どんぐり事変《丁》
その公園はその名も「どんぐり公園」といい、広大な敷地の中に数え切れないほどのコナラが植えられている。
いつからか近所の小学生がそのどんぐりを拾い集め、通貨として使い始めた。学校に現金を持ち込むことは禁止されているが、どんぐりならば教師たちに感知されない。宿題の代行、マンガやゲームのレンタル、中古の文房具の買い取りと販売。どんぐり貨幣は様々なサービスのために支払われ、集められ、校内を飛び交った。
どんぐり公園のどんぐりは、子どもたちによってあっという間に拾い尽くされた。別の公園で集めたどんぐりが混入されたが、どんぐり公園のどんぐりには独特の模様があるため、すぐに駆逐された。すると今度は図工の達者な子どもたちが、他所のどんぐりの表面に模様を描き始めた。偽どんぐりの誕生である。
有志によって非公式に構成され、すでに絶大な権力を振るっていた「どんぐり銀行」は、偽どんぐりへの対応に追われた。アルコール洗浄によって偽どんぐりを見分ける方法を周知し、自らも実行すると共に、偽どんぐり造りのメンバー及び活動場所を探った。
そして令和六年十一月某日、どんぐり銀行と偽どんぐり造りグループとの間に、武力衝突が発生した。死者こそ出なかったものの、多数の生徒が負傷する騒ぎとなり、どんぐり貨幣およびそれに伴う諸々の問題は、初めて教師や保護者たちの知るところとなった。
『校内にどんぐりを持ち込んではいけません』
教師たちの口頭による周知のほか、掲示物、おたより、保護者へのメール配信――あらゆる手段をもって、大人たちは小学校からどんぐりを排除した。どんぐり銀行は解体され、どんぐり公園のどんぐりも、それ以外のどんぐりも、平等に専用の回収箱へと集められ、どんぐり公園へ戻された。これを拾うことは固く禁止されたが、どんぐりが通貨としての価値を失った今、あえて拾う児童はいなかった。
食糧不足に嘆いていた秋の虫たちや小動物たちにとって、これは朗報だった。喜びにあふれる彼らがどんぐりを咀嚼する音は、どんぐり公園の敷地内のみならず、近隣の家々にまで届いているという。
私の友人は耳栓を大量に仕入れ、どんぐり公園付近の家々を売り歩いた。それで、少なからぬ儲けを得たとのことである。
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