第7話 生殺しの清拭
胸の先の切ない疼きにあたしはお腹の奥が甘く震えて、再び火がつき始めたのを感じる。
いやらしい気持ち全開。
薄目を開けるとあたしのお腹を拭っているマテウス様の頭頂部が見えた。
そこだけむき出しの剃髪した丸い地肌から体温が伝わってくるようで私には妙に色っぽく感じた。修道士様の髪型ってなんだかエロいわよね。
マテウス様の手が横腹に来たから私は身体を跳ねさせた。
だめなの、あたし。横腹は触られると擽ったくて。
「ふふ」
我慢出来ずに身をよじって笑う私の身体をマテウス様は追いかける。
「こら、直ぐにすませるから」
後ろを向いたあたしの背中にマテウス様は手を伸ばして拭こうとするけど、それも擽ったくてあたしは身体を丸めてふふ、と笑いながら耐えた。
「擽ったかったかな」
笑いを嚙みころしながら振り返ると、マテウス様が微笑んでこっちを見ていた。
マテウス様の瞳から流れこんできた温かなものに、私は自然に笑い返した。
そのまま私たちは見つめ合った。
不思議。
あたしは魔女だと告発されて。
手は拘束されて板の上で寝かされて、上半身むき出しだってのに。
あたしはこの時間が幸せだと思ってる。
マテウス様からはあたしを性欲の対象と見ている気配は全くしなかった。
だから、あたしもマテウス様に穏やかな気持ちで笑みを返すことができた。
まるで私たち恋人同士みたい。プレッツェルの君と再会してこんな風に見つめ合うことが出来るなんて思ってもみなかった。
「続けよう」
その言葉に私は大人しく体勢を戻した。
清拭は今度はあたしの足先から再開する。
微かな明かりの中、マテウス様があたしの足指を丁寧に拭っているのを夢心地で観察する。
この人が本当に私の恋人なら。
修道士になってしまった彼とは決して叶わない夢を私は想い描く。
だってプレッツェルの君が私は大好きだった。毎晩、彼のことを考えて彼の夢を見たいと神様にお祈りしてからベッドに入ったことを思い出した。
貴方が好きで好きで。たまらなかったんです、マテウス様。
あたしのふくらはぎを上り、太腿をマテウス様の手が上る。ぞくぞくとゆるやかな快感がのぼりつめる。
臀部に手が触れたときあたしは吐息が出て、マテウス様に愛される自分を目を閉じて想像した。
「脚を開いて」
恋人の言葉にあたしは脚を少し開く。
シュミーズの下から滑り込んでくる手に身を委ねる。
夫か産婆しか触れない秘所に彼の手が触れる。
「んっ」
温かく湿ったものが彼の唇、舌だったなら?
淫らな想像にあたしは興奮して眩暈を起こしそうだった……。
ちょっと。マテウス様。
あたしは目を閉じながら眉を寄せた。
そこに時間かけ過ぎじゃない?
なんで?
執拗にあたしの脚の間を拭くマテウス様にあたしは身体の奥がジワジワせり上がってくるのを感じる。
早く終わらせて。
そんなにされたら、あたし。あ、グリグリしないで。
部分を何度も拭われて盛り上がってきたあたしはわずかに腰を動かしてしまった。
あ、だめ。自分から動かして擦っちゃう。
「ん……はぁ……」
や。前の小さな突起のところが擦れて。
気持ち良い。血と熱が集まっていく。
マテウス様。マテウス様……!
魔術をかけられた敏感なあたしの身体は一気に上りつめた。
「やあ……」
稲妻のような感覚があたしの身体を走り抜けて。
今まで感じたことのない大きな絶頂にあたしは身体をのけぞらせた。
マテウス様。
涙ぐんで目を開けるとマテウス様が驚いたように手を離してこっちを見た。
「すまない、泣くほど恥ずかしかったのか。本来ならば君の夫しか触れてはいけない箇所に私なんかが触れてはいけなかった」
焦ったように弁解する。
「その。拭いても拭いてもここが
それは。
あたしの身体が感じまくってるからです、マテウス様。
でも、教えてあげない。
泣きながら頷くとマテウス様はごめん、と小さく言った。
あたしはさみしさと悲しさに涙が出てきたんだと思う。
こんな行為をしてるのに、私たちは恋人じゃない。
あたしは今でも彼に片想いで恋していて。そして彼は昔どおりあたしに女としてなんの関心もないんだな、と思って。
あたしだけが飢えて、愛して欲しいと思ってる。想像の中で自慰同様に達しただけ。
惨めよね。
「下着を替えよう」
遠慮がちに言ったマテウス様にあたしはえぐえぐ泣きながら身を任せた。
恥ずかしい。すごく惨めで恥ずかしい。
シュミーズを抜き、マテウス様はあたしの脚から何かを通す。
布が肌を滑る感触がして。
一つはあたしのお尻と陰部を覆って。
一つはあたしの胸を覆った。
「……私の下着なんだ」
胸元を紐で結びながら、マテウス様が呟いた。
「悪く思わないで欲しい。女性の下着なんてここにはないし、どんなものか見当がつかなくて」
次には腰で紐を結ぶ。
これ。
私は陰部を覆ってる白いパンツを見下ろした。
とうちゃんがよく履いてる下着だ。
胸を覆ってるものもパンツだったけど、どうやら、パンツの股のところを切り離して短いスカートのようにしたみたい。
「洗濯済みだから」
ぶっ、とあたしは吹いて、そのあとクスクス笑った。
月経の時に似たようなパンツを履くことがあるけど。あたしたち女は男のように普段パンツを履かない。
安心したようにマテウス様がため息をついた。
「良かった、笑ってくれて。女性に泣かれるとどうしていいか分からなくなる」
毛布を再びあたしにかける。
「君の身体はまだ幼いんだね。体毛がまだ生えていないから少し驚いた」
思い出した。
あの猫悪魔。髪以外の私の体毛、本当に持って行っちゃったんだ。だからいつもより強くあそこの刺激を感じたのかしら。
「……もしかして女性は男のように股間に毛が生えていないものなのかな」
次には不安そうにあたしに問いかけるマテウス様。
あたしは意地悪心が持ち上がって、ゆっくりと頷いた。
「そうなのか。知らなかったよ」
素直にマテウス様が頷いたから、あたしは少々罪悪感を抱いた。
「君に淫らな気持ちを抱くことは私には無いよ。安心して欲しい」
マテウス様は桶を持ってあたしの傍らから立ち上がる。
「君を安心させるために告白するが。私は男として不能なんだ」
私は目を見開いてマテウス様を見上げた。
「男としての印が立つことはないし、固くなったこともない。昔からそうなんだ。だから、安心しなさい」
マテウス様はあたしに微笑んで言葉を落とすと、部屋を出て行った。
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