ある夏の日、僕は一生の思い出に出会う
のななの
初日 出会い
夏休み、それは学生に許された1ヶ月の猶予である。だがしかし遊ぶ友達もいない僕は毎年その1ヶ月を怠惰に過ごす。
「今年もこの時期が来たか」
そう思いながら重い荷を背負って帰路につく。
「毎年来るけどどうせ課題ばっかだし要らないんだよな、夏休み」
そう独りで呟くが言葉を返してくれる者もいないので自然とその言葉は大衆の会話に溶けていく。周りでは夏休みに遊ぶ約束をする者もいれば、帰ってすることでもあるのか足早に帰宅する者もいる。
「ただいま、って誰もいないよな」
帰ってきたものの親はどちらも帰りが遅く僕の声は木霊する。
「あれ、母さんからメール来てる」
『明日からの夏休み、おばあちゃんの家に厄介になることになったから地図送るね。母さんたちは仕事で忙しいから構ってあげられなくてごめんだけど一人で大丈夫よね高校生だし。夏休み最後の日に迎えに行くから』
とりあえず既読をつけて返信するがばあちゃんの家なんて何年ぶりだろうか。小さいとき以来かな。
「でもばあちゃん家何もないんだよな」
そうは言っても話はついているのだろうし別に断る気もなかった。
翌日、母の車に乗せられながらぼーっと窓の外の景色を眺める。しかしある所までくると周りには畑と田んぼしかない。一応ちょっとした買い物ができる場所や駄菓子屋はありそうだが街で見かけるコンビニの類のものは見当たらない。
「はい、着いたよ。それじゃ夏休みの終わりごろに迎えに来るから。あまり迷惑かけるんじゃないよ」
「うん、わかってるって。じゃあね」
まったく何歳だと思われているんだ僕は。
そう思いながらしばらく歩くと一軒の家が見えた。
「あんなデカかったっけ。あ、ばあちゃんだ」
「おお、よく来たねぇ。えーと」
「あ、神谷奏汰です」
「ん?かみや何だって?」
「かなただよ。神谷奏汰」
「あぁ、そうそう奏汰ねぇ。しっかし大きくなったもんだ」
「今日から夏休みの間お世話になります」
「最近の子は礼儀正しいねぇ、私の若い頃なんて…」
話が長くなりそうだったのでてきとうに相槌をする。
「まぁ早く上がって。部屋は奥のを自由にしていいからねぇ。子どもは外で遊んできなぁでも、ご飯には帰っておいで」
「うん、じゃあ荷物置いたら遊んでくる」
早くこの荷物を下ろしたい。しかし部屋は思ったより汚い。たぶん長いこと掃除されていなかったのだろう。
「これは掃除だけで今日が終わりそうだな」
そう思いながら掃除しているがあまりにもものが多い。中には若い頃の趣味だったのだろうか日本人形もちらほらあった。怖いけどよく見るとなんかちょっと可愛いかも。
「やっと終わった。案外すぐ終わったけど疲れたぁ」
掃除が終わり疲れてはいるが家の周りに何があるのか気になる。
「少し見て回ろうかな」
身体は大きくなったが心はまだ子どものようなものでこういう所に来ると変に探究心が掻き立てられる。
「さて、こういう時は森に行くと相場が決まっているからな」
外に出て森に入るが案外すぐに抜けた。
「ん?何だあれ?」
森を抜けると古い井戸が見えた。が、何か黒い影が動いているのが見える。
「いや待て、まさか幽霊じゃないだろうな」
恐怖で足が震えるが好奇心に抗えずそのまま進んだ。
「だ、、けて」
「だ、、、、、れ、、、、た、、、、けて」
声が聞こえるが上手く聞き取れない。しかし腕が伸びてきてこちらを引きずり込もうとしてきているのが分かった途端震える足は限界を迎えたのかピクリとも動かず尻餅をついた。
「まずい、早く逃げなくちゃ。くっそこっちに来るな!」
とうとう腕だけではなく長い髪も見えてきたが顔は隠れていて見えない。映画だとこの後長い髪の女に襲われるんだっけか。
「来るな!来るなよ!」
抵抗を試みるが肩を掴まれた。爪が肩に少し食い込んだ。痛い死んだかもなこれ。
「だ、ㇾ、か、タス、、ヶテ」
助けて?この女は助けを求めているのか。
「なあ、君は誰だ?名前は何て言うんだ」
「ワタシ、、、名、、、まえ」
「悪い君を脅かすつもりは無かったんだ。安心してくれ」
「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
まずい身体が重い、これやばいかも。
「だ、だい、じょうぶだ僕が付いている」
そう言って抱き寄せてなだめると落ち着いたのか動かない。
「あれ、身体が軽くなった?ひとまず事態はおさまったのか。て、なんでこんな女の子抱いているんだ!」
さっきまでの悍ましい気は失せたのか。しかし亡霊がいつの間にか可愛い女の子に。しかも小学生くらいの幼女でこのままだと世間的にまずい。
「うっ、んー?」
やばい目を覚ました。でも地面に直接寝かせる訳にもいかない。
「っ!なんで私知らないお兄さんの胸の中に!」
あー終わった詰んだわこれ。
「ご、ごめん!でも急に君が襲ってきたから」
「う、嘘です!この変態!」
「だから誤解だって。井戸にいた君に襲われて、助けを求めていたからこうするしかなかったんだよ」
「ふーん、どうだか。でも、あ、ありがとうございますです」
ひとまず誤解は解けたのかなとそっと胸を撫でおろす。
「ところであなたは誰なんですか」
「僕は神谷奏汰」
「へぇかなたさんですか」
「君は?」
「私は、えーと何でしたっけ名前」
いや聞かれても困るんだけど。
「ひとまずゆかりと呼んでください」
「は?名乗らせてそれありかよ」
「しょうがないじゃないですか!覚えていないし」
「何も思い出せないのか?」
「うーん、ゔっあああああ」
「おいどうしたんだよ」
何故急に額から血が!?まずい止まりそうにない。
「落ち着け!無理に思い出すな」
そう言って頭を抱き寄せる。どうやら彼女は記憶を失っているらしい。おまけに思い出そうとすると額から血が出てくる。何か記憶と関係があるのだろうか。
「すみません取り乱してしまって。それにお洋服も」
「いや別にこの程度気にするな。落ち着いたようでよかった」
彼女はこほんと咳払いすると本題に入った。
「私は幽霊な訳なんですが残りあと一か月しか現世にとどまれません。しかもそれを越えると怨霊となり周りに危険をもたらします。ですからお願いです、今すぐ私を殺してください」
何を言っているんだ。
「ちょっと待て、殺すって言ったって方法が分からない。それにまだ一か月もあるんだろ?何か他の方法でも…」
「駄目なんです。それでは遅くなって手遅れになってしまいます。ですから早く!」
いや何か方法はあるはずだ。殺す以外の、そうだ。
「だったらさやりたいこと、やり残したことを見つけて満足すれば成仏できるだろ。
それじゃ駄目なのか?僕は君を殺したくなんてないしできない」
「ず、ずるいです。そんな頼み方されたら断れないじゃないですか。でも具体的に何をするんですか?」
「それは――――――――――――――これから考える」
「何も考えてないんですか!?」
仕方ないだろ勢いで言ったんだし。
「まあとりあえず時間はあるんだしさ、もう夕飯の時間だし家に帰るよ」
「ぶー、じゃあ憑いていきます」
「えぇ?何でさ」
「あなたといれば何か見つかるかもだしぃ。それに独りじゃさb」
「なんか言ったか?」
「うるさいです!とにかく憑いてきます!」
ばあちゃんに何て説明しようか。あ、幽霊だし見えないか。
「ただいまー」
家に帰ると夕飯のいい匂いに加え、ばあちゃんが出迎えてくれた。
「おお帰ったか、それじゃ飯にしようかねぇ」
どうやら彼女のことは見えていないらしい。にしても帰った時に誰かが迎えてくれるというのは久しぶりだな。
「いただきます」
誰かと食べるご飯はこんなにも美味しかったのか。でも、隣でヨダレを垂らしながら見ているゆかりが気になってしょうがない。
「なぁ、ゆかりはご飯を味わえたりするのか?」
小声で聞いてみた。
「できますけど、やっていいんですか?」
「別に構わんが」
「では、失礼します」
そう言うと彼女は宙に浮いて膝に座ってきた。
「ちょっ何してんだ」
「こうするとかなたさんを感じれるのでお気になさらず食事を続けて頂ければ」
何故か嬉しそうな彼女によかったと思いつつも少し恥ずかしい。大丈夫ばあちゃんには見えてはいないはずだ。
「ごちそうさま」
「はい、それじゃあお風呂沸いてるから入って、布団行って寝なぁ」
「うん、わかったありがとう」
で風呂に入って布団までに至った訳だが。
「まさか一緒に寝るのか?」
「勘違いしないでください。他に寝るところもないのでここで寝るだけです」
「いや幽霊は寝なくてもいいんじゃ」
「私がそうしたいからいいんです!」
そう顔を赤らめながら言う彼女は妹のようで可愛い。
「何ニヤニヤしてるんですかこの変態」
「してねぇし早く寝るぞ。明日から色々するんだから」
「本当にできるんですか、成仏なんて」
「わからんけどこのまま何もせずに死ぬのもそれこそ未練で怨霊になりかねない」
自分がこの先どうなるかわからないという不安は分かるがこの年で亡くなったんだ。何かしてあげないとかわいそうじゃないか。
「任せろなんて大口は叩けないけどできる限りのことはしてやりたいと思ってる」
「ありがとうございます。かなたさん」
「それじゃお休み」
「はい、お休みなさい」
こうして僕は幽霊のゆかりと出会ったが、残された時間もそう長くはない。最悪の場合一か月よりも短い可能性だってある。そんな中で僕が彼女にしてあげられることは何だろうか。夏はまだ終わっていないし今はとりあえず関係を築き彼女を知ることから始めよう。
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