第4話 カミングアウト


「おはよう、おにいちゃん」

「……おはよう」


部屋に戻って服を着た俺は、朝の支度をしてリビングに顔を出した。


小唄の機嫌が戻っている。

昨夜、いったい何が起きたのか知りたかった俺は、並んで靴を履いて家を出た。


「俺たちって昨夜ゆうべ何もなかったよな?」

「何もって、何を?」


うっ……。

知らないフリをされると困る。

なので、もう少し踏み込んでみる。


「俺、朝起きたら裸だったんだけど?」


さすがに手錠らしきものを掛けられた状態で自分で裸になるのは不可能。

仮にズボンとパンツはどうにかして脱げたとしても、Tシャツはベッドの上の方で繋がれているんだから、Tシャツを破かない限り脱ぐことはできない。


「それは……」

「啓楽、おはよう!」

「あ、うん、おはよう」


タイミング悪く大葉すずなが先の角から姿を現した。

誰とでも話せるすずなは、いつも登下校の時は友人がまわりにいるが、めずらしく今日は一人だった。


「あれ、血のつながっていない例の義理の妹さん?」

「おはようございます。大葉先輩」

「おはよう……私、名前を名乗ったかしら?」

「いいえ、兄のまわりの人物はこの2日間で調査済みですので!」


おいおい。

なんでそんなことするの?


大葉すずなは、表情を変えることなく、小唄に「ふーん、それで私のことをどこまで知っているの?」と聞き返した。


それに対して小唄は。


「私と似て非なる・・・・・性癖の持ち主だと……」


似て非なる性癖って、どういう意味。

大葉さんは、自分でクラスの学級長に進み出るような真面目な人だぞ?

義理の兄の両手を縛って素っ裸にするようなアブナイ趣味などないはずだ。


「そうなんだ……あっ、私、そこのコンビニで友だちと待ち合わせしてるの」

「あっはい、じゃあまた教室で」


それにしても小唄、結構攻撃的だったな。

これは今後、大葉さんと会わせられないな……。


中途半端な会話で終わってしまったが、学校が近づいてきたため、周囲に生徒が増えてきているため、込み入った話ができない。夕方、家に帰ってからでも話の続きを聞かせてもらうことにした。


体育の授業は体育館で男子はバスケ。女子はバドミントンをしている。

自分のチームの番まで、間仕切りネット側に立っていた俺は強い痛みを覚えた。


「っっ痛ぅぅ~~っ」

「ごめん啓楽、大丈夫?」


バドミントンのシャトルが俺の近くに飛んできたらしく、すずなが拾おうと振り回したラケットが間仕切りネットのすぐそばに立っていた俺の手に当たってしまったようだ。


「先生、啓楽くんを保健室に連れて行きます」

「いやいいよ、自分で行けるから」

「ダメだよ、私がぶつけちゃったんだから」


半ば押し切られるように一緒に保健室に向かったが、保健室の先生は不在で誰もいなかった。


「手を洗ってそこに座って」


救急箱を取り出したすずなは俺の手をそっと持ち上げて、小指からにじみ出ている血をガーゼで押さえる。


「ねえ、啓楽」

「うん?」


ミストタイプの消毒スプレー缶を握ったまま、ふとすずなが俺の名を呼んだ。


「あの子とどこまでシたの?」

「えっえっえっ?」

「はむっ」

「えぇぇ~~~っ!」

「くちゅくちゅ」


俺のまだ血が滲んでいる小指をすずなの口の中に……?


「ほら、血が止まった」


唾液って止血効果が本当にあるのかな? って、そんな悠長なことを考えている暇はない。


「啓楽……私」


上目遣いで俺を見上げるすずな。

左手が俺の右頬をさすり、首に手をまわす。

顔が徐々に近づき、その濡れた唇がやけに生々しい。


「やっぱりこんなことだと思った」

「──っ!? 小唄?」


保健室の扉がいつの間にか開け放たれ、入り口に小唄が立っている。

小唄の冷ややかな視線の先には、すずながいた。


のおにいちゃんに何をしてるの?」

「ふふっ、いいじゃない? ふたりで・・・・シェアしようよ?」

「陽キャ属性のメンヘラとなんて、仲良くできません」

「あら、ヤンデレな子って私は好きよ?」


バチバチに睨み合っているところ悪いけど、俺、なんでこんな状況に陥っているんだろ?


「啓楽は心が広いから私とも色々できるよね?」

「え? それは……」


去年、高校に入学してから、ずっと近くにいたすずな。考えてみると、やけに俺に構っていたような気がしてきた。知らなかった。すずながこんな子だったなんて……。


「おにいちゃんは私だけのモノ。誰にも渡さないから?」

「ふぅ、埒が明かないわね。いいわ、じゃあ、勝負をしましょう」


すずなが一つため息をつき、小唄に挑戦状をたたきつけた。


「学校で啓楽とキスした方が勝ち」


勝負は正々堂々と行い、俺の同意を得てキスした場合のみ勝利となる。


──って、なにを勝手にルールを決めちゃってんの?


「わかりました。おにいちゃんの唇は譲りません」

「ふふふっ。さっき邪魔が入らなかったら奪えてたけど?」


すずなは消毒スプレーで、もう一度きちんと消毒してから、脱脂綿を当てて包帯を巻いてくれた。


自分の気持ちがまだよくわからない。

義妹とクラスの同級生。

どっちかを選ぶなんてできないし、すずなが言うようにどっちとも付き合うなんて、俺のメンタルが健康ではいられない。できれば、穏便に何もなかったことにしたい。


って、ダメかー。ダメだろうなきっと。

俺の高校生活、これからどうなるんだろ?










     ─おしまい─

















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【短編】義妹との甘くてキケンな遊び あ、まん。 @47aman

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