Column3 「あらげる」と「あららげる」の話

 今回は「あらげる(荒げる)」と「あららげる(荒らげる)」について取り上げようと思います。


     ☆


 皆さんは、「言葉づかいや態度を荒くする」(『明鏡国語辞典 第三版』より引用)ということを言いたいとき、「あらげる」と「あららげる」のどちらを使うでしょうか。


 辞書を調べたところによると、全体的には「あららげる」が本来の形とされています。

 例えば『明鏡国語辞典 第三版』の注意書きには、次のように記載があります。


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「あらげる」と言うこともあるが、本来は「あららげる」。

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『新選国語辞典 第十版』にも次のように記載がありました。


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「あららげる」が本来の言い方で、「あらげる」は近年使われるようになった語形。

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 しかしその一方で『三省堂国語辞典 第八版』には、上記の辞書とは反対の意見が記されています。


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 音が一つ落ちて「あらげる」とも。どちらの形も、江戸時代からある。

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『新選国語辞典 第十版』では「『あらげる』は近年使われるようになった語形」と書いてあったことを考えると、反対の意見であることが分かりますね。

 つまり『三省堂国語辞典 第八版』では「あらげる」も古くからの歴史があるため、「どちらが本来の形ということはない」ことを示しているのでしょう。

 実際『精選版日本国語大辞典』には、1718年(江戸時代)に使われた用例が記載されています。


 ただ、ここまでいつも引く辞書を引いてみましたが、『三省堂国語辞典 第八版』以外は「『あららげる』が本来の形」としているものがほとんどで、「あらげる」を俗語とするものや、中にははっきりと「誤用」と記している辞書もありました。

 江戸時代に「あらげる」が使われた用例があった『精選版日本国語大辞典』にも、単独の「あらげる」の見出しがあるものの、語釈には「『あららげる(荒)』の変化した語」とあるため、ここから考えても本流は「あららげる」ということなのでしょう。

 また、新聞でも辞書のこれらの傾向を踏まえて「あららげる」を使うようにしているようです。


『三省堂国語辞典 第八版』の内容は気にかかるものですが、ここまで「『あららげる』が本来の形」となると、やはり改まったところでは特に「あららげる」を使ったほうがよさそうです。


 ちなみに、令和三年度に文化庁が発表した「国語に関する世論調査」では、「あららげる」を使う人が12.2%、「あらげる」を使う人が79.7%だったようです。

 本来の形は「あららげる」ですが、人々が使っているのは「あらげる」ということですね。


 ここまで来ると「あらげる」が市民権を獲得するのも時間の問題のような気もしますが、果たしてどうなっていくのでしょうか。


 以上、「あらげる」と「あららげる」の話でした。

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