第11話 搾取者
「今日は私たちの約束の日であろう。忘れるとは」
入ってきたのは、以前あたしに小刀を突き刺した白デブと一番エラそうなジジイ二人だった。
飛び起きたマテウス様の身体が強張って緊張していくのを感じてあたしはその二人がマテウス様の身体を弄んだ男たちだということに気付いた。
「副修道院長様、レオン様」
「おやおや」
力ない声で返すマテウス様に白デブが近づいてくる。
え。まさか、この白デブの名前がレオンなの?
なにそれ、似合わなすぎ。
「マテウス。まさか、お前の男根がまともになったのではなかろうね」
白く太った醜いライオンはあたしのマテウス様におもむろに寄って、あろうことかマテウス様の股間に……股間に手を伸ばした。
「ふん、なんてことはない。変わりなく生気のない代物だ」
なんてことすんのよ、デブ!
あたしすら触れていない神聖な場所を!
「私たちへの奉仕の日であるのに、魔女につきっきりでもしや、女犯の快楽に目覚めたのではないかと勘繰っていましたが、その心配はなさそうですね」
ホホ、と気持ちの悪い声で白デブが笑う。
「さしもの魔女の色魔術でもお前の不完全なものは役に立たないのですね。そうです。お前は私たちに与えられた美しくも汚らわしい獣なのですから」
「レオン様」
弱々しいマテウス様に向かって、白デブはローブから鞭を取り出し、そして振った。
ピシッ。
床を撃ったその音にマテウス様が怯えたように身じろぎした。
なにすんのよ、こいつ! 美しいマテウス様のお体に傷をつける気?
睨みつけたあたしの方に見向きもせず、白デブは鞭でマテウス様の顎を上に向けさせた。
「魔女の尋問を申し出たからと言って、私たちを忘れてはいけない。同郷の娘が魔女になって錯乱でもしましたか。魔女に同情は禁物です」
「この娘は魔女ではありません、レオン様」
マテウス様が細い声で告げる。
「魔女ではないと? 純潔の乙女だと?」
「ええ、そうです。彼女は処女で善良な村娘です。彼女を解放いたしましょう」
「なら、副院長にそう進言しなさい。跪いて」
白デブがホホホ、と笑った。
「お前の美しさで修道院の規律が乱れると心配し、お前を叔父のところへ返すと言った副院長に家には戻さないでくれと頼んだように。娼婦のように私たちに身体を投げ出して懇願したお前のせいで、私も副院長も罪を犯すことになったのですから」
なんですって?
あたしは目を見開いて彼らを見た。
美少年の身体を脅して奪ったも同然じゃない。こいつら、なんて酷い奴らなの。
「彼女を解放してくださいますか」
「お前の望み方次第です」
白デブの言葉にマテウス様は少し黙ったあと。優しい茶色の目であたしを振り向いた。
「目を閉じて。別のことを考えていて」
何するのマテウス様。
マテウス様は白デブの後ろにいたカラスのような痩せこけたジジイに近づくと跪いた。
え。やだ、ちょっと。やめて。マテウス様!
マテウス様はジジイのローブを捲り上げ奥に顔を埋めた。
しばらくしてジジイの吐息が聞こえてきた。
股のところにあるマテウス様の髪を握りしめ、目を瞑り眉をひそめている。
だんっ、だんっ!
あたしは足を踏みならした。
いやよ、そんなのやめてマテウス様!
でもマテウス様は振り返らない。
「大人しくしろ、魔女。見物であろう。あれがあの男の姿ぞ。場末の娼婦もかなわない」
足をふみ鳴らすあたしに白デブがにやにやしながら言った。
「魔女の前でまた行うのも一興。今宵は楽しめそうです」
「おお、可愛いマテウス。お前は可愛いぞ。淫らで従順な私たちの犬」
ジジイがかすれ声で呻いた。
暗がりなのに、彼らの肉の睦みあいが見えた。美しいマテウス様の口内を犯しているのは貧相な年老いたジジイで。見たくもないのに、ジジイが快楽に耽って悶えているのが目に入る。
マテウス様の頭が動くとともにじゅぽじゅぼ、と汚らしい音が聞こえて私は真っ青になって吐きそうになった。
信じられない。マテウス様、こんなことをずっと昔から続けてきたの?
本当に犬みたい。鎖に繋がれて飼われている牙のない犬みたい。
あのプレッツェルの君がこんなことを強いられていたなんて。
店で初めて彼を見た時から彼がこんな行為を続けてきたということにあたしは胸が引き裂けそうだった。
「お、おおおう」
ヌラヌラとした粗末な赤肉の棒が一瞬見えたと思ったら。
マテウス様が咳き込んだ。
「さあ、次は私です。魔女にもよく見えるよう、私のそばに来なさいマテウス」
気味の悪い感極まった声で白デブが叫んだ。
「私の前で尻を出しなさい。高く突き上げて」
顔を歪めてマテウス様があたしを見た。
「お願いだから、目を閉じて」
「何故ですか。魔女に見せなさい。お前の本質を。真の姿を。サバトの饗宴を」
苦しそうな表情でマテウス様は従って四つん這いになる。白デブがマテウス様のローブをせわしなく捲った。白くて引き締まったマテウス様の身体が現れた途端、あたしは心の中で悲鳴をあげた。何故なら、マテウス様の肌には無数の傷痕があった。あの鞭よ。その他にも色々なものでマテウス様は傷つけられたんだわ。
マテウス様のお尻に白デブはピンとたった自分のそれを押しつけるようにして、マテウス様の背中に乗りかかった。
「見なさい魔女。この美しい男が乱れる様を」
高い声でデブはマテウス様の後ろに手を回し、指を突っ込んだ。
「油を塗ってここを捏ねるとこの男はなんとも甘い可愛い声をあげるのですよ。全身で悦ぶのです。淫魔の雌犬同然です」
マテウス様は目を閉じたまま、眉間に皺を寄せた。
「ほら、鳴きなさい! いつものように。マテウス!」
白デブが興奮した声で、次にはマテウス様のお尻をたたき、粗末なそれをマテウス様のあそこに擦りつけた。
「欲しいんでしょう、これが。くださいと言いなさい」
苦悶の表情でマテウス様はその言葉を漏らす。
「……く、ください」
一気に白デブはマテウス様の中にそれを突っ込んだ。
「っ!」
マテウス様の身体がしなる。
「どうしました、ほらほら」
太った身体からは想像できないほど激しく素早い動きにマテウス様が揺れる。
「はあっ、はあっ、なんて淫らな男だ。私のこれを……っ、絡みつくように弄んで……熱くっ、ねっとりと離さないっ……なんて貪欲な身体なのです、お前はっ……こうやって何人の男を飲み込んできたのです!」
はあっ、とマテウス様が声を漏らした。
その顔は苦痛に耐えているようにも快楽に咽ぶのを我慢してるようにも見えた。
「あ、あ、あ」
「ほら、鳴きなさい! 魔女に聞かせるがいい。その鳴き声を」
「あ、ああ……!」
マテウス様が我慢できずに漏らす声は明らかに甘美で快楽を味わっているのは確かだった。
「フラン……お願いだ。私を見ないでくれ……」
閉じたマテウス様の目から涙が零れおちるのを見て。
あたしは壊れた。
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