2日目 質問コーナー

 田舎の朝は早い。

 僕は早朝に起きてばあちゃんの畑の手伝いをして朝食を食べるが、朝から疲れて畳で寝転んでいた。

「あの~かーなーたーさん!」

「ん、どうした?」

「どうした?じゃないですよ。私のために何かしてくれるんじゃないんですか?」

 そうだ疲れたからと言って畳で寝ている場合じゃない、この子には時間が無いんだ。

「悪かった。でもやりたいことなんていきなり見つからないし、まずは君のことを知ることから始めようと思う」

「えっそれって...///」

「そうだ、お互いを知るための質問コーナーをする」

「………」

 あれ、何か気に触ることしたかな。反応がいまいちだ。

「そうですか。わかりました、やりましょう」

「お、おう」

 何か微妙な空気で始まってしまったな。もっと楽しくやりたかったのにな。

「結局ゆかりはどこまでの記憶を把握できているんだ?」

「そーですね、小学校5年生までの記憶はあるのですが6年生の時の夏あたりから思い出そうとすると頭痛が出るって感じです」

 なるほど、つまり記憶はすべて失っている訳ではなく部分的に失っているのか。それに加え6年生の夏から記憶がないということはその時に何かがあったってことか。

「じゃあ簡単な質問から」

「はい!なんでしょう!」

「ずばり好きな人の特徴は?」

「……」

 あ、初手でやらかしたかも。これ絶対怒ってるやつだ。

「あの、真面目にやる気あるんですか?」

「ごめんなさい」

 しばらく沈黙が続いた後、質問を再開した。

「改めまして、好きな食べ物は?」

「面白みのない質問ですね」

「し、仕方ないだろ。これくらいしか思い浮かばなかったんだから」

「そですねー、やっぱり焼き鮭ですね」

 ちょっと待て渋すぎないか。普通このくらいの年の子だとオムライスとかハンバーグとかじゃないのか。

「あの塩加減にパサついた食感の身、ご飯と食べても美味しいしお茶漬けに入れても美味しい。あとムニエルなんかも捨てがたいですね」

「お、おおそうか」

「かなたさんは何が好きなんですか」

「僕はそうだな……」

 昔からほとんど母さんも父さんも家にいなかったし食事は作り置きを独りで食べる生活が続いていたっけ。今ではもう慣れてしまったが。

「ずっと独りだったから誰かと一緒に食べれれば何でも美味しいと思うよ」

「そうなんですね」

 一瞬彼女の僕を見つめる瞳が優しくなった気がする。気のせいかもしれないが。

「じゃあ続いて次の質問。趣味はなに?」

「趣味ですか。うーん」

 おや随分と悩んでらっしゃる。

「すみませんあまりこれといったものがないです」

「そうか、思いつかないなら別に構わない」

「優しいんですね」

「そうかな普通だと思うけど」

 そうこうしているうちに気が付けばお昼の時間だ。確かばあちゃんがおにぎり作ってくれてたっけ。でもあの人よく散歩に行くから一緒に食べれないんだよな。

「おっ、噂をすればさっそく鮭おにぎりだ」

「本当ですか!?私も食べたいです!」

 そう言うとゆかりは膝の上に座る。誰も見てないとはいえやっぱ少し恥ずかしい。でもゆかりが僕を通じて好物が食べられるのならこれくらいなんて事はない。

「んーー美味しいです!」

「確かに旨いな」

 昨日までお昼は学校の購買で買ったものをてきとうな場所で食う生活だったが、やっぱ誰かと食べるのってこんなにも違うのか。それともゆかりと食べるから美味しく感じるのか。いずれにせよ美味しい。

「ふーごちそうさまでした!」

「ごちそうさま。なあ、この後さ駄菓子屋行ってみないか」

「駄菓子屋!?やったー!」

 こういうところを見るとやっぱり子どもなんだなって思う。

「こっからだと少し時間がかかりそうだな」

「私は大丈夫ですので速くいきましょう!」

「はいはい」


 しばらくして駄菓子屋に着いたがしかし店内には誰もいない。

「だ~れもいませんね、いつもこんななんですか?」

「いや僕も初めてだからな」

 田舎の駄菓子屋ってこんなものなのだろうか。都会では店の鍵を開けたまま留守にするなんてありえないし普通ではない。

「すみませーん!誰かいますかー?」

 返事がない。と思ったその時声がしたのは店の奥ではなく反対側の入り口からだった。黒髪に麦わら帽子を被った白いワンピースの少女。年は中学生くらいだろうかゆかりより少し年上っぽい。

「お兄さんここら辺の人じゃないよね?」

「僕は神谷奏汰、夏休みの間だけばあちゃんの家にお世話になることになって、家にいても退屈なんで駄菓子屋にきたんだけど誰もいなくてさ」

「ふーん、じゃあさ隣の女の子は?」

 嘘だろ、ゆかりが見えているのか。でも全く驚く様子もないからたぶん普通の人と同じように視認しているのか。

「私はゆかりです。えーと訳あって今は幽霊やってます」

「えっあなた幽霊なの!?」

「はい、そうです」

「私の名前は夏目唯菜って言うんだ。しかしにわかに信じがたいけど、本当にいるんだ」

「なあ話に割り込むがここの店主はいないのか?」

「あーそれね、ごめんなさい今日は私が店番任されてたの。でもあまりに暇だったもので少しお散歩に」

「そうだったんだな、よかったなゆかりこれでお菓子買えるぞ」

「ちなみに今はかき氷がオススメだよ!」

 なるほどかき氷か、ここまで来るのにだいぶ歩いたし冷たいかき氷はさぞかしうまいだろう。

「じゃあかき氷を一つ頼む」

「オッケー、じゃあ100万円」

「は?田舎のかき氷ってそんなにすんのか!?」

「うん、そうだよ」

「うわ、マジかよ持ってないなそんなお金」

「かなたさんこれジョークってやつですよ」

「え、そうなの?」

「あはは、お兄さん面白いね100円だよ」

 ゆかりの前で恥を晒してしまった。許すまじこの少女。

「シロップは?」

「メロンがいい」

「まぁ聞いたところで味は全部一緒なんだけどね」

「マジで?」

「うん」

 今までずっと違うものだと信じていたのに。同じだったんだなおまえたち。しかしゆかりが先ほどからずっと唯菜が氷を削る様子を凝視している。連れてきて良かったな同年代くらいの子とも仲良くなれそうだし。

「はい、できたよ」

「おお100円の割に随分と山盛りだな」

「ちょっとサービスしちゃった」

「かなたさん!かなたさん!解ける前に食べましょ!」

 そう言うとゆかりは膝の上に座る。

「ふふ、仲良いんだ二人とも」

「いや、違うんだこれはゆかりが僕を通して味を感じれるだけであって別にそういうのじゃ…」

「かなたさん酷いです。私のことそんな風に思っていたなんて!」

「誤解だ!ゆかりのことは大事に思ってるから」

「…っ!///」

「あれれ~?二人とも顔真っ赤だよお?」

 このマセガキ覚えておけ、そのうち絶対に何かやり返してやる。

 そうこうしながらかき氷を食べ終わり、てきとうに選んだ駄菓子をつまみながら駄弁っていたら夕方になっていた。

「じゃあそろそろ帰るか、なあゆか…って寝てるのか」

「幸せそうに寝ちゃってるね」

「仕方ないおぶって帰るか」

「じゃあな唯菜、また来る。それと、これからもゆかりと仲良くしてやってほしい」

「うんわかった、いつでもおいで!お兄さんもゆかりちゃんと仲良くね」

「はいはい」

 彼女は手を振って送ってくれた。にしてもこうして誰かと遊ぶのは久しぶりだな小学生以来だろうか。

「ん、か、、たさん」

「全くほんと幸せそうに寝てるな。どんな夢見ているんだか」

 家に帰るとゆかりを布団に寝かせ夕飯を食べて風呂に入る。

「今日も楽しい一日だったな」

 湯船に浸かっていると扉がガラガラと開いてゆかりが入ってきた。

「あの、かなたさんお背中流しましょうか?」

「待て待て。な、何で?」

「ち、違うんです!これは唯菜さんにこうするとかなたさんが喜んでくれると聞いたので」

 流石に小学生の女の子に背中を洗わすなんてまずいだろしかも裸だし。しかし親切心でやってくれてるだろうから断るのも申し訳ないのでやってもらった。

「男の人の背中って大きいんですね。なんだかぎゅってしたくなります。かなたさんは私のことどう思ってますか」

「どうって、優しいし大人っぽいところもあるかと思いきや意外と子どもみたいな一面もあってそのギャップが可愛いかな」

「自分で聞いておいて恥ずかしいです」

「ちょっ、洗う力強いって!痛い」

「ああ!ごめんなさい!」


 そんなこんなでまた一日が終わっていく。あれ時間ってこんなにとあっという間に過ぎるものだったっけか。違う今まで停滞していたんだ、同じ日々の繰り返しに同じ学校へ毎日通いぼっちで特に何の楽しみもなく。時間は過ぎているはずなのにその流れを感じることはない。そう考えると今回きっかけは何にしろここに来てよかったと思う。ゆかりにも会えたし唯菜もいる。さあ明日は何をしようか。

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ある夏の日、僕は一生の思い出に出会う のななの @nonanano

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