夢想家
ゆわ
夢想家
深夜、闇の番人に拘束された俺は逃れようと必死に抵抗していた。だが繋がれた拘束具は外れない。番人はこう言う。
「経歴を見た限り、無職ニート歴10年か。お前は不労所得を得ている最低なクズだ」
「それに加え、お前はSNSで自信の汚い顔を晒している」
俺は必死にこう言う。
「削除しました!許して…」
番人はこう言う。
「そしてマザコン罪、ファザコン罪のお前は家庭を壊す可能性から独房に入る必要がある。よって求刑は、懲役…」その瞬間、俺はベッドから起き上がった。
気づけば光が部屋に差し込み目を覚ましていた。
夢?時計を見ると。午前7時。
窓から冷風が入る。チラっと外に目をやるとカラスがいる。なんだ助かった。
一戸建ての二階のリビングでは、テレビから情報番組が流れている。父、母、息子である俺の三人が朝の支度をしていた。
先ずは歯を磨く。
そしてシャワー。ドライヤー。
ドンドンと歩く音が響き。
また、朝が来たか。
「新しい靴下買わなきゃ駄目だ」
俺はトランクス姿でお母さんの前を通る。お母さんはお父さんのワイシャツにアイロンをかけながら言う。
「靴下?そういえば、ずっと買ってなかったね。ねぇお父さん」
「これ、もう。捨てるよ!」俺は投げやりな面持ちで、靴下を足から引っ張って、ゴミ箱の前でぶら下げてお母さんの様子を伺う。
するとお父さんが口を開いた。
「お父さんが車で、この前、透のスラックス買いに行ったあの店に連れて行ってやる。良いだろ?」
俺はボロくなった靴下をゴミ箱に落として笑顔で頷く。
「うん。ありがとう。いつ買いに行く?」
「今日の夕方はどうだ?とりあえずもう仕事だからお父さん」
「ありがとう。じゃあ後で。お願いします」
お父さんは、ワイシャツとジャケットに急いで着替えて家を出て行った。
リビングではまだ俺が朝食を取りながらテレビのチャンネルをいじっていた。
お母さんはカウンター越しに食器洗いをしながら俺とテレビを交互に見ていた。
「いい加減、あんた。仕事しないと近所の人にも無職ってバレて恥ずかしいわ」お母さんが真面目な表情で言う。
「別に、関係ない。俺は歌手になるのが昔からの夢なんだから。カラオケが俺の仕事。お母さん今日もカラオケ代金貰って良い?」
「カラオケでまた動画撮るのかい?」
「うん。ネットにアップしてるから俺、結構有名人。お母さんも行こうよ。今日暇でしょ?」
「うーん。でもお母さん今日パートの後、買い物があるから。行かない」お母さんは財布から千円出して俺に手渡す。
「手伝うよ買い物」俺はそう言うとお母さんは「結構です」と答えた。
俺は朝食を終えて、ソファで横になり鼻歌を歌いながら、スマホを手に取り音楽のプレイリストを眺めていた。
しばらくして「行ってきまーす」とお母さんの声が玄関から響く。
俺は「行ってらっしゃーい」と声をかけた。
家には俺一人。孤独感が押し寄せる。
俺にはインターネットの世界が全てか。
リアルな世界の幸せは?
誰かに愛されたり好きになったりして結婚して子供を作って家庭を持ったり。
現実は。30歳。無職。独身。
歌手になる夢は叶う?幸せは来る?
現実を見よう。
カラオケ動画をアップしているドリーマーというサイトのチャンネル登録者は1500人くらい。
たまにコメントが来ると思えば、半分ふざけた奴等の嫌がらせのコメントだけだ。
キモイ?消えろ?とか。
それらはアンチらしいが、この世には変なストーカーがいるらしい。
正直、屋外が怖い。
そう言えば、東京の芸能事務所のエンターテイメント新人発掘オーディションに応募した。特技なら何でも良いらしく、俺はカラオケを披露する。その事務所は有名人が多数在籍している。親に教えたら詐欺だからやめろと言われたが親は最初からネットの事を信用していないから仕方ないというか気持ちは分かる。とにかく今週末の金曜日だからカラオケの練習をしないといけない。
再度チェックする為にオーディションサイトを開く。
広告で載っている「闇の番人・ポルターガイスト・リターン」という映画が気になる。
詳細を見ることにした。
携帯をいじっていたその瞬間だった。家の一階からラップ音が何度も聞こえた。またか?俺は携帯をテーブルに置いて急いで廊下まで見に行った。誰もいない。家で一人の時よくラップ音が鳴る。
やはり俺は霊感が強いのか、嫌な夢を見るし、この家が心霊的にヤバいのかは分からない。
気にしていても仕方ないか。
家の事はさておき「闇の番人・ポルターガイスト・リターン」という映画は、オンラインでも見れるみたいだ。スマホで有料で見る事にした。
映像には闇の景色。拘束された人間が必死に抵抗している。闇の番人が口を開く。
「経歴を見た限り、無職ニート歴10年か。お前は不労所得を得ている最低なクズだ」俺は画面を一時停止した。待て…。
聞いた事がある台詞だ。夢の中に出てきた変な番人じゃないか。どういう事!?
この拘束されている人間は誰?
もう一度映像を再生した。
「それに加え、お前はSNSで自信の汚い顔を晒している」
すると拘束された人間が必死に言い返す。
「削除しました!許して」
「そしてマザコン罪、ファザコン罪のお前は家庭を壊す可能性から独房に入る必要がある。よって求刑は懲役…」
拘束された人間の顔は見えない。誰なんだ?
弁護士が口を開く。
「彼は、ドリーマーというサイトにカラオケの動画をアップロードして登録しているファンもいます。」
裁判官が手を差し伸べてこう言った。
「続きの話を聞きましょう」
弁護士が言う。「彼はこれから東京でエンターテイメント新人発掘オーディションを控えています。人間として価値があるかどうか試してはいかがでしょう?芸能事務所に採用されれば、懲役を執行猶予にすべきです」
闇の番人が口を開く。「宜しい!芸能オーディションの結果を待とうか。合格すれば、無職ニート罪とマザコン罪の執行を猶予する。落選すれば懲役刑が望ましい」
裁判官は納得した面持ちで話す。
「それではオーディションの結果を待つという事で異論はありませんね?カラオケのドリーマーというサイトのファンがいる事も考慮しましょう。裁判はこれにて一旦終了します」
映像には、「To Be Continue 続く」とテロップが出て画面は真っ暗になり消えた。
何だ、この映画。くだらねぇ。金が損した。こんな映像垂れ流しているサイト運営してるオーディションの事務所ヤバいな。俺の個人情報をネタにしてやがる。ストーカーは実在するな。おかしいと思った。カラオケの後、ドリーマーというサイトに動画をアップしてきたが、日常的に誰かに見られ監視されている感じがエスカレートしていた。
ファンを名乗るおっさんが、カラオケルームに乗り込み喧嘩を売ってきたり、怪しい奴が増えた気がする。俺一人の被害ではないだろう。現にこういう映画?ヤバい映像を発信してる人間がいる。俺の夢で見た映像を知っている奴がこの世にいるだけで恐ろしい。
(待てよ)
これは天からのサインというやつか?
俺がオーディションで合格しないと本当にリアルで俺がヤバい事になるとか。
実際マザコンなのは本当だ。
命の危機を感じてきた。警察が介入する次元じゃない。助かる方法はオーディションに合格する事だ。
カラオケに命をかけるしかない。
練習だ。早くしないと間に合わない。
裁判官は、ドリーマーというサイトのファンも考慮すると言っていた。
ドリーマーにカラオケをアップして自分を売り出す活動に力を入れよう。
俺は急いでメイクを始めた。ヘアセットは美容室に任せる為、メイクが終わった後に美容室に電話して予約を入れた。
直ぐに家を出る事にした。美容室までは田舎の町だからバスで行く。
バス停まで5分くらい歩いた。
古く汚くなったバス停の時刻を見ていた。もう来そうだが、中々来ない。しばらく待っていると雨が降り出した。雨宿りしている婆さんが椅子を占領していて憤りを感じる。
メイクが落ちてくる。
バスが10分も遅延している。椅子に座っている婆さんが「中々来ないね〜」と呟く。
しばらくすると、遠くから車が来るのが見えた。近くに来てタクシーだと分かった。
美容室まで時間が無いので、手を上げた。
タクシーは止まりドアが開く。直ぐに乗り込み、行き先を運転手に告げた。
「助かりました」俺は濡れた髪を手で拭いながら言った。
「雨、酷いですね」
「あ~そうですね」
「バスを待っていたんですけど遅延してるみたいで」
「そうですか」
「因みに街中までお仕事ですか?」
「いや。美容室に行くんです」
「まぁこの辺じゃ…遠いですからね」
「窓、開けても良いですか」
「はい。どうぞ」
「ここからだと結構遠いですから、歩きじゃ厳しいですよ」
「そうですよね。車ないと大変だと思いますよ」
「えぇ。こんな田舎にタクシーは珍しいから助かりました」
「いや。私もバス停に人が一人いるなって思って珍しいなと思ったんですよ」
「バス停ですよね?もう一人お婆さんがいましたよ」と俺は半笑いで答えた。
「えっ?お婆さん?お客さん一人しか見てないですけどね〜」
「いやいや。怖い事言わないでくださいよ。お婆さんが、バスは中々来ないねと言って雨宿りしながら座ってましたから」
「まぁ、私の錯覚かな〜不思議な事もあるんですね」
この時からである。俺は人が見てないもの、見えないものを見ている、見えるという事。婆さんが雨宿りしているというどうでも良い風景だが、気付かされた。オーディションサイトの広告の「闇の番人・ポルターガイスト・リターン」という映画と同じ映像を俺が夢で見ているのは、おそらくテレパシーや心霊体験のようなものだろう。とにかく俺には霊能力があるみたいだ。
しばらく目を瞑って居眠りしていた。
街中に入った頃である。タクシーは人ごみと渋滞に巻き込まれた。お祭りがやっているらしい。
「お祭りですか?」と俺は言って目を覚ました。
「そうですね。困ったな〜」
神輿を担いだ人達が行列を作り、道路は祭りの見物者で溢れ返り歩行者天国が出来て車の通る道路は渋滞している。
「降りた方が早いんで、停めやすい所で降ろしてください」
「ここでも良いですか?」
「ありがとうございました」と言ってタクシーを降りた。
俺は歩行者天国の祭りの人ごみに紛れて行った。確か美容室はここから15分歩けば着くだろう。それにしても祭の神輿担いでいるふんどしの男達は圧巻だなぁ。
人ごみは苦手だ。さっきから肩をぶつけてくる輩にイライラしていた。必死に歩く事15分。美容室に辿り着いた。
店に入り受付を済ませ、すぐに案内された。
「いつものトップを盛る感じでお願いします」と美容師に告げた。
シャンプーから始まり、しばらく雑誌を読んでいたらヘアセットは終わった。店から出て、しばらく歩きカラオケ屋に入って会員カードを店員に渡した。
部屋に直行して照明を調節する。スマホのカメラの映り具合をチェックする。準備万端でマイクを取った瞬間…場面が状況が一変した。
俺は光が眩しくて目が眩んだ。
「ここは…どこだ?」
観客席が見えてきた。俺はステージにいるようだ。
司会者が突然現れる。
「エンターテイメント新人発掘オーディションも最後となりました。エントリーNo.108、佐々木透様。カラオケを披露という事で、今のお気持ちは?」
俺は動揺して気分が高まっていた。そしてマイクを握る。
「練習の成果を出し切ります」
観客席にはお父さんとお母さんの姿が見えた。「頑張れ!」と親が手を振っている。
「お父様お母様に一言。透様」と司会者が言った。
「親孝行したいです」
司会者「では、どうぞ!」と言うとカラオケの演奏がスピーカーから流れ出した。
マイクを口元に持っていく。
歌が始まり、俺は歌い出した。観客席の反応が分かる。リズムに乗ってくる。演奏の迫力に声が追いつかない。まずい。歌詞を忘れた。
誤魔化そう。振り付けや細かいダンスだ。
また歌詞を間違える。観客が笑っている。クソ。よく見ると「ドリーマーのゴミクズ」という旗を持った(輩)ヤカラが最前列で中指を立てている。戸惑うな。と歌に集中しようとしても集中力が途絶えてしまった。演奏が終わっていくのが分かりマイクを下に下ろしてポーズを決めていた。
拍手が聞こえる。
司会者が近寄ってくる。
「ありがとうございましたNo.108佐々木透様でした!」
俺は控室に入った。周りは厳つい(輩)ヤカラが着替えていて汗くさい。突然一人の輩が詰め寄ってきた。
「透君だよね。いつもドリーマー見ている。握手してよ」
俺は「どうも」と言って、手を差し出した。直ぐに手をパチンと叩かれ周りから笑い声が聞こえ恥をかいた。白けた空気の中、控室にいる輩がニヤニヤしている。
スタッフによる呼び出しが来て、応募者全員がステージに出て行く事になった。
俺もステージで合格発表を待っていた。
審査員がジャッジしていた。
司会者が「エンターテイメント新人発掘オーディション、合格者はエントリーNo.8エリン様とエントリーNo.27の草雑巾様です!皆さん拍手をお願い致します!」
観客席はスタンディングオベーションになった。
突然、プツン。と光が消えて真っ暗闇になった。
しばらくして光が徐々に見え始め目が覚めた。俺はカラオケ屋の部屋に一人で呆然としていた。
静まり返ると屋外からパトカーのサイレンが聞こえた。
どうなっているのだろう?夢を見ていた?それはおかしい。カラオケ屋で寝るわけがない。意識障害?そんな馬鹿な。
俺はソファに腰を下ろしマイクを置いた。その瞬間だった。突然、部屋のドアが開けられた。警官が複数入って来た。
「何ですか!」と俺は立ち上がる。
警官が4人。「午前11時35分。マザコン、ファザコン罪、無職ニート罪で逮捕します」
俺は呆れて「何言ってんだ!」と言ったが手錠をされてしまった。
「ちょっと待て!」と俺は怒り狂った。
「お兄さん、公務執行妨害になりますよ。落ち着いて」
そして俺はパトカーに乗った。
しばらくして警察署に着くと記者がいた。嘘だろうと思ったがカメラのシャッターを切っていた。
俺の顔を隠すように警官がジャンパーを俺に被せる。
刑事課に入るとさっそく担当の刑事が席に着く。
「貴方には黙秘権がある。水が飲みたければ言って。トイレも言って下さい。全て録音、録画しています」
俺は手錠をされた状態で狭い個室にいた。
やがて取り調べが始まった。
刑事がパソコンを操作しながら俺の顔を伺う。
「貴方は憲法で国民の義務である勤労の義務を怠っている事で刑事告訴されました。刑事事件として既に起訴されている。裁判所の令状である起訴状はこれです」
刑事が起訴状を俺に見せた。
「無職ニート罪」
「マザコン、ファザコン罪」と書かれていた。
俺は呆然と見ていた。
頭の中は空っぽになっていた。
闇の番人は実在するのだろうか?オーディション落選したせいで捕まったのか?
今日はお父さんと靴下を買いに行く約束をしていた。そうだ。お父さんに助けてもらおう。
俺は刑事に向かってこう言った。
「刑事さん。お父さんに電話して。今日は家に帰りたい。まさか独房に入るわけないよね?」
刑事がパソコンをいじる。
「身元引受人はお父さんで良いのだね?」
「そう!」
俺は駄々こねた。
刑事は「分かりました」と笑顔だった。
「先ずは、調書を作ります。貴方はドリーマーの会員ですよね?」
「何で知っているの?ドリーマーは何者だ!?」と俺はパニックになり大きな声を出してしまった。
刑事は冷静に説明する。
「ドリーマーという会社は表向きは動画配信サービスだが。簡単に言うとドリームという深夜の夢を意味している。コンピューターの電波を人の脳にリンクさせて監視し情報を得ている。闇の業務だ」
「要するにドリーマーという会社が、俺の個人情報である無職ニートという事を政府に教えたの?」
「そういう事」
刑事はパソコンを見ている。
俺は水を飲んでいた。
「そういえば、ドリーマーという会社に闇の番人という変な奴がいるはずだ。あいつが勝手に人に罪を着せて牢獄に入れようとしてるんだ!逆に被害届を出したい」と俺は強気になった。
「闇の番人ね。夢の番人とも呼ばれている超能力者か。彼は検察官で、権力者だ」と刑事は言った。
「そ…そんな!超能力者まで関わっているんですか!?検察官って、あいつが!?」俺は泣きそうになった。
(待て。弁護士は?)
「刑事さん、弁護士を呼んでください」
「はい。既に担当の弁護士は控えています。帰りに会えるよ」
「そうなの?因みに、マザコン罪って何ですか!?」と俺はテーブルに手を強く置いた。
「マザコン罪は、政府が作った法律だよ」と刑事。
「何が罪なの?」と俺はイラつきながら言う。
刑事は冷静に答える。「少子化対策で国民に自立してもらう事に違反している罪」
「そんな…」
狂っている。この国は。少子化対策?で逮捕?無職が憲法違反?勤労の義務を果たさなければ起訴?そんな馬鹿な。
しばらく取り調べが続いた。
そして夜8時になって保釈された。
待っていたのは、両親と弁護士だった。
俺は泣いていた。
「お父さん!お母さん!ごめんなさい」
「大丈夫だ。透。弁護士さんがいる」
「宜しくお願いします!」俺と両親は弁護士に頭を下げた。
「大丈夫ですよ。話は車でしましょう」
4人で車に乗って警察署を後にした。
後部座席で弁護士が余裕の態度で喋る「刑事は何て言ってた?透君」
「刑事告訴されました。勤労の義務を怠っている無職ニート罪とマザコン、ファザコン罪で起訴されたって」
「お父さんから聞いているけど動画配信サービスに自分のカラオケをアップロードしてるとか?」
「そうです」
「立派な仕事じゃない?透君。無職ニートじゃないよ。そこは有利なポイントだよ。原告は、ネットの動画配信サービスを嫌っているんだと思う」
「裁判まで一ヶ月あるから、反省の色を示す事が重要だよ。自立してまた歌の仕事をしっかりやる事」
「透。マザコン、ファザコンじゃない事を証人のお父さんが裁判で話す!だから仕事をしなさい」
「お母さんは普通のバイトをして欲しいな」
俺は「無理だよ。もうカラオケも辞めたい」と言った。
「弁護士さん。動画配信の会社、ドリーマーは闇の組織だって刑事さんが言っていて、人の脳に電波をリンクして情報を得ているらしいよ」
「なるほど。ドリーマー?聞いた事あるから、調べてみる。反社会勢力かもね。それなら話が別だ。そのサイトで動画配信は危険だよ、透君」
俺は焦って言った。
「ドリーマーにいる権力者の闇の番人が検察官で、国を操っている。俺に嫉妬している芸能関係者やアンチが多いから芸能オーディションに落選した。要するにドリーマーに動画をアップロードしていたせいで国や芸能から恨みを買われていたんだ。最近嫌がらせのストーカー被害に遭っている」
弁護士が俺を見て言う。「大丈夫。お父さんお母さんと弁護士の私が守る」
突然、煽り運転の車が現れて後方から接近してきた。
「ほら!お父さんお母さん、ストーカーだよ。後ろの車、尾行していたもん!さっきから」
「煽っているな、後ろ」とお父さんが気を引き締めている。
一時停止して、安全を確保した。
後ろにいた車も止まりドアが開いて男が出て来た。
うわっ。輩(ヤカラ)だ。というかチンピラじゃないか。運転席をノックしてきた。お父さんが窓を開けた。
「お前、邪魔くせーんだよ!」とドアを叩いている。
「そっちが煽ってるんだろ」とお父さんが強気に言うとまたドアを叩いている。「降りろこの野郎」とチンピラが切れている。
俺の方を見て笑い出した。
「お前、ドリーマーにアップしてる透だろ?ハハハ気持ち悪い」
お父さんは、車を急発進させてその場を去った。
「もう後ろ来てないね」とお母さんは安心していた。
「本当に透のストーカーいるんだな」とお父さんが言った。
「とにかく透君。ドリーマーの動画は辞めなさい。消しなさい。ストーカーの件はよく分かった。普通のアルバイトからでも始めた方が、裁判に有利だ」と弁護士が説得してくるが、俺は何とか逃げる方法を考えていた。
家に帰宅したら、ネットでドリーマーによる被害者のサイトを探して見ていた。どうやら、被害者は相談窓口に問い合わせをしているらしい。俺も相談する事にした。
ドリーマー撲滅キャンペーンという広告をタップした。すると観音様による相談窓口というものがあった。ダイヤルしてみる事にした。
「もしもし」
「はい。もしもし」
おっさんというか、お爺さんが電話に出た。
「はい。こちら観音様じゃ」
「あの〜。ドリーマーの被害者相談窓口ですか?」
「いや。あっ。相談窓口だよ!どうしたんだい?お兄ちゃん!」
「実は、国に刑事告訴されたんです」
「それは、大変じゃ!さて。助けてあげよう。君を。名前は何と申す?」
「佐々木透です」
「透で宜しいな!?先ずは逃げる準備じゃ。相手は国じゃから。遠い島にワシが逃がしてあげよう。その代わり無人島になるかもしれん。手数料は300万円だ。分かったか?」
「そ…そんな。家族はどうなります?」
「家族はこの国、いや。家族も一緒に無人島に逃がすぞ」
「絶対に無理です。断ります。他に方法は?」
「国に何の罪で訴えられたのじゃ?」
「勤労の義務を怠った無職ニート罪です」
「ほぉ。それなら簡単じゃ。ワシの弟子になるか?」
「どのような事をするの?」
「スピリチュアルな修行だな」
絶対怪しい奴だ。
「結構です。どうも」
俺は電話を切った。
馬鹿馬鹿しい奴と話して冷静になってきた。
そしてドリーマーという動画配信サービスのサイトにログインして、自分がアップロードしていた動画を全て削除した。「全てのデータを削除しますか?」と表示された。「はい」をタップした。「アカウントを削除しますか?「はい」をタップした。
最後にドリーマーのアプリを携帯からアンインストールする事にした。
画面に表示が出る。
「ドリーマーをアンインストールしますか?」
「はい」をタップしてアンインストールが完了した。
その日、悪夢は見なかった。
朝が来ていつも通りの日がやってきた。
「お母さん、昨日の警察署の件だけど」
「はい?警察署?何の話?」
「俺が逮捕されて警察署から帰る途中、煽り運転に遭ったじゃん」
「寝ぼけてるのか?透」とお父さんが言う。
「昨日は透とお父さんは靴下買いに行ってたじゃない」とお母さんが言う。
「変な夢でも見たのか?透」とお父さんは言った。
「そ…そうだよね。寝ぼけてた。ごめん。お父さんお母さん、ご飯食べる」
(おかしいぞ。まっ…まさかこれが、心霊体験?)
「今日もカラオケ、行くのかい?」とお母さんは言う。
「あっ!いや実はもう辞めたんだ。カラオケとネット。真面目にバイトでも探そうと思って」
「偉いぞ…透!頑張れ!」とお父さんが励ましてくれた。
「ありがとう。お父さん、お母さん。俺、ネットばかりで、ノイローゼになってた。どうかしていた。これからやり直すよ」
「そうだ。まだ間に合うぞ」とお父さんが笑顔で言う。
俺は、涙を堪えた。
するとお母さんがもらい泣きしていた。
「ホントに透、心配かけないで。今日の夜は何食べたい?」
「お母さんの得意な親子丼かな」
「俺も親子丼食べたいな」と続けてお父さんが言った。
「分かったよ。親子丼ね」とお母さんは笑顔だった。
それからという日々は、もう悪夢を見る事は無くなった。ストーカーもいなくなった。何気ない日々の中、アルバイトをしている。勤労の義務を果たしている。国民として。
実は、自分のスピリチュアルな力が引き寄せたのか神社巡りをしていた。
ある神社の境内にある和菓子の出店でアルバイトを募集していた。直ぐにお願いして今ではしっかり働いている。
好きな女性も出来た。
神社の神職の巫女さんを好きになってしまった。
いつか告白して上手くいく事を神様にお願いしている。
闇の番人は、もうきっと現れないだろう。
ドリーマーは和訳したら夢想家か。
今まで幻想の中にいたけれど、もう目を覚ました。親にも迷惑をかけただろう。今度は自分で働いたお金で好きな彼女を連れてカラオケに行きたい。
自立するまで、それまでお父さんお母さん、待っていてください。神様宜しくお願い致します。
夢想家 ゆわ @dty7612
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます