エピローグ<2>

「天こーん。天使見習い兼天界女子高生の白羽エルナだよ〜」

【天こーん】

【天こん】

【天こん】

「ちょっと遅刻しちゃってごめんね! ツイー……じゃないや。ポストした通り、ちょっと慌ただしくって……」

【ついえら】

【ぽすえら】

【えるーなのペースでいいよー】

「あ、でももう大丈夫だから。はじめてくよ〜」


 修学旅行が終わって最初の配信は、こんな感じで始まった。


 ここ1年ちょっとは高校生をやっている関係で稼働が落ちているため、同接数もやや落ち着き気味だ。それでも、何千人もの人が自分の配信を見にきてくれているのは素直に嬉しい。

 この数字の中に、よく知った顔があることを意識してしまうのではないかと思っていたが、配信用のゲーミングチェアに腰掛けると、そんな気持ちも起こらなかった。初めて配信をしたあの日と同じ、クリックの音ひとつで、理想の自分の鎧を纏う。


 いや、修学旅行はホントに大変だった。大変だったけど、行ってよかったと思う。というか、高校生をやって、青春のやり直しをして、本当によかったと感じたのはこれが初めてだったかもしれない。なんだかんだ、これまでだって学校のイベントは楽しんでいたつもりだったけど。


 この日の配信は、雑談配信だ。個人的には、修学旅行の話をしたくて仕方がない。

 いや、まずいんだけどな。日程の特定ができないように、もうしばらく日をあけてから報告するべきなんだけどな。


 いやいや、やはりここは我慢だ我慢。ぐっとこらえる。


「『えるーなって修学旅行まだなの?』もうすぐだよ。でも具体的にいつ行くかは内緒〜」

【本当に修学旅行なんですか……?】

【何人で行くのか、言え!】

「ひどいな〜。本当に女子高生なんだが〜? ふふ……」


 よし、これで良い感じに誤魔化せるだろう。このムーブをしておいて、まさか本当に女子高生だとは思うまい。(暁人が何も疑っていなかったのにはかなりビビった)


 そこで、ふと思った。あの4人は、この配信をきっと見ているだろう。もしかしたら、ラッキーピエロかびっくりドンキーあたりに集まって同時視聴しているかもしれない。くそ、羨ましいな。私も混ざりたい。

 いや、そうじゃない。


「そう言えば最近、良いことがあってね」

【お】

【ほうほう】

【なに?】

「ずっと私が意地張って仲良くできなかった友達と、の。喧嘩……とかじゃないんだけどね。その子には迷惑かけっぱなしだったからな〜」


 コメント欄には、素直に祝福する者、一歩踏み出したエルナを偉いと褒める者、「てぇてぇ」とだけコメントする者などがいた。


「伝え忘れたから、来週学校で会ったら伝えないとね。仲良くなってくれてありがとう、って」


 そう言って、カメラに微笑みかける。画面の上で、白羽エルナも笑った。





 後日、彼女は函館市内のびっくりドンキー神山店で、友人と共にYoutubeを視聴していた男子高校生が突然気を失い、友人たちに運び出されたというニュースを聞いた。

 気まずさのあまり学校で暁人と顔を合わせることができず、その言葉を伝えるのは一週間ほど遅れてしまうことになった。

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