夜の世界を照らす月が出ていた。
「もう少し楽ができると踏んでいたんだが……やはり一筋縄じゃ行かないのは
これから忙しくなると踏んでいたところへ渡りに船だと受け入れたのは早計だったか?
まあ、当初の目的は達成できたから良しとしておこう。
あのお嬢様が見た目と裏腹に活発だった事は計算外だったけど」
欠けた月を眺め、流哉は家路を急ぐ。
家に着いた流哉を迎えたのは、母の一言であった。
「流哉、連盟から荷物が届いているわよ」
居間に入ると厳重に封をされ、堂々と鎮座する巨大な箱が目に付いた。
流哉はそれを抱えあげ、自室へと運び込む。
箱を部屋の片隅に下ろし、封を解く。
中には壮麗な弓とそれを抱える人型の人形、そして手紙が入っていた。
手紙を広げ、中身に目を通す。
『親愛なる流哉へ
契約の品、確かに届けた。
依頼の品を同封したのは分けて送るのが面倒だったことを察して欲しい。
自動人形なんて酔狂な物を注文した理由は聞かないが、料金はいつもの方法で。
健闘を祈る。』
手紙の中身は形式なんてものは完全に無視されており、シェニッツアーがどのような人格なのかを物語っていた。
「さすがのできだ、シェニッツアーの爺さん。『アルテミス』の名を冠す弓としてこれ以上のものはない」
箱に入っていた弓の名前は『アルテミス』。
月の女神の名を冠するこの弓は祖母が流哉に遺した『
流哉はシェニッツァーへ契約の対価として、自身の弓の修復の依頼をしていた。
箱から取り出し、眺める。
弓は銀色に輝き、所々に深い青色の宝石が砕き混ぜ合わせたものがはめ込まれていた。
弓の本体は魔力伝導の高いミスリル性。
青い宝石はサファイアの「コーンフラワーブルー」、ラピスラズリ、コバルトスピネル、ダイヤモンドの「ブルーダイヤ」を配合したものだ。
幻の金属ミスリルは全てシェニッツァーの手によって復元されており、青い宝石はサファイアをベースに宝石を粉になるまで粉砕し、それを彼独自の配合で深い青を創りだす。粉は錬金術により石へと加工され、更なる輝きを放つ。
芸術的な観点からだけ見ても素晴らしいモノだと思う。
弓へ魔力を込めると、姿を指輪に変える。
指輪を自身の指にはめ、次に自動人形に魔力を込める。
魔力を込められた自動人形の瞳に光が宿り、流哉へと視線を向ける。
「名も無き人形よ、星の魔法使いたる我が名において命ず。我が手足となり、我に従え」
命令を受けた自動人形は電池が切れたように瞳から光が消える。
再び魔力を込めた時、自動人形は起動し、命じたままに動き出すことだろう。
自動人形とは意思を持たず、ただ魔力を込めた所有者の手足となる傀儡である。
流哉は自動人形が入っている箱をしめ、フィンガースナップを一度鳴らす。
自動人形が入った箱は忽然と部屋の中から消え去った。
「さてと、代金を支払ってくるとしますか。それにしても、手紙の最後に自分の名前を書くくらいの手間はかけてもいいだろうに」
流哉は広げた手紙を丁寧に戻し、ベッド脇のサイドボードの上に設置した古めかしい木製の箱に入れ、再び夜の街へと出かける。
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