見習い魔術師と流星の夜

Episode0.燈華のプロローグ

 冬城燈華とうじょうとうかという人間は極めて平々凡々な人生を歩んで来た。


 祖父母と両親、それに燈華という家族構成。両親は忙しい人で、日本に帰って来るのは一年に幾度かある程度、必然的に構ってくれるのも世話をしてくれるのも祖父母であった。


 家柄は良い方だと思う。祖父母は燈華が生まれ育った町である宇深之輪町において、少なくない影響力を持ち、町で一番の権力者の家と深い付き合いもある。


 世間一般から見れば恵まれた家庭であると思う。祖父母が人ならざるものでなければ。

 燈華自身はごく普通の一般家庭の子供として、魔法は勿論のこと魔術にすら触れることなくに育てられた。

 祖父母が人ではなく、魔法使いという御伽噺おとぎばなしにしか出てこないような存在で、その事を秘密にしていたというわけではなかった。

 人ということわりの外側に居ると、そういうモノであること自体を理解したのは中学校へ入った頃だったからここ数年の話し。

 子供心にどこか周りの人達や両親とは違うと感じていたけれど、それをどう表現したらいいのか分からなかった。


 冬城の家のことを祖父母から直接教えられたのは、中学の卒業が差し迫った頃。義務教育を終えたということもあり、神秘というものの存在を明かされた。

 祖父母は燈華に魔法を受け継げとも、魔術を学べとも何も言わなかった。

 何かを期待しているとも、期待していないとも、何も言わなかった。

 ただ、一言。『お前はお前の進む道を歩みなさい』とだけ。


 だから、決めた。祖父母の魔法を受け継ぐと。

 他の誰かに祖父母の力を奪われたく無い。

 燈華以外の誰かが奪い取るというのなら、簒奪者を滅ぼすだけの力が必要だと思った。


 友人を、童話の魔法使いを頼ったのは力を蓄え、磨くため。

 魔法以外の力を磨くには最適解だと思ったから。


 そして燈華がつむぎの住む館に転がり込んでから早いもので三ヶ月という時間が経とうとしていた。

 この三ヶ月の間、いろいろなことが起きた。


 いや、色々なんて言葉で片付けて良いものではない。なんでたった三ヶ月という期間で何度も死にそうな目に遭わなければならないの。


 最初の出来事は紡の怒りを買ってしまい、殺されかけた事。

 一緒に住み始めて丁度一ヶ月目のことであった。

 原因なんて些細ささいなもので忘れてしまったけど、互いに関する理解不足とか、そんな感じだったと思う。

 紡の作ったばかりの“話し”の相手をさせられる羽目になった。

 すれ違いで殺し合いに派生する。あんなことはこれっきりにして欲しい。

 魔法使いにとっては軽い戯れだったかもしれないけれど、そんな簡単な気持ちで殺されて堪るか。


 次は住み始めて二ヶ月目、そろそろ紡の館での生活に慣れ始めた頃。初めて自動人形というものを目にし、相手にした。

 その時、紡は一切手伝ってくれなかった。

 こういう奴だっていうのは分かって付き合っていたけど、まさか二ヶ月続けて殺されそうになるとは夢にも思わなかった。


 そして三ヶ月目の今日、まさに今、燈華は絶体絶命である。

 目の前にはまた以前倒した自動人形がいる。

 一月前と違うのは自動人形が一体でなく、倒した人形の他にまだ動く三体の人形がいるという点と、燈華が既に何体も破壊した後で魔力切れを起こしている点だけ。


(私の運も尽きたかな。紡はまたどこか宙を見つめているし)


 紡は宙を見つめたまま助けようとはしてくれなかった。

 もともと紡の張ってくれたのは人払いの結界だけ、人以外の自動人形がいくら侵入しようと紡に落ち度はない。


 その時だった、死を覚悟した燈華に迫る自動人形を三本の流星が貫いたのは。

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