後日談
後日談 ロコと莉央(1)
ロコ:
【あした!!!!!!!】
アサクラアキト:
【明日だな】
一ノ瀬静乃/えっちゃん:
【明日ですねー】
ロコ:
【集合場所どこにする!?!?!?】
アサクラアキト:
【シエスタでいいんじゃない?】
アサクラアキト:
【もう普通に学校前でもいいけど】
ロコ:
【シエスタにしよう】
ロコ:
【特別感ある】
ライオネル飛鳥馬:
【いらんだろそんなん】
ロコ:
【は???????????】
ロコ:
【いるが???????????】
アサクラアキト:
【藤崎もシエスタでいいか?】
アサクラアキト:
(シエスタ函館のURLを添付)
URARA:
(サムズアップするクマのスタンプ)
アサクラアキト:
(サムズアップするクマのスタンプ)
「ふ、ふふ……。ふふふふ……」
スマホを見ながら加納浩子――ロコは、ニヤケ笑いが止まらなかった。
明日は友達と遊ぶ。そう、友達だ。たぶん彼らのことは、友達と言ってしまって良いだろう。彼らと一緒に、函館の街へ繰り出す。ファミレスでご飯を食べる。カラオケに行く。ラウンドワンにも行こう。それからえぇと……プリクラを撮る……のか? わからん。ロコには陽キャの知識がない。ロコの知識というのは、だいたい10年前か20年前に学生だったおじさんが再出力したものを摂取することによって得ている。
だがまぁ良い。なんだって良い。一緒に遊べればなんでも良い。
だって友達だぞ。何年ぶりだ? まぁ数えるのはやめよう。面白くないし不毛だ。
友達。そう、友達だ。あいつらを友達と呼んでいいんだ。
修学旅行が終わってたびたび集まる機会はあったものの、すぐに期末テストの準備期間に入ってしまったので遊ぶチャンスには恵まれなかった。だがそれも一昨日までの話である。
風呂上がり、一生懸命髪を乾かして、パジャマに着替え、ベッドにダイブ。
「おやすみっ!!」
声を張り上げて布団をかぶる。
相変わらず家族の返事はなかったが、今日はまったく気にならなかった。
だというのに、
「どういうことだ? これは……」
函館本町の複合商業施設シエスタ函館で、ロコは唇を尖らせて立っていた。
小さなリボンやフリルがついたブラウスと、涼しげな素材のプリーツスカート。夏用の薄手のカーディファンを羽織っている。小物は安物だがしっかりした作りのトートバッグだ。気合いを入れすぎて引かれないように、しかし胸を張って会えるように3時間ほど考え抜いたファッションであり、抜かりはない。
彼女の目の前には、莉央がフーセンガムを膨らませながら立っていた。黒に白抜きの筆文字で「しらす」と描かれたクソダサTシャツは鎌倉で買ったものだ。ボトムスはデニムのハーフパンツ。全体的に動きやすさ重視のラフな格好で、靴だってなんの変哲もないスニーカーだが、すらりとしたスタイルのせいで妙にサマになっている。ボディバッグをタスキがけのように背負い、ベルトにはポーチ。あのポーチは修学旅行でも見たやつだ。莉央は筆記用具入れにしている。
ロコは、自分と比べてあまりにも気合の入っていない莉央の服装も、その癖それがカッコよく見えてしまう彼女のスタイルの良さも気に入らなかった。
何より気に入らないのは、
「……なんでボクとおまえの2人きりなんだ?」
「しゃーねーだろ。他の連中は用事ができちまったんだから」
そう、そうなのだ。
暁人は妹が熱を出してしまい(妹がいたの知らなかった)、麗は先日リリースしたアプリの不具合修正に追われ(大変だなぁ)、静乃は急なミーティング(多分口振り的に案件だ)が入ってしまった。
結果として、待ち合わせ場所にはロコと莉央だけが来ている。
あまりもの班――厳密には元あまりもの班だが、その中でロコは莉央のことをはっきりと苦手にしていた。歯に衣着せぬ物言いや、デリカシーのなさ。何より才能に溢れまくってるくせに、それを驕らない態度が鼻につく。ひけらかしてはくるのだが、驕らないのがムカつく。不機嫌でツンケンしてる時のほうがまだ可愛げはあったように思う。
「どうする? 解散すっか?」
にも関わらず、スマホを見ていた莉央がそんなことを言い出した時は、ショックだった。
「はぁ!? な、なんでだよ」
「いや、おまえ、アタシと一緒にいるの嫌だろ」
「うぐっ……」
指摘されて、言葉につまる。なんでデリカシーはないくせにこういうところだけ妙に聡いんだ。
いや、わかってる。理由はわかる。ずっとそういう扱いを受けてきたからだ。自分を忌避する他者の感情を、なんとなーく察知してしまう。クラスで孤立するうちに磨かれた能力だ。そういう意味では、ロコも莉央も似たところはある。
だが、それにしたって、ここで言うことないだろうに。修学旅行では散々馴れ馴れしくしておいて、これはないだろうに。
「し、しない……」
「あ、しねぇの?」
「しないが!?」
そこで意外そうな顔をされたのが、またちょっとムカついた。
「え、嫌いなんじゃねぇの?」
からっとした態度で聞いてくるから、反応に困る。ここで「嫌いだ」と言ったら、こいつは傷つくのか? ちょっと想像できないな。
ロコは少し視線を彷徨わせ、言葉を選ぼうとしてから――結局、素直に本音を喋ることにした。
「嫌いじゃ……ないよ。でも、おまえと一緒にいるとちょっとしんどいんだよ」
「おう」
「でもバイバイしたいわけじゃない。遊ぶって約束しただろ」
「んだよ、めんどくせー奴だな」
そう言って、莉央はにっと笑う。ちょっとホッとしたように見えたのは、まぁ……自分の都合のいい脳内解釈だろうな、きっと。
莉央は独りで生きていけるタイプの人間だ。自分の生き方を曲げないためなら、それまでの人間関係を壊すことも厭わない。そんな人間に見える。ロコには羨ましかったが、そんな強さは望むべくもない。だってそれは強者の生き方だ。生まれながらに強い奴が強さを持っているという、ただそれだけの話なのだ。
「じゃあ、そうと決まれば行こうぜ! ファミレス行って、カラオケ行って、ラウンドワン行って、それからえーと……プリクラ撮るのか? わかんねーけど!」
「ま、待てよおい! っていうかおまえも発想が貧弱だな!?」
上機嫌で歩き始めた莉央の背中を、ロコは慌てて追いかける。
班長! ボク、いまめちゃくちゃ頑張ったよな!? ここに合流して褒めてくれないかな。
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