第3話 寝てた?


スマホに入っている画像データを一度、パソコンに取り込んで明るさや色合いを調整して、スマホに戻す。


それから動画編集アプリで著作権に違反しない曲を選び、音当てしながら各画像の尺を決め、最後に文字を入れて適当にエフェクトをかけて完成させた。


時間にして1時間くらいだったが、俺には果てしなく長く感じられた。


「おにいちゃん、この画像とこっちの画像はどっちがいい?」

「その前に胸が当たってるから!」


「おにいちゃん、この部屋なんか暑くない?」

「わかった。冷房をフルにするから、自分の服に手をかけるのはよせ!」


「この引き画、他のお客さんの顔が少しボカシが外れて見えてない?」

「どれ……って、顔が近いって!」


「背中がかゆいかも……おにいちゃん、背中をかいて?」

「え、あ、うん……この辺?」

「あっ……もうちょっと右」

「ここ?」

「ちょっと痛い……おにいちゃん、もっと優しく、ね?」

「こうかな?──って、はい終了!」

「え~~っ、おにいちゃんの、もっとちょーだい?」


あっぶな!

俺の鋼鉄の自制心に惚れ惚れしてしまうよ、まったく。


ようやく動画を作り終えたが、なぜか部屋から出ていく素振りがない。俺のベッドでナチュラルにくつろぎはじめた。


勘弁してくれよ。

こんなシチュエーションで間違いが起きたらどうするつもり?


イタズラしていることはわかっている。

俺をからかって、楽しんでやがる。


だんだんと腹が立ってきたので、ベッドの壁側に背中を預けている小唄に無言で正面から近づき、妹をベッドに押し倒し、体重をかけないよう上に乗る。


「おにい……ちゃん?」


目を大きく見開いて驚いている小唄。

俺は表情を隠して顔を近づけると下敷きになっている義妹は目をぎゅっと閉じた。


「どうだ……怖いだろ? これに懲りたら少しは自重しろよな?」


男はいくら紳士っぽいヤツでも、ホントは下半身で物を考える獣だ。

こんな感じでふざけていたら、いつかきっと痛い目に遭う。


血はつながっていなくても、俺にとって大事な義妹いもうとなんだ。小唄が傷つくところなんて俺は見たくない。


──って、え……ちょっと待って。


顔が赤くなって、目尻には涙が浮いていて、顔がくしゃくしゃになっている。

俺はあわててベッドから離れると、小唄が走って部屋を出て行った。









次の日の朝。俺が起きてリビングに顔を出す頃には、小唄は支度を済ませて、俺の方を見ることなく家を出て行った。


その日は1日中、小唄のことで頭がいっぱいだった。

授業中もうわの空で、休み時間にボーっとしていると親友にスリーパーホールドをかけられた。だが、いつもと違って全然ギブアップしないので、「啓楽、お前の気持ちはよくわかる。俺は大好きだぜ、お前のことが」と勝手に何かを察して、なぐさめの言葉をかけるようになった。


夕方、玄関に子唄の靴があった。

俺より先に家に帰っているのを確認してまっすぐ義妹の部屋をノックした。


「なに?」


部屋のドアを開けることなく中から声だけが響いた。


「昨日はその……ゴメン悪かった」


部屋の中から返事がないまま謝罪の言葉を重ねる。

女の子からしたら、腕力で敵わない男に組み敷かれるなんて、恐怖以外の何物でもない。自分でやっておいてなんだが、とても愚かなことをしたと反省している。


「ちょっとふざけ過ぎたみたいだ」

「そう……」


ようやく返事があった。

一人っ子だったから、兄妹の距離感ってのが、いまいちわかっていなかったが、多少の親しさは必要だってわかった。だから彼女は俺と少しでも距離を縮めて早く仲良くなりたかっただけなのかもしれない。


「もうあんな真似はしないから、ドアを開けてくれないか?」

「じゃあ、私のお願いを何でも言うことを聞いてくれる?」

「ああ、俺にできることなら、なんでもやってやる」


まあ、できることなら・・・・・・・と答えたので、無理そうなら断るだけ。嘘はついていない。


「じゃあ、これで目隠しをして」


真っ暗な部屋から白い手だけが出て、廊下にいる俺にマフラーを手渡した。

小唄に言われたとおり、受け取ったマフラーで目を覆うように巻く。

なんで目隠しをするんだ?

もしかして、さっきまで泣いていたのか?

泣いて、目の下にクマが出来ていてそれを俺に見られたくないとか。


「やったぞ」

「……手を出して?」


小唄に手を引かれて、部屋の中に入る。

ベッドに腰を下ろされると、仰向けに寝るようにお願いされた。


「おにいちゃん、両手をあげて」

「こうか?」

「カチャリ」

「──んなっ!?」


両手首を同時に冷たい金属の輪っかを嵌められた。

感触からして手錠。

手錠の鎖の部分はヘッドボードのパイプに繋げているかもしれない。

両手を下げられなくなってしまった。


でも両足は自由なので、暴れたら目隠しくらいは取れるかもしれない。それに最悪、大声を出せば1階にいる両親が気づくだろう。


「クロロホルムって、そんな簡単に眠らせたりできないって知ってる?」


おいおい何を言ってるんだ小唄は?


「■■■■■って、犯罪にも使われるんだよ」


なにそれ? 初めて……聞い……
















あれ……俺、寝てた?

口と鼻を布のようなもので押さえられた後、意識が無くなった気がする。


両手は自由になっていて、目にバスタオルだけが巻かれている。

バスタオルを外すと部屋が真っ暗でなにも見えない。


起き上がろうとしたら、俺の左足にあたたかい何かが乗っているのでどけた。

今の感触って……。


ベッドの奥、左側の方に手を伸ばすと「ムニュ」と嘘みたいにやわらかい何かを触ってしまった。


──ッ@#!$%&!!!??


ななななんだ今のは!?

いやいやたぶんアレだ……。


知らないフリはよせ! 清宮啓楽!!

おまえは触れたことはないはずだが、その存在は知っているはずだ。


今のやっぱ、アレ・・だよな?

起き上がって、二回足の指を物にぶつけて激痛に耐えながら、なんとかドアを探し出し、部屋を出た。


なっ、なぁぁぁぁにぃぃぃぃ~~~~っっつ!?


俺、全裸、だと?


全裸である意味とは? 

いやいや──考えたくもない。


あと怖くて振り向けずに小唄の部屋のドアを閉めた。


前を両手で隠し、急いで自分の部屋へと戻った……。




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